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第72回
羅針盤
推薦盤「SONG LINE」

  このアルバムは、あまりにも悲しい。
 

  音楽にはいろいろな側面があるが、多くの音楽を聞き、この「こころの歌・最後の歌」に掲載されているような音楽に突き当たるような人種にとっては、絶対的に求めている瞬間、求めている音というものがある。美しいと感じることとか、凄いと感じることとか、感動することとか、ゾクゾクすることとか、からだの奥底からわきでる気持ちとか、そういったものではなく、純粋に悲しくなる音、純粋に悲しくなる音楽、純粋に悲しくなる歌。そんな音に出会えた時、猛烈に悲しくなった末に、自分がまだ生きていることにすら悲しくなるのである。
 

  山本精一は多作な男である。羅針盤という、ポップスを歌うというユニットですら、一作ごとに細かい変容をとげている。だから、『羅針盤のアルバムの中でなにが一番好きですか?』という問いは、羅針盤ファン、山本精一ファンはもとより、評論家も含めて、日本の音楽を聞いていると自称する輩には、最適の問いであろう。聞いていないアルバムが1枚でもある、なんていうヤツは論外だ。羅針盤のアルバムは、少なくとも日本人の歌を聞く姿勢のあるリスナーなら、すべての作品を聞くべきである。その価値のある、山本精一のユニットであることは間違いない。
 

  ただ、人それぞれによっての評価を認めるなら、どのアルバムをセレクトするかまでは強要しない。私はこの「ソングライン」が一等好きである。その理由は冒頭にも書いたが、ここに収録されている歌が、あまりにも悲しいからだ。
 

  山本精一と私との共通の価値観があるとすれば、ものごとにはギリギリのところがあり、そこに行きたいと思っていることだろう。その意味でも、このアルバムに収められた歌は、悲しいという歌と音の、本当の境目まで達している。この歌の向こうには、もう死とか、狂気とか、崩壊とか、もっとどうしようもない、果てしないものが待っている。かろうじてこの世に生きてしまっていることは、喜びではなく、あまりにも深い悲しみである。
 

  歌など、悲しいだけである。そして、それでいいのだ。
 

JOJO広重 2004.9.28.



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