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第69回
突然段ボール
推薦盤「抑止音力」

  『おもしろい音楽がない』『日本のロックはつまらない』と語る人は多いが、そんな人にこの突然段ボール1991年発表のアルバム「抑止音力」を聞いたことがあるか、と訊いたら、おそらく99%は聞いたことがないと答えるはずである。この際、はっきり言うが、このアルバムを聞かないでいて日本のロックを語るべからず。なんとかのラリーズの音源なら、高いお金を出して買うくせに、「抑止音力」1枚買う度胸もないなんて、やっぱりそんなのは、だめだ。このコラムをここまで読んだ方で、「抑止音力」を聞いたことがない方は、早いうちに聞いたほうが良い。それだけは間違いない。
 

  ロックを聞いたり、演奏したり、評論したり、商売にしたりしている輩は、私も含めて、だいたい阿呆である。自分が阿呆であることを分かっていればまだマシだが、自分は賢いと思っている阿呆はしまつが悪い。しかし、本当に賢い人も、稀にだが存在する。突然段ボールの蔦木栄一さんは、本当に頭の良い、賢い人の一人だった。
 

  そのことは、この「抑止音力」の1曲目「夢の成る丘」を聞けば、わかる。こんな歌詞は、阿呆には絶対に書けない。この曲は本当に凄い日本のロックの1曲である。この歌の凄さを分からない阿呆は、この曲を100回くらい繰り返して聞け。それでも分からなければ、自分にはロックを語る資格がないことを認識するべきである。
 

  逆説的に言えば、賢い人はロックなんか演らなくてもよいものなのである。しかし蔦木さんは、この手法を選んだ。それが正しかったのかどうかは、本当は分からない。私は正しかったと思うし、突然段ボールの音楽は、それでいい、と、思う。くだらねえ音楽ばかりの泥濘の世の中に、こんなに美しい曲があったって、いいじゃないか。
 

  2003年に蔦木栄一さんが死んで、林直人くんが死んで、自分なんかが生きていていいのか、と、何度も自問してしまう。そして、もう1度、「抑止音力」を1曲目から最後まで、とおして聞くのである。
 

JOJO広重 2004.5.25.



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