Back to IndexColumnTopHomeAlchemy RecordsAlchemy Music Store



第48回
ジェネシス
推薦盤「SECONDS OUT」

 おおよそ、21世紀も少々過ぎて、こんな時代にジェネシスを聞く価値があるのかどうか、私にはわからない。もちろんジェネシスの熱心なファンにこんなことを言っては失礼なのは重々わかっているのだが、ピーター・ガブリエル在籍時のプログレッシブロックの代名詞のようなサウンドも、後期のやたらポップで世界的に売れてしまった経緯のあるサウンドも、どちらもこの21世紀にはなんとも似合わない、暢気な音楽に聞こえてしまうのは、どちら側に立っても不幸な話である。
 

 私が中学生のころに、プログレッシブロックというジャンルをお知えてくれた師匠のような、当時徳島在住の高校生・O氏が、ピンク・フロイドやクリムゾン、VDGGについでお知えてくれたのがジェネシスだった。たぶん「幻惑のブロードウェイ」が発売されるか、発売寸前の時期であったから、1973年か74年だったと思う。もちろんその後は過去作品を遡って聞くわけで、当然のように「フォックストロット」や「怪奇骨董音楽箱」は愛聴盤となった。英国特有のなにか暗さのような、それでいてファンタジックなジャケットと凝ったサウンドは、なんとも不思議な感じがして、どうしてこういったサウンドをクリエイトするに至ったのか、随分謎だった。歌詞を研究してもいっこうに謎は深まるばかりで、ピーター・ガブリエルは天才ではないかと当時は本気で思っていたものだ。
 

 だが1974年にガブリエルは急遽ジェネシスを脱退。ロックバンドで看板ボーカリストが脱退後、新ボーカリストを加えないで、ドラマーがボーカルをとるなんていう離れ業は、このジェネシスのケース以外に聞いたことがない。その後、ドラマーのフィル・コリンズが世界的に売れるボーカリストになったのは周知の通りで、いったい何がどうなるかわからないというのはこのことである。一般にはあまり騒がれてはいないが、私はロック音楽界最大級の珍事だと思っているが、どうだろうか。
 

 プログレ・ファンには、ガブリエル脱退後のジェネシスはあまり評価されていない。で、デュークやアバカブ以降のポップなジェネシスを愛好する面々には、70年代のジェネシスは受け入れられていない気がする。つまりガブリエル脱退後、ポップ路線に至るまでの時期、アルバムで言えば「トリック・オブ・ザ・テイル」から「そして3人が残った」までのスタジオ盤3枚と今回紹介するライブ盤は、どうもどちらからもまるで評価されない作品群であるようだ。
 

 しかし、私はどうもこの時期のジェネシスの作品が好きでならない。もちろん「月影の騎士」も「幻惑のブロードウェイ」も愛聴したのだが、なにか全肯定はできないものの、どこかひっかかるのが、この時期のジェネシスなのである。中途半端と言えば中途半端、しかし新しい息吹と、過去の作品への愛着が一体となったような、たとえばこの2枚組ライブで邦題が「幻惑のスーパーライブ」という、これまたなんとも付けようがなかったのか?と赤面してしまいそうなタイトルの、この作品に収録された音源は、それこそなんとも言えぬ温もりが存在する希有なアルバムなのである。
 

 このアルバムは、何もすることがないような時間に、小さな音で聞くと、たまらなく心地よい。70年代をなにかで過ごした世代にしか、通じないセンスかもしれないが。
 

JOJO広重 2002.9.30.



PageTop
Back to Index


Mail to us Mail order