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第53回
ファウスト
推薦盤「FAUST IV (廃墟と青空)」

 洋楽の日本盤に、日本盤だけに原題とは違うオリジナルなタイトルが付けられることは最近はそうそうないが、70年代末くらいまでは普通にあった光景だった。今にして思えば、どうして作者の意図とは関係ないタイトルを作品につけて流通させることが堂々とまかりとおったのか、ということになるが、映画や出版の世界では今でもそういう習慣が残っている。それに例えばピンク・フロイドの「THE DARK SIDE OF THE MOON」というタイトルは「ザ・ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」よりは、やっぱり「狂気」というタイトルが、日本人には今でもしっくり来ているのではないか、と思うとともに、阿木譲ではないが、「WISH YOU WARE HERE」がどうして「炎」なのかは今でもわからないし、やっぱり「A MOMENTARY LAPSE OF REASON」が「鬱」というタイトルでは、なんだか笑ってしまう。それに、まあありえないが、私のソロアルバムの米盤がでて、「このまま死んでしまいたい」が例えば「despair」とかつけられていたら、やっぱりイヤだなあ、とか、思うのである。
 

 しかし、見事な邦題というのはあるもので、先のピンク・フロイドの「狂気」、キング・クリムゾンの「太陽と戦慄」などは、もうそれ以外にイメージ不可能なほど象徴化してしまっているタイトルである。「狂気」と聞けば「虚空のスキャット」が脳裏に浮かぶし、「太陽と戦慄」と聞けばフリップのギターリフがどこかから聞こえてくる。しかしカンの「LANDED」は"上陸"ではなく「闇の舞踏会」だし、ノイのサードは「電子空間」で良いのだと思ってしまうのは、タイトルが良いというよりは、もはやロック・マガジンのトラウマのようなものである。でもそう思う輩も多いようで、輸入盤にオビがつけられたり、日本盤が1度廃盤の後に再発される時も、前回の邦題を踏襲することが慣例になっているのも、やはり邦題になにか意味とか郷愁とか、原題とは別の価値が付随しているのであろう。
 

 このドイツの頭良さげなプログレッシブ・ロック・バンド、ファウストの4枚目には「廃墟と青空」という邦題が付いている。といってもこの邦題は1970年代に、日本コロムビアがどっとヴァージンのプログレッシブ・ロックをLPレコードでリリースした時に付けられたもので、どういうわけかその後この作品は日本盤が発売されない。輸入盤で安価で買えるからそれでも買って聞いていろ、というのが日本のレコードメーカーの態度であるから、ファンの心理をわかっているディスク・ユニオンが、わざわざ「廃墟と青空」のオビを作成して輸入盤に付属し、プログレ館で少々高いお値段で売っている姿が良心的にすら見えるのである。
 

 それにしても、このそっけない五線譜の、「FAUST IV」というこれまたそっけないタイトルのアルバムに付けられた「廃墟と青空」というような、今でも通用するような感覚の邦題。この命名が日本コロムビアのヴァージンレーベル担当者でも、ライナーを執筆した間章でもかまわないが、おそらくサウンドを聞いてこの邦題を思いついたのは間違いないだろう。そしてこの邦題から中味を期待して購入しても、ウソではない。
 

 90年代後半に復活したファウストの活動には賛同できないが、やはりこのアルバムに収録された全ての曲は、ゾッとするくらいに鋭利である。寒い。そしてこのアルバムを聞く時、「廃墟」という言葉と「青空」という言葉からイメージすることにより、まだ救いを見いだせるほどに、なにか心の涯を見透かされているような音の洪水によって、いつもいつも心を洗われるのである。傑作アルバムというのはこういうものだと思う。
 

 私のソロの音楽が「廃墟と青空」という言葉の本当の意味を教えてくれた、と評してくれた友人がいたが、私の歌などたかだか"IT'S A BIT OF PAIN"である。青空は、まだない。
 

JOJO広重 2003.2.4.



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