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第37回
ピーター・ハミル
推薦盤「IN CAMERA」

 この間3度目か4度目の来日公演を果たしたピーター・ハミルは、私が高校生のころからよくレコードを聞いていた、英国のシンガーである。おおよそラブソングではあるのだが、その歌詞の多さと、曲の複雑さ、こぶしのきいた歌声には、はまる人ははまるし、苦手な人にはまるでダメなタイプなのかもしれない。私ははまったほうで、たぶんヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター(VDGG)から入って、そして彼のソロを毎年楽しみにするリスナーになった。当時はプログレッシブ好きな連中でもピーター・ハミル好きはけっこういて、そう言えば雑誌フールズ・メイトも元々はVDGGファンクラブが前身だったと思う。
 

 ハミルの作品は非常に多く、VDGG時代を含めれば40枚以上にもなる。この多さも初心者がとっつきにくい原因にもなっているかもしれない。しかし、まあVDGG時代と平行して発表されていたソロアルバム群がファンにも評判がよく、1974年から1978年くらいに発表された作品は密度が濃い。http://www.ne.jp/asahi/t-oura/expo/progre/index.htmlから彼の作品リストが見れるので参考にしてほしいが、ソロで言えば「サイレント・コーナー&ジ・エンピティ・ステージ」「イン・カメラ」「ナディアーズ・ビッグ・チャンス」「オーヴァー」のあたりである。
 

 個人的に好きな曲は「ナディアーズ・ビッグ・チャンス」に多数あって、来日ごとにこのアルバム収録の曲が演奏されると、実は胸に染みていたりしているのだが、アルバムとしては今回紹介する「イン・カメラ」が一番完成度が高いように思う。特にアルバム1曲目収録の"フェリット・アンド・フェザーバード"の、不協和音からボーカルが湧き出る瞬間の美しさは、例えようもないほどの音楽の高みに達している。
 

 ハミルのことを突きつめてしまえば、ヘンテコな詩人であり、うなり声をあげるヘンテコなシンガーであり、似たようなアルバムを延々と発表し続けるちょっと異常なアーティストだろう。音楽家としての評価はもう定まった観があり、70年代に発表した作品群を超えるアルバムが出てくるとはちょっと思えない。かといって新曲は枯れることのない泉のように、心の奥底の深淵から次々と出てくるようで、これはやっぱり凄いと思ってしまう。
 

 ようするに、あきらめたり、さぼったり、じゃまくさがったり、他人のせいにしたり、病気のせいにしたり、心の弱さにしたり、逃げたり、隠れたり、裏切ったり、そういったやつには、手に入らないものがある。突きつめていうなら、やはり精神力である。そこに至ったもの、例えば形はイビツでも、このハミルのようなシンガーに出会うと、自分の精神力の弱さを恥じてしまうし、また明日からも生きてみようと思うための少しの励みにもなることは、やっぱり間違いないのだ。
 

 音楽をやめるのは簡単。生きるのをやめるのはもっと簡単だ。イージーゴーイングって、なんだったっけ?あれ?
 

JOJO広重 2002.4.1.



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