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第54回
ファビオ・フリッツィ
推薦盤「REQUIEM in BLOOD」

 何に対して絶望し、何に対してかすかな希望を抱いているのかはまだまだ明かせないが、諦観にも似た、どこか120%俯いている自分に対して、それを肯定してもよいのだという音楽や小説、映画に惹かれるのは、これは真実だろう。自分の書棚、CD棚、DVD棚を見ても、おおよそ脳天気に明るい作品は数本で、重め、やや重め、暗め、やや暗めなものが大半である。だから他愛のない友人が遊びに来た時、簡単にBGMに出来る音楽や、スナックでもつまみながら見る映画などがなく、ちょっと困る。
 

 映画に関しては、非常階段の初期メンバーのほぼ全員がホラー映画ファンであったこと、友人が映画監督だったこと、80年代初頭に渋谷でビデオショップを経営していたこともあり、けっこういろいろな作品を見る機会に恵まれた。1番多く見たジャンルはホラー映画であったかもしれない。ビデオソフトの爛熟期には有象無象のホラー映画が大量に日本でも流通したため、名前だけは知っていても見る機会のなかったB級映画に数多く出会えたのは、駄作は駄作としても、それはそれで愉快であった。ハーシェル・ゴードン・ルイスにも、ルチオ・フルチにも、テッド・V・マイケルズにも、近所のレンタルビデオ屋に行けばいくらでも出会えたのである。現在のレンタルビデオ屋がどういう実状なのかはまるで知らないが、おおよそそういう環境ではないような気がする。
 

 ホラー映画でフェイバリットは「悪魔のいけにえ」であったが、監督ではルチオ・フルチの作品を長く愛している。ご多分にもれず、「サンゲリア」('79)から「マンハッタンベイビー」('83)までの、制作ファブリッツオ・デ・アンジェリスとのコンビを組んでいた時期が、フルチの作品は出来が良いため、私にとっても「墓地裏の家」「地獄の門」「ビヨンド」といった作品は、昔も今も大好きである。特に「ビヨンド」は、向こう側、つまり冥府を意味しており、そのエンディングの渺茫たる映像の美しさには深く感銘を受けた。もし未見の方がおられたら、今ではDVDも出ているので、1度見ていただきたいものである。
 

 さて今回紹介するアルバムは、どうもフルチの熱心ファンが作った海賊盤のようだ。おそらく各映画のサントラも出ているのであろうが、私はなんとなく音の悪いこの「ビヨンド」と「地獄の門」の2in1のCDを愛聴している。サウンドトラックは、クラシック音楽とイタリアン・プログレをミックスしたような音調で、チープなサウンド構成でありながらも、なんともいえない終末感を漂わせていて、絶望こそが実は救いの発端であるような、そんな希望を抱かせる。こういうサウンドは映画のサントラでしか聞けない種類の音楽である。ゆるく、ゆるく、静かに、落ちていく感じ、と言えば、わかる人にはわかってもらえそうだ。
 

 この「ビヨンド」「地獄の門」はもちろん、ルチオ・フルチの映画の音楽をいくつか担当したファビオ・フリッツィは、実はイタリアン・プログレの雄、イル・ヴォーロのキーボード奏者ヴィンチェ・テンペラの変名であるという情報もある。それが事実なら、自分の感性が選択した映画と、若き日に愛聴していた音楽との接点があったことになり、なにかフロックな喜びである。
 

JOJO広重 2003.3.14.



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