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第42回
エルドン
推薦盤「ALLEZ TEIA」

 大学4年生の夏。就職活動なんてまるでする気のなかった私は、気のあう友人と、1ヶ月のヨーロッパ旅行に出掛けた。今の航空券バカ安の時代に慣れた方々にはわからないと思うが、当時はヨーロッパに行くのに「北回り」「南回り」があって、早く到着する北回りが値段が高く、インドなどを経由して行く南回りは安かった。貧乏旅行だから当然南回りのチケット。恐ろしく時間がかかってロンドンについたころにはぐったりしていた思い出がある。まあとにかく、ユーレイルユースパス、ユースホステルの会員証と10万くらいの現金を持って、ホテル代+食費で1日3000円以下、というテーマでヨーロッパを周遊した。1981年の夏。非常階段でブイブイいわしていた頃である。
 

 つまるところ、ユーレイルパスを持っている間は、深夜列車に乗っている時は宿代がいらないわけで、宿泊費をうかせるために列車にひたすら乗った。英国・ロンドンからベルギー、オランダ、デンマーク、スエーデン、船にもパスで乗れるのでフィンランドへ、そして列車に乗って一気にドイツ、そしてイタリア、最後はフランスという行程だった。当時はCDはないから、LPレコードを各地で買いつつのヴィニールジャンキーらしい行動。でもトランク満杯になったレコードを引きずりながらも、好きだったプログレの「現地」にいるだけで嬉しかった。ロンドンでホークウインドのシングル盤に歓喜し、ドイツのデュッセルドルフを通過しただけで感激し、イタリアで「CRAC!」と叫んだ。身体はクタクタ、一緒にいった友人とは途中で険悪な雰囲気になったりして、楽しいことばかりではなかったが、そこは若さでなんとかなった。
 

 旅先には小型のカセットレコーダーを持参した。目的のひとつは友人と現地でトークを行い、それを後日編集して仲間に配布するという「声の同人誌」の製作。当時はミニコミに寄稿するのが好きだったから、そのカセット版の制作はとても愉快だった。デンマークのイルミネーションの美しいチボリ公園にいながら、埼玉・東大宮にいる同人誌仲間の悪口を熱心に語るという意味の無さに、なにか妙にエキサイトしていたのを覚えている。ようするに、からっぽであればなんでもよかったのかもしれないが。
 

 もうひとつの目的は、好きなプログレの音楽をカセットテープで持参し、その現地で音楽を聞く、ということである。ロンドンではVDGGを、ドイツではクラフトワークを、イタリアではアレアを聞いた。フランスではクリアライト・シンフォニーと、このエルドンのセカンドをよく聞いた。
 

 エルドンはロバート・フリップへのリスペクトをそのまま曲にしたもの、またフリップそっくりなギターも登場して、当時はあまり正当に評価されていなかったように思う。日本で評価されはじめたのは日本盤LPも出たエッグ・レーベルの「スタンバイ」あたりからで、それでもそんなに評価の高いバンドではない。しかし今回紹介した「allez teia」は、本家キング・クリムゾンよりもさらに幻覚に引き込まれるようなメロトロンが聞ける。つまりはフリップ&イーノへのオマージュではあったのだが、もっと悪夢のような、へんてこな音楽に仕上がっていて、個人的にも長く愛聴盤になっている。またブートレッグではあるが、「コカインブルース」という75年のライブ盤も秀作。エルドンのホームページはhttp://membres.lycos.fr/heldon/ にあるので、興味のある人は参照のこと。
 

 ろくでもない大学生の青春旅行は、フランスで終わった。友人と気まずくなった末に聞いたエルドン。リチャード・ピナスのギターの腐ったようなうねりは、21才の刹那的なノイズギタリストにはセンチメンタルに、そしてボディブロウのように身に染みた。フランスはヘンな国だった。今でもそう思っている。マグマと、エルドンと、クリアライト・シンフォニー以外は、まともなロックはない。...あ、こいつらもまともじゃあなかったか。
 

JOJO広重 2002.6.20.



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