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第63回
SCOTT WAKER
推薦盤「SCOTT」

  60年代に日本ではビートルズと人気を二分したという「ウォーカー・ブラザース」の記憶は、私にはあまりない。当時の我が家ではストーンズが流行していたし、まだ小学生だった私も、コメディの要素も濃かったモンキーズに興味があった。ウォーカー・ブラザース解散後、1967年に発表されたという、このスコット・ウォーカーのファースト・ソロ・アルバムを耳にしたのは、もっともっと後のことである。
 

  ある意味アイドルグループのボーカリストが、突然にジャック・ブレルの難解で重い歌詞を歌うことは、当時としてもかなり異色なことであったのではないかと思う。当時の資料を検索しても、後年発表したBBCTVショウのような、普通のポップスのカヴァーアルバムをソロ第一作にもってきていれば、スコット・ウォーカーはもっと名声を得ただろうという評が多い。もちろん人気絶頂であった彼がジャック・ブレルに傾倒していたのだろうし、それを許したプロデューサーの責任でもあるだろう。
 

  つまりは声に魅力が集中し、声に命をかけたシンガーであった。そしてこのファースト作が、私は最も出来映えの良い1枚だと思う。そしてやはり、このアルバムの白眉は「マイ・デス」である。私の死と名付けられたこの歌は、その後のスコット・ウォーカーの価値を決定づけたのではないか。天国の癒しの声が、突如地獄の門を開く歌を歌うのだ。こんなアイドル歌手は、後にも先にも存在しなかっただろう。似たケースは、日本のGSグループ、ザ・タイガースの加橋かつみが存在するが、彼とは意味が違う。
 

  自分の死について歌える歌手は、そう何人もいない。そして歌える者は、歌わなければならない宿命がある。
 

  絶望のない歌は、つまらない。絶望ぶっていても、絶望したことがなければ、絶望は歌えない。同じく、生きていながらにして、死を見たものしか、死は歌えない。スコット・ウォーカーは、どこで「彼の死」を、見たのだろうか。
 

JOJO広重 2003.10.15.



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