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第71回
JOHNNY THUNDERS
推薦盤「IN COLD BLOOD」

  先日、若手ミュージシャンと話をしていて、『君はどういった種類の音楽が一番好きなの?』と訊ねると、彼はずいぶん考えこんでいたので、『じゃあ、どういうようなアルバムが好きなわけ?』と、答え易く即してみた。まあ、それなりにいろいろなジャンルの音楽を聞いているのは知っていたので、マニアックなアーティストの名前を連ねるのかと思いきや、さんざん考えたあげく『デモテープ集ですかね』という答えが返ってきて、ちょっと驚いた。
 

  まあ、70年代とは違い、現在はかなりマイナーなアーティストのデモ・テープ集が乱造・乱発され、そして死去したアーティストのものは、生前なら絶対にリリースを許可しなかったであろうテープまでが、適当なジャケットをつけて製品化されている。おやおや、と思いながら聞いているのはまだいいほうで、オフィシャルのものと並列に聞かれることも多いわけで、当然その弊害もあることは予想はしていた。しかし、若手ミュージシャンが、デモテープ集という存在そのものになにがしかの意味を見いだしていることは、現在流通しているCD-R作品の意味、ネット・ダウンロードの意味と同じく、少なくとも70年代に音楽を聞いてきた世代とは音楽の意味自体が、確実に変わっていることの証であるように思えてしかたがない。
 

  デモテープ集そのものの、なんともいえない哀愁は、私も認める。それに気持ちをひかれる理由もわからないでもない。ブートファンだって、似たようなものだ。しかし、たいがいの、そして死去したり、今後新作が発表されることは不可能に近いアーティストの、未発表テイク集、その多くは、悲しい。例えばマーク・ボラン。例えばシド・バレット。例えば阿部薫、か。裸のラリーズも結局はそのようなものか。意味?意味は、限りなく、ない。そして、空虚である。
 

  ジョニー・サンダース。この男の、本当に、まっとうにリリースされた作品は、「L.A.M.F.」と「ソー・アローン」「ハート・ミー」の3枚だけなのではないか。他の作品の多くはライブ盤であり、セッション盤であり、アウトテイク集であり、デモテープ集である。
 

  この83年リリースの「イン・コールド・ブラッド」も、ヘンテコなアルバムだ。当初発表された時の2枚組アナログ盤は、スタジオ録音5曲が12インチ盤、もう1枚が通常LPのライブ盤だった。スタジオ録音させてはみたものの、5曲しか完成させられず、ライブをくっつけて無理矢理2枚組にしたのが見え見えの作品。これを公式なセカンド・ソロと呼ぶにはあまりにお粗末なリリースだった。
 

  しかし発表された当時から、どうも気になるアルバムではあった。中途半端なスタジオテイク、ヘロヘロなライブテイク、雑な編集盤。しかし、この妙に気持ちをひかれる、この歌の「おもしろさ」は、ジョニー・サンダースの魅力を端的に表したものであるように思えるのだ。歌や音楽のおもしろさは、こういうところに、そっと出ているものなのか。だとしたら、ちょっと罪深いアルバムではないか。
 

JOJO広重 2004.8.3.



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