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第8回
アシュ・ラ・テンペル
推薦盤「PARIS DOWNERS」

 私はいわゆる海賊盤というものには容認的である。もちろん法律に抵触するのは知っているが、特にROCK系のアルバムやビデオの海賊盤は、儲けのためというよりはそのバンドが好きで出している的な、甘ったれた感覚があるのと、やはり正規盤でないとわかっていても聞きたい、欲しいというマニアの、これまた甘ったれた欲望があいまざっており、なんだかよくわからないのがいいのかもしれない。でないと西新宿レコード街が古くはキニーに始まり、今もブラインド・フェイスとかエアーズとか、なんだかいかがわしいアイテムを堂々と路面店で販売している様を、警察もなにも取り締まらないのはおかしいではないか。それと自分は若いころ、やはり海外バンドの海賊盤のLPをせっせと買い、聞いて喜んだクチだから、年をとってから『海賊盤は許せない』などと声を荒げるのは、自分で自分にツバをはいているような気がするのである。
 

 それと、象徴的な話だが、早川義夫の著書で、早川が自分の書店のブックカバーに、つげ義春のイラストを使用したいとつげさんに電話する件がある。そこでつげさんはそのカバーのためにイラストをかきおろしすることはできないが、自分の過去の作品を使用するのはかまわない、つまり『自分の描いたものを誰がどう使ってもかまわない』という掃いて捨てるような言い方をするのである。これはたまらなくかっこよかった。つげ義春ほどの作家が、たとえ漫画とはいえ、自分の作品を、誰がどうしたってかまわない、とは、やっぱりなかなか言えないセリフである。自分は、自分の作品をここまで掃いて捨てるように言えるだろうか。いつも考えてしまう。
 

 1970年に結成されたアシュ・ラ・テンペルはドイツのギタリスト、マニュエル・ゲッチングのバンドである。最初はクラウス・シュルツがドラムをたたいていた、カオスロックのような混沌としたサイケ・ヘヴィ・ロックだったが、やがてミニマルギターやシンセの世界に傾倒し、70年代後半から80年代前半にはアシュラ名義で聞きやすいプログレ作品を多数発表することになる。80年代後半以降は寡作になるが、ハウスやテクノの連中に持ち上げられて、なんだかお偉くなったような扱いをうけているのはちとおもしろくない。
 

 で、私が十代のころはアシュ・ラ・テンペルと言えば「JOIN IN」や「7UP」というアルバムがフェイバリットだったが、数年前にこの2枚組海賊盤「PARIS DOWNERS」を新宿の怪しげなCD屋で購入してからは、このアルバムがお気に入りになっている。ジャケットにはシュルツ在籍時の写真が使用されているが、内容は1974年12月6日のライブということになっており、ようするにゲッチングのシンセとギターソロによる音質の悪いブートライブだ。サウンド的にはミニマルをベースにしているものの、「ニュー・エイジ・オブ・アース」以降の作品に出てくるフレーズが聞けたりして、なんともヘンな浮遊感に満ちたギターのインプロが聞ける。実際は1974年ではなく、もう数年後年の録音なのかもしれない。このアルバムは最近は見かけなくなったが、中古で出てもそんなに高価ではないので、気が向いて見つけた時にサイフに余裕があれば買えばいいと思う。
 

 この作品は大音量ではなく、小音量で夜中に聞くと心地よい。そういう種類の音楽もある。そしてやはり、ゲッチングは神秘的な人だなあと思うし、シュルツより人間くさい気もする。そしてきっとダメな人なんだろうな、と思って、なんだか安心するのである。
 

JOJO広重 2001.3.29.



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