Back to IndexColumnTopHomeAlchemy RecordsAlchemy Music Store



第59回
PLANET GONG
推薦盤「LIVE FLOATING ANARCHY 1977」

 酒を飲むのは、若い頃からあまり好きではなかった。もちろん、仕事をした後のビールはおいしいと思うし、洋酒にしても日本酒にしても、それなりにうまい/まずい/辛い/甘いくらいはわかる。興味がないにしても、ナパバレーのワイナリー探訪はおもしろかったし、シャルドネの味くらいは知っている。気のおけない仲間との居酒屋に行くのは楽しいし、ひとりで好きなバーに行くことだってある。
 

 ただ、酒が好きか、と聞かれれば、好きではない、と答えてきたし、今でもそう思う。理由は、酒を飲むことが、なにか現実逃避的な、気分を誤魔化すような行為に思えてしかたなかった時期があり、今でもなんとなくつまらなく思っている原因になっている。同じような理由で、ダンスとか、宴会とか、ドラッグとかも、好きになれない。
 

 例えば普段は内気な人が酒の力をかりてようやく話をしたり、なにかを出来たりすること、例えば酒が入ったとたんに嫌な性格が出ること、酒の席だからということで無礼講になったり、暴言や暴力が許されたりすることも、やはり嫌な思い出になっている。他人も、自分も、今はもういない友に対しても。
 

 つまりは何かから逃げる自分が許せない?何かで誤魔化したくない?正直に人間と対峙したい?いやいや、そんな聖人君子のような事を言うつもりはない。酒の力を借りなくても、逃げたことも、誤魔化したことも、不誠実であったことも、たくさんやってきた。しいて言えば、酒のせいにしたことはない、という程度で、俗な人生以上に不誠実なことにまみれてきた気がする。そういう自分は疎ましい。だから逃避するような飲み方は、もうしない。その程度のことである。
 

 同じような理由で、10代のころ好きだったプログレとか、サイケデリックな音楽を、20才くらいから、それほど真剣には好きでなくなってしまった。シンセサイザーやギターのうねりに陶酔して聞き入っている自分が、ようするに逃避しているだけであることに気がついたからである。夢中にはなれなくなったが、その分、今まで以上に多様な音楽が聴けるようになった。くだらなく思えていた音楽も、なさけない音楽も、しょーもない音楽も、聴ける。ただ、くだらない、なさけない、しょーもないヤツがやっている音楽は、どんなにテクニックがあっても、感性が優れていても、本気では許せないようになった。
 

 ゴングもピンク・フロイドもホークウインドもそうだが、幻想的とか、浮遊感とかいうサウンドを売り物にしているサウンドは、たいがいは詐欺である。トリップなんて現実逃避の最たるものだし、幻想屋という商売にすぎない。音楽ではなにも出来ないことを証明するような音楽である。
 

 ただ、良いものも、ある。それは幻想屋をやめた時とか、ふとマジになった時とか、何かのきっかけとか、どこかから突き上げてくるようなエネルギーが湧き出た時に、おこる。大げさに言えば神降臨、簡単にいえば、ちょっといいね、という音楽である。
 

 ゴングは「ラジオ・ノーム・インヴィジブル」3部作が評価されているが、私なんかはヒア&ナウとアレン&スマイスが合体したプラネット・ゴングのライブ「フローティング・アナーキー'77」のほうがいかしていると思っている。ゴングには「これをゴングと言っていいものか」と思うような作品が多数あり、このアルバムもそのうちの1枚であるが、チャーリーというレーベルから廉価盤で出た時に、京都のジャンク・ショップというレコード屋で買ったこと、家で聞いて妙にパンキッシュな気分にさせてくれたことを覚えている。今CDで流通している白い色のジャケットよりは、適当に毒々しいカラー版ジャケのほうが好きだ。
 

 ヴァレンタインを好きなヤツよりは、トリスを好きなヤツのほうが、少しは信用できる。そんなようなものだ。まあ、「少し」だけれども。
 


 

JOJO広重 2003.7.22.



PageTop
Back to Index


Mail to us Mail order