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第4回
タンジェリン・ドリーム
推薦盤「RICOCHET」

 タンジェリン・ドリームは所謂シンセサイザー・ミュージックをポピュラーにした70年代の立役者で、Ohrレーベル時代に「エレクトリック・メディテーション」「アルファ・ケンタウリ」「ツァイト」「アテム」という4枚のアルバム発表後、当時の新興レーベルであったヴァージンに移籍、「フェードラ」「ルビコン」というアルバムを出したころに日本でも急速に知名度が広がったドイツのバンドである。特に日本では"間章"という音楽評論家が小難しい解説で意味ありげに紹介したため、やはり意味ありげな人たちに人気が高かった。例えば横尾忠則が「タンジェリン・ドリームは僕のイマジネーションを喚起させる最高の導師(グル)である!」なんてやっちゃうわけで。実際、意味ありげなバンドだったわけで、秀逸なアートワークのジャケにアブストラクトでちょっとポップなシンセサイザーのインプロ・トリオの演奏は、泥臭いインドの瞑想音楽よりは未来的でかっこよかったのである。70年代半ばの話であるが。
 

 日本にプログレッシブ・ロックというジャンルの音楽が紹介された功績は、ヴァージンと間章、そして阿木譲にあると私は思っている。というか、レイドバックしていた日本の洋楽状況で、まともにプログレを良い音楽だと思って紹介していたのは上記2名だけだったように思う。そして歌詞がないインストであったこと、ファウストの音楽のように当時の日本のリスナーに難解な音でなかっったこと、そこそこ聞きやすいシンセ音楽であったこと、それでいて聞いていると自分がインテリっぽく思える音楽であったことが、タンジェリン・ドリームが日本で受け入れられた理由であるように思う。まあそこころそこそこ音楽を聴いているやつでも、マイク・オールドフィールドやタンジェリン・ドリームは知っていても、ファウストやスラップ・ハッピー、コウマスなんていう同ヴァージン所属バンドは無名に近かった。
 

 で、タンジェリン・ドリームも人気が凋落する。おおかたのファンの評価が高いのはこのライブ盤「リコシェ」くらいまでで、この後に出た「Stratosfear(邦題は成層圏)」がポップになりすぎたと言われ、アメリカツアーを収録した「アンコール」あたりでは『もういいよ』的にとらえられ、ボーカルをフューチャーした「サイクロン」では散々たる評価しか聞いたことがない。この後のタンジェリン・ドリームの作品評はろくに聞いたことがないし、日本盤も散発的にしかリリースされないし、やはり人気はあまりないのだろうと思わざるをえない。私もボーカルが入ったあたりでがっかりしたクチで、タンジェリン・ドリームは「アンコール」までかなー、と思っている。
 

 で、何が一番好き?と聞かれれば、この「リコシェ」をあげる。最初に出たライブ盤であるが、ライブである以上インプロであるのだけれど、3人の出す音のバランスが異常に良いのである。ノイズ音楽でもライブ演奏を複数で行う場合、そのバランス感覚が非常に微妙である。やはりイマジネーションの交錯する世界であるからして、お互いのバイブレーション、メンタルなテンション、心の状態がマッチしないと、本当におもしろい部分は表出してこないのである。その点、この「リコシェ」は秀逸だ。
 

 ある意味で、タンジェリン・ドリームのようなバンドはもう出てこないだろう。もちろん、エドガー・フローゼやアシュラ、クラウス・シュルツも現役だから、似た音は出てくるかもしれないが、彼らが演奏すること自体が懐メロとして聞かれること、正味の後継者がいないことは、大きい。こんなになんでも有りのような時代に、この「リコシェ」のような音楽を大マジでやっているミュージシャンなど、いないではないか。70年代にあんなに未来的な音だったはずなのに。
 

JOJO広重 2001.3.2.



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