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第62回
KEVIN AYERS
推薦盤「RAINBOW TAKEAWAY」

  ケヴィン・エアーズの魅力を知る人には、何も言わなくてもわかる人がほとんどで、彼を知っている人はたいがいは悪くは言わない。こんなにいいかげんそうで、ドラッグとは縁もゆかりも深そうで、アバウトそうなヤツなのに、こんなに愛されるシンガーも珍しいのではないか。ソフト・マシーンのオリジナル・メンバー、カンタベリーの軸、いやいや、嫌なことがあるとスペイン・マジョルカ島に逃避する吟遊詩人。どれもそうだけれど、どれもどうでもいい気がする。ケヴィン・エアーズのような歌手は、他にはいないのだ。ようするに。
 

  じゃあ、実際はと言うと、ケヴィン・エアーズのアルバムは、まったくと言っていいほどハズレがない。私もライブ盤やブートレッグのすべてを聞いたわけではないので、実際は大きな口はたたけないが、まあスタジオ盤ならどの作品も推薦盤であることは、先回のソフト・マシーンと同様である。しかし実際は「おもちゃの歓び」「ホワットエヴァーシーブリングスウィーシング」「バナナムーア」あたりの初期ハーベスト時代の方が評価が高く、せいぜい「夢博士の告白」までで、「スィート・デシーヴァー」以降の作品はあまり高い評価は得ていないように思う。
 

  特にこの「レインボウ・テイクアウェイ」は1978年発表で、猫も杓子もパンクやニュー・ウエイブしていた時期に、こんなにPOPでAORな作品を出していては売れるわけもなく、黙殺されていた作品である。しかし、今にしてデータを見てみれば、プロデュースはアンソニー・ムーア。オリー・ハルソールも絶好調。スラップ・ハッピーやルイス・フューレィの作品で哀しげなバイオリンを弾いているグラハム・プレスコットなど、なんとも豪華なメンツである。時代が違えば、とんでもない評価を受けていそうだ。
 

  しかしまあ、内容は、軽い。いやいや、歌詞はけっこう重いけれど、音の軽さは格別である。そしてその軽さこそが、このアルバムを聞いた時に、なんともいえない、救われるような癒しを感じる要因だろう。明るいヤツがさわやかであるとは限らないように、やさしいヤツが信用できるとは限らない。たいがいは逆である。軽い音楽が、内容まで軽いとは限らない。それは重い音楽が内容まで重いとは限らないのと同意である。
 

  私もいつかは、ボサノヴァとか、レゲエとか、トロピカルなサウンドを満載したようなアルバムを出してみたい。そして失恋とか、愛とか、人生とか、どうでもいいような歌を、これまたどうでもいいような声で、どうでもいいようなギターを弾きながら、歌うのだ。まるっきり売れなくてもかまわない。そして虹を連れていくのである。
 

JOJO広重 2003.9.24.



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