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第44回
ザ・デヴィアンツ
推薦盤「HUMAN GARBAGE」

 「人間のクズ」というアルバムタイトルをつけられたら、これはもう聞かずにはおれまい。現在流通しているキャプテン・トリップ盤のジャケットアートもたいがいだとは思うが、サイコ・レーベルから1984、5年頃に出たオリジナル盤のジャケットはもっとひどかった。デヴィアンツのミック・ファレン、MC5のウェイン・クレーマー、ピンク・フェアリーズのラリー・ウォリスというそうそうたるメンバーを集めながら、センスの悪いガラクタのようなジャケットに気持ちが萎える。さらに眉をひそめるのはそこに描かれたメンバーの写真で、逮捕寸前の江夏か、薬でボロボロになったダイナマイト・キッドか、はたまた大阪のミナミでゴロ巻いているチンピラか、といった、どう見てもまともじゃない奴らが、しかも"格好悪く"描かれている。バンダナは鉢巻きにしか見えないし、くたくたのシャツには汗がにじみ出してみっともないし、ステージは貧相だ。だからこそ、このアルバムを買わなくては、聞かなくては、と私は思ったが、....まあ普通はそう思わないだろう。
 

 つまりは、ロック・ヤクザ。いやいや、もうロックというよりも、サイケ・ヤクザである。この腐れ具合。これが日本サイケ市場・ロック市場には、ほぼ見受けられないのである。日本人は伝説が好きだから、ヤクザよりは伝説を選ぶ。酒に酔っぱらっても、ステージで暴れても、人を殴っても、アルバムを出さなくても、なんにもしていなくても、死んでも生きても、とりあえず"伝説"である。日本にもヤクザなヤツはいることにはいるが、格好悪いから、市場から抹殺される。キム・フォウリーとか、ラリー・ウォリスとか、こういう奴らがのさばるところに、英米のアンダーグラウンド音楽の奥の深さを見てしまうのである。
 

 線の太さ。現代のサイケバンドとか、ロックバンドが、どんなにヴィンテージのファズや、レアもののアンプを使ったところで出せないのが、この線の太さである。これは楽器ではなく、演奏者の神経のサイズの問題なのだ。これはやっぱり、むなしいことを数多く経験し、なおかつめげないで生きてきたヤツの特権なのである。所詮クズはクズだが、同じクズでもちっとは違うぜ、ということか。
 

 で、やっぱりラリー・ウォリスの曲が、良い。このアルバムでも「テイキン・LSD」「ポリス・カー」という2曲が白眉である。演奏はヘロヘロだし、音も悪いが、ごろつきロックのどす黒い臭いがプンプンただようヤクザソング。このラリー・ウォリスは、ピンク・フェアリーズとかUFOとかモーターヘッドとかを渡り歩いているが、どうも酒ぐせが悪く、つまりは"人間のクズ"らしいチンピラぶりをあちこちで発揮しているようで、まともにプロフィールを語られることは少ない男である。
 

 しかしこの「ポリス・カー」は、本当に格好いいロックソングの1曲だ。スティッフに1977年に残したシングル盤が原曲。10数年前サンフランシスコのヤバそうなバーでこの「ポリス・カー」を聞いた時、なんともたまらん気持ちになったことを記憶している。こんな気分は、そのサンフランシスコのバーと、80年代の終わりに大阪・西成にあったエッグプラントで、あべちゃん・カガミ・ミツ・オレンジというメンバーの「ツレ」というバンドのライブで、「なんにもかんがえない」という彼らのレパートリーを聞いた時くらいにしか、感じたことはない。
 

 ウソだってつくし、むかつけば殴るし、約束もたまには破るし、女くらいは泣かすし、酒も飲むからにはクスリだって打つだろう。ロックなんて、人間のクズが演る音楽だからな。でも、涙だってながすことも、ある。男なんて、そんなもんだろう。期待はするんじゃないぜ。でも、捨てたもんでも、ないぜ。
 

Larry Wallis/Police Car
 

JOJO広重 2002.7.22.



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