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第31回
ジョナサン・リッチマン&ザ・モダーン・ラヴァーズ
推薦盤「ROCK'N'ROLL with the MODERN LOVERS」

 ステージの私しか知らない人は私のことを怖いと思っている人も多いし、ステージ外の私を知る人は、私のことをやさしい性格と思っている人もいる。どちらが本当というわけでもなく、どちらかが偽りであるわけでもない。人生をなげているのか、と言われれば、間違いなくそうだろうし、じゃあ毎日自堕落に投げやりに生きているのかと言われればそうでもなく、365日あれば355日は働いている生活で、何もしていない時間というのはほとんどないばかりか、眠る時間も惜しいほどで、したいことは山ほどあって、こなしてもこなしても、自分のしたいことの数パーセントしか出来ていないことに、無力感を感じるのである。これは欲が深いのか、といわれれば、自分のためとか、お金とかにはてんで執着がなく、非常に希薄な、幻に近いような、かすかな希望の光を一瞬だけ、ほんの一瞬だけ信じているにすぎなかったりするだけのような気がする。だから、まず理解されない。近親者ですらそうだから、わずかな出会いしかない他人に理解されるわけもないから、こちらも説明しないもんだから、ますますわかってもらえない。でも、それでちょうど良いと思っている。
 

 こんな自分でも、やはり音楽に癒される時はあるもので、少し自分をさらすならば、自分が癒される1枚とすれば、このモダーン・ラヴァーズの「ロックンロール・ウィズ」をあげる。ジョン・ケールのプロデュース作を1stとするなら、これは3枚目にあたるアルバムで、バンドがロック色から脱皮した作品であるように思う。4枚目は初期モダーン・ラヴァーズの総決算的、5枚目でその後のジョナサン・リッチマンを決定づけるので、この3rdがなんとも不思議な位置にあるのも、気に入っている理由かもしれない。
 

 例えば、洗い立てのまっ白な開襟シャツを着て、初夏の晴れた日に、ふと散歩にでかけるような、そんなさわやかさ。ほとんど我々には縁のない世界だが、そういった世界への誘いが、このアルバムには、ある。アイスクリーム・マン、エジプシャン・レゲエ、クーマ......。こういったこのアルバムに収録された曲名を見るだけで、胸の奥底から締め付けられるような感覚を持つ人もいるだろう。おそらく1960年代に生まれ、関西に育ち、阿木譲刊行のロック・マガジンで音楽を学んだ世代なら、それは間違いない。そしてこのアルバムは、そういった世代には、おそらく我々がどんなに老いても、そしてどんなに心が荒んでも、ここに収録された音楽を耳にすれば、なにか、救われる、そんな音であるはずである。
 

 ジョナサン・リッチマンは5枚目の「バック・イン・ユア・ライフ」までで、それ以降はどうも好きになれないのは、どうしてだかわからない。アルケミー・レコードのLP第一作である「ウルトラビデ」のジャケットは、モダーン・ラヴァーズの「ジ・オリジナル」からいただいたものだというほど、このバンドを気持ちに残しているのに、いやはや、人とは、音とは、なんとわからないものであることよ。
 

 もうひとつ、ジョナサン・リッチマンと言えば、フジヤマのイベントで、すきすきスゥィッチの佐藤さんが、やはり開襟シャツを着て、最高のアイスクリーム・マン日本語版を、ラママのステージで演奏してくれたこと、一生忘れないだろう。今はもう歌うことをやめているらしいが、きっと彼も、このアルバムは、たまには聞いているのではないか。そう思っている。そう、思いたい。
 

JOJO広重 2001.12.31.



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