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第83回
バークレィ・ジェームス・ハーベスト
推薦盤「Octoberon」

  ここまでこのコラムを読んでいただいた方なら、キング・オブ・ノイズとか呼ばれる私が、普段からノイズやアヴァンギャルド、現代音楽、インプロヴィゼーションなどのアブストラクトな音塊ばかりを聞いているわけではないことを理解いただけているだろう。むしろ、普段はほとんど聞かない。そりゃあ10代の頃は、毎日レコード屋に足を運び、そういった奇々怪々な音楽を日々探し求めていたものだが、それがすべてではない。

  しかし、人は自分の好きなものばかりをまわりにおきたがるものである。コレクションしかり、人間関係しかり。自分のCD棚や本棚を見ていると、自分はこんなものが好きなのかと、ため息が出る。人間関係でため息が出ることはほとんどないが、それでも自分の友人やまわりにいる人々を思い返して、気がつくことも多数ある。
  例えば私のまわりの人たちは、やはりこころの清い人たちが多い。それだけに、ふと、そのこころに慣れてしまっている自分に気がつく時、感謝の気持ちを後回しにしているのではないか、と思う瞬間がある。美しいものを見て、そのせいで本当に美しいものを見失っていたのでは、意味がない。  

  バークレィ・ジェームス・ハーベストを聞いているというと、たいがいは馬鹿にされる。軟弱プログレの代表格、つまりはわかりやすいメロディの、シンフォニックで大仰で、美麗な歌詞を並べただけの、お子さま向けプログレッシブロック、というわけだ。1967年結成、長期間にわたって多数のアルバムを様々な時代にリリースしていることもあり、音楽的に語るのが難しいバンドであること、80年以降は日本盤がまともに発売されてこなかったことも、評価が低い原因でもあるだろう。  

  私はこのバンドのピークは70年代だと思う。74年にハーベストからポリドールに移籍して「EVERYONE IS EVERYBODY ELSE (邦題:宇宙の子供)」から78年の「XII」までなら、どのアルバムも推薦できる。  

  「英国の深い森」とは、どの評論家が呼称した文句かしらないが、ブリティッシュ・ロックを、ある意味では言い尽くした言葉だと思う。このバークレィ・ジェームス・ハーベストにしたところで、一聴したところはメロディアスなポップロックにしか聞こえないが、実際はかなり不可思議な音楽観を持ったバンドである。例えばバンド名は、彼らのローカルな幽霊の名前からとっているし、歌詞には意外にも反戦歌的な要素を持った曲もいくつかある。そしてバンド全体に感じる、どこか別の世界の音楽のような、怖い言い方をすれば、この世の音楽ではないような、そんな退廃感も魅力のひとつだろうか。  

  今回の推薦盤「Octoberon(邦題:妖精王)」は彼らのそういった幻想観をほぼ完璧な形でアルバム化できた傑作だろう。それでいて、非常に優れたポピュラーミュージックとしての旋律や歌声も聞ける。ジャケットアートも秀逸だ。  

  このアルバム収録最後の曲「Suicide?」は、ある男が自宅を出て、クラブの入ったビルの高層から飛び降り自殺する歌だが、SEとして実際に家を出て階段を上り、飛び降りて地面に叩きつけられるまでの実況音が挿入されている。もちろんこれは実録ではなく、ダミーヘッドフォンにマイクを取り付けて、バイノーラル録音された効果音ではあるが、街の喧噪や自殺を止めようとする観衆の声まで聞ける生々しいものである。自殺問題が深刻な日本では、この曲は今では発禁扱いかもしれない。

 

JOJO広重 2005.12.30.



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