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第6回
ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター
推薦盤「STILL LIFE」

 ずっと聞いている音楽がある。私は1959年生まれで、自分の意志でレコードを買ったりして音楽を意識的に聞きだしたのが1972年頃から。それ以前は4才年上の姉が、GSからフォークソング、洋楽まで、様々な音楽を聞かせてくれていたが、熱心に聞きだしたのは中学生になってからだった。ここでいうずっと聞いている音楽というのは、昔の一時期熱心に聞いていたとか、聞いたり聞かなかったりというブランクがあった音楽ではなく、当時も、その後も、今も聞いている音楽のことである。私にとっては佐井好子、そしてピーター・ハミルという2人のシンガーの歌こそが、ずっと聞いている音楽だと言える。
 

 佐井好子はアルバム4枚、それに引き替え、ピーター・ハミルは数十枚ものアルバムをほぼ毎年発表し続けている。ハミルについては英国はもちろん、日本にも熱心なファンが多く、詳細な研究を施したホームページも多いので、資料的な部分はそちらを参照していただきたい。参考までに→ http://www.ne.jp/asahi/t-oura/expo/progre/t1010.html
 

 ハミルはヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター(略・VDGG)というバンドで1969年から1970年代に活動している。当然私もこのバンドの時にハミルに出会ったのであるが、1975-76年、バンドとしても充実していた時期に発表された3部作のアルバム「ゴッドブラフ」「スティル・ライフ」「ワールド・レコード」を同時代に体験できたのは今でも嬉しく思っている。20代のハミルによる熱いテンションの演奏とセンチメンタルな歌詞、絶叫にも似た比類なきボーカルは、10代の私には難解でもありながら、圧倒的に引きつけられる魅力に満ちた演奏だった。私は宗教になどかぶれたことは1度もないが、例えばハミルの信者であるかときかれれば、そうでないとは言い切れない。それは10代の時にVDGGを聞いてうけた感銘が今も尾を引いている証拠であり、その後に発売されるハミルのソロ作品も追っている行動に端的にあらわれている。
 

 しかしまあ、ハミルの全部の作品を盲目的に肯定しているわけではない。やはり80年代後半からのソロ作品には今ひとつのめりこめなくなってきていて、『ずっと聞いている』のは、1970年代に発表された作品のほうだ。そしてVDGGなら、かなり静かな作品である「スティル・ライフ」がフェイバリットである。どの曲も愛聴しているが、最も好きなのは「マイ・ルーム」という、LPではB面に収録されている作品。この曲名にはいろいろな思い出があって、やはり自分の10代のなんとも切ない記憶とまじりあっている。それは友達と作ったミニコミであったり、熱く語り合った下宿館の風景であったり、それこそ自分の部屋でひとりだけでレコードを聞いた時間であったりする。つまり「スティル・ライフ」は、私にとっても凝縮された70年代の静物画であるわけで、このアルバムを聞く時は自分の時間である気がする。
 

 3月9日にピーター・ハミルの3回目の来日公演を見た。50代にしてはあまりに老けている容貌、そして衰えていない歌声。終わることのないハミルの歌、言葉。おそらく死ぬまで彼は歌い、私も死ぬまで彼の歌を聞く。自分にとっての音楽が、ノイズが、言葉が、死ぬまで自分と対峙し続けるものであるためにも、である。
 

JOJO広重 2001.3.20.



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