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第68回
Mars
推薦盤「MARS LP」

  世界的に見て、1978年にリリースされたコンピレーションアルバム「NO NEW YORK」はたいした評価も価値もないのかもしれないが、日本、特に70年代末期の関西においては、ある種のバイブル的なアルバムであったように思う。パンクのメッキがはげて、ようするにパンクロックとは、ヘタクソなロックミュージックの一種に過ぎないことをさっさと見破っていた関西のゴロツキは、もっとメチャクチャなものをパンクと呼びたかったのである。そういった感覚が、「NO NEW YORK」に収録された4バンド(Contortions、Teenage Jesus and the Jerks 、Mars、DNA)にはプンプン臭っていた。
 

  つまりは、セックス・ピストルズだって、実際は後ろでクリス・スペディングがギターを弾いていたように、安易で薄ら寒い"仕掛け"が見え隠れしていたのだ。そしてテレヴィジョンのプロデュースを失敗したブライアン・イーノが、おそらくマスタリング時にコンプレッサーをかけた以外は何もしなかったであろう、彼のプロデュース・アルバムであった「NO NEW YORK」のほうが、つまりは金儲けの臭いがしなかったのである。なんでもありの21世紀ではなく、70年代、しかも1978年に、というところに、このアルバムはそれなりの意味があったのだ。
 

  当時、ウルトラビデが「NO NEW YORK」収録のコントーションズと比較されたり、DNAのアート・リンゼイのギターワークと私の演奏スタイルのシンクロニシティを語られたりもした。しかしバンド仲間や私の周辺では、このアルバム収録の4バンドの中では、Marsの評判が一番よかったと記憶している。ようするに、他のバンドに比べて、Marsが一番音楽から遠かったのである。音楽から遠いことが重要であるという音楽の選択。こういう感覚はなかなかわかってもらえないが、ノイズの始原的なニュアンスも、つまりはそういうことなのである。
 

  このCDアルバム「MARS LP」は、彼らのスタジオテイクをまとめたもので、EPと12インチ、NO NEW YORK音源の、全部の曲が入っている。タイトルは彼らのデビュー作「MARS EP」への洒落であろう。今聞くと、音楽はそんなに混沌としているようには感じないが、つまりは1978年にどうであったかが問題なので、その音を今どう評価するかはそんなに意味はない。ただ、今でも、こんな音楽をやっているヤツラは、そうはいない。
 

  Mars。1977年〜1978年の間に、30回のライブと、11曲のスタジオ録音を残しただけのバンド。"マーズ"なのか、"マース"なのか、オレは知らない。
 

JOJO広重 2004.4.2.



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