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第52回
ウルトラビデ
推薦盤「THE ORIGINAL」

 意味がよくわからない、というものは否定される時代のようである。こういう時代もいつかは変わるのだと思うが、なんでもわかりやすい時代であるので、安易に理解できないものは無視、もしくは抹殺されるべきであると、まるで小学生や幼稚園児の頃から脳味噌に刷り込むように教えているようで、まあ、ちょっと意味不明のもの、理解しにくいものは、たいがい嫌われる。こんな時代に、例を上げればバロウズの「ノヴァ急報」なんて、きっと誰も読まないし、読んでも誰も理解できないのかもしれない。はてさて、例えば2002年に、サンリオSF文庫版でもペヨトル版でもいいが、「ノヴァ急報」という本を入手し、読んで、ああおもしろかったと言う日本人が、ひとりでもいたのか?これは阪神タイガースのファンで、カツノリのファンはいるのか?と訊けば笑ってもらえるのかもしれないが、そういう問題ではなく、笑えない話である。
 

 いやいや、今回はノヴァ急報の話ではない。意味のないもの、理解不能のもの、それでいて、なにか心の奥底から笑いがこみ上げてきたり、もしくは感情をゆさぶられたり、自分の普段は気がつかない部分を撫でられたような、そんな音楽。私はこういった音楽をいくつか知っているが、自分が関わったものでは、やっぱりウルトラビデが最も秀逸であったと思う。
 

 1978年に私とHIDE(当時はBIDE)、TAIQUI、コウイチロウの4人が出会い、そして1979年の1年を過ごした、このウルトラビデというバンドは、今思っても、存在自体がなにか稀なバンドだった。例えば、当時の同期生であったINUやアーント・サリーやSSやアルコール42%は、まあパンクバンドであったが、ウルトラビデにとってはパンクというのはキーワードであって本質ではなく、フリージャズでもプログレでもノイズでもなく、まあ簡単に言えばヤヤコシイ、今風に言えばワケワカランというバンドだったし、音もそうだった。この初期音源で、どちらかと言えば歌もの中心にセレクトされ、1984年にリリースされた「THE ORIGINAL ULTRA BIDE」にしても、2003年1月リリースの、インプロ中心にセレクトされた「IMPROVISATION ANARCHY」にしても、当時も今聞いても、ワケワカランのである。
 

 ようするに、1度も「わけのわかる」音楽を、ウルトラビデは演奏しようとしなかったのではないか、ということがうっすらと見えてくる。誰も想像しえないようなオリジナルな音を作ろうと意気込んでいたわけではないが、どうせオレらのことなんかお前らにはわからんのじゃ、という線と、じゃあ何のために人前で発表するのか、といった線の、ギリギリの境目で演奏していたことは、少なくとも当時、私は感じていながら演奏していた記憶はある。ただ、明らかに堂々と演奏していたが。
 

 それにしてもHIDEのボーカルには恐れ入る。例をひとつあげるなら、「裏口を叩いてコミューンしましょう」とは、一生かかっても謎が解けないキーワードである。バロウズやセリーヌなんざ読んでなくても、さっさとその先を提示出来たのは、あれから25年たった今でも、ウルトラビデだけだったように思う。そして「IMPROVISATION ANARCHY」という21世紀になって出た音源ですら、やっぱり早すぎるのか、それとも時代が後退しているのか、どのせいかはわからないが、未だに通常の理解力を超えている音であることは、やはり自分でもおもしろいのである。理解できない、意味が見えない、その上での面白みこそ、極上の愉しみであると思うのだが、はてさて。
 

 この「THE ORIGINAL ULTRA BIDE」は1984年8月に、アルケミーレコードの最初のリリース作品としてLPレコードの商品として500枚プレスで発売された。2002年夏に行われた関西NO WAVEフェアの景品としてCD化され、350枚が無料で配布された。350分の1枚のCDは、私が冥府に行く時に持参し、コウイチロウに手渡す予定である。
 

「IMPROVISATION ANARCHY」
 

JOJO広重 2003.1.8.



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