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第45回
クラーン
推薦盤「ANDY NOGGER」

 「カット盤」のLPレコードというものが昔はあった。今もあるかもしれないが、CDのカット盤はプラケースに穴をあけるという荒技が必要なためか、あまり見かけない。アナログ盤のLPレコードの時代、在庫を処分するために、問屋やメーカーが、LPレコードのジャケットの一部を切り取ったり、穴をあけたりして、故意にジャケットを傷つけることにより価値を落とし、安価で市場に流すLP盤がいわゆるカット盤だった。たぶん日本国内にはこのシステムはあまりなかったはずで、主に輸入盤で、70年〜80年代に、輸入盤屋で流通したものである。LP盤自体には傷はつかないため、安価でレコードが入手できる手段として、金のない若い時代には、このカット盤は重宝した。
 

 本当のことを言えば、コレクター気質であるから、ジャケットに傷がついているのは嫌だった。でもとにかく量を聞きたいため、カット盤と正規流通盤の両方があれば、とりあえずカット盤を買った。またカット盤でしか見かけないレコードもけっこうあって、いやおうなしにカット盤を手にすることも多かった。ESPレーベルのもの、ピーター・アイヴァースなんかは、70年代当時カット盤でしか見たことがなかった。
 

 カット盤には何か、悲しい雰囲気がある。売れると思って、売ろうと思って、売れるだろうと思われて、作品として作られ、流通し、店頭に流れながら、実際は売れなかったレコード達。ジャケットの傷は、まるで刻印のように、このレコードはダメな作品ですとお墨付きをいただいたような、哀愁が存在した。
 

 70年代、京都や大阪には「DUN」という輸入盤屋があって、ここはカット盤の宝庫だった。カット盤がところ狭しと大量に並べられ、玉石混合にエサ箱につっこまれているものだから、客は端から端まで丹念に1枚づつレコードをチェックしなければならなかった。でも、それはそれで楽しい時間だった。何時間いても、腰がいたくなっても、手先がねっとりとした埃と手垢にまみれても、まだ見ぬ名盤がこの山の中に埋もれているのではないかと思うと、店から出られなかった記憶がある。
 

 カット盤で死ぬほど見たという思い出の盤は、パールズ・ビフォア・スワイン、トム・ラップ、ジョジョ・ガン、そしてこのクラーンである。
 

 ドイツのバンド/クラーンのこの「ANDY NOGGER」は、なぜか米盤も出たようで、それがまた売れなかったようで、大量にカット盤が出回った。ジャーマンロック、コニー・プランクがエンジニアというだけで、なんだかブレインレーベルの実験音楽を期待させながら、実はやたらテクニックがあり、ファンキーで、ベーシストのポップなメガネに代表されるようにやたらポップで、それでいて管楽器メンバーが常駐しているという、この摩訶不思議なバンドの音は、全くと言っていいほど日本では評価されなかった。今ではキャプテン・トリップがやたらと日本盤を出すので、いちおう日本にクラーンのアルバムは流通しているが、いっこうに売れている様子も伺えない。
 

 つまりは、クラーンは頭が良いのである。そして頭が良い音楽は、日本では売れない。しかし、それでも、70年代後半にカット盤を買っていたプログレファンの家には、必ずと言っていいほど、この「ANNDY NOGGER」のLPがおいてあった。そして、なんだか幻想的な都はるみのような、本当に奇妙なジャケット・アートは、おそらく一生忘れないアルバムの1枚なのである。そしてクラーンの名誉のためにも一言記しておくが、このLP1曲目の「Stars」は、本当に凄い1曲である。
 

JOJO広重 2002.8.7.



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