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第5回
スティーヴ・ハーレイ
推薦盤「FACE TO FACE」

 ノイズ演奏者がノイズ音楽ばかりをプライベートで聞いているわけではない。パンクロッカーがパンクばかり聞いているわけでもない。例えば今回取り上げたステーヴ・ハーレイという英国のシンガーは私も好きだし、原爆オナニーズのタイロウ氏も熱心なファンである。この感覚がアルケミーというレーベルの本質をついている気がする。だからノイズっぽいデモテープを送付されて『JOJOさんには気に入ってもらえると思う』なんて言われると、とても気持ちがおちこんでしまう。短絡的な考え方、つまりメルツバウや非常階段のアルバムを出しているレーベルだからノイズの演奏が好きだろうという程度の発想がいかに貧弱であることか。バックグラウンドに表出しない素養があってこそ、表だった部分に深みがでるのである。私がアルバムで「死にたい」と叫べば、"JOJOさんは死にたいと思っている"ということになるのか?それともJOJOさんは社長だから"死にたい"と叫んでいても実際には信用できないと思うのか?安直な意識が安直な行動を生む。
 

 だからこのスティーブ・ハーレイのような音楽は、日本ではあまり受けない。70年代、グラムロックの末期に出現し、グラムの延長とか、プログレとか、はたまたデカダンとかいう見出しで日本には紹介された「コックニー・レベル」のリーダーであったスティーヴ・ハーレイ。つまりどのジャンルからも差別された存在で、どこかに属さない音楽は日本では多くのファンがつかないことが多い。私が学生の頃に一緒に音楽を聴いていたメンバー、オーバンというバンドを演っていたTくん、コンチネンタル・キッズのギタリストだったきっちゃん、Idiotくん、そして前出のタイロウくん、これくらいしか私はスティーヴ・ハーレイのファンを知らない。まあ近年、映画「ベルベット・ゴールドマイン」で挿入歌やエンディングにスティーヴ・ハーレイの音楽が使用されたこともあり、少しは認知が広まったかもしれない。その程度である。
 

 しかしこの間、沢口みきさんが偶然スティーヴ・ハーレイの音楽を耳にした時、「この投げたような歌い方、いいですね」と一瞬で気に入ってくれた。それは「The Best Years Of Our Lives(邦題・我が人生最良の時)」で、哀しみに満ちたハーレイのボーカルに魅入られるのは彼女のような繊細な感覚を持った人なんだろうな、と思った。もちろん「Make Me Smile」「Mr.Soft」といったポップでコミカルなチューンもあるわけで、それでいて失恋的な重い歌詞世界を演じている、その二重性を楽しめる感覚、アイロニーを理解できるには、やはり短絡的な感性ではだめなんだろうと思う。
 

 この全盛期1976年のライブ盤は、私は当時二枚組LP国内盤で購入した。邦題は「もうひとりの幻影」。しかしおかっぱのようなハーレイの写真がどうひいき目に見ても格好悪く、私はそういった部分も含めて好きだったが、一般にはうけなかったように思う。しかし内容は熱心なファンの声援に支えられた名曲オンパレード。スティーヴ・ハーレイ&コックニー・レベルのベストライブが収録されている。長くオランダ盤のCDしか流通していなかったが、近年英盤が発売され、安価で流通している。
 

 評価が低い音楽がつまらない音楽であるとは限らない。売れている音楽が良い音楽であるとは限らない。誰かが褒めたから良い音楽とは限らない。誰かがけなしたからおもしろくない音楽とは限らない。格好悪いから格好悪いとは限らない。格好良いから格好良いとは限らない。一切の評価を無視して、自分の耳にて耳を澄ませよ。
 

JOJO広重 2001.3.16.



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