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第84回
スラップ・ハッピー
推薦盤「Slapp Happy」

  スラップ・ハッピーというバンドを、少しの言葉で語るのは難しい。
  ピーター・ブレグバド、アンソニー・ムーア、ダグマー・クラウゼの3人の正式メンバー、、そのバッキングもつとめたファウストやヘンリー・カウといったバンドの、すべてが一筋縄では語れないアーティストだからだ。音楽的背景、思想、バンドとしてのあり方、70年代活動当時の音楽事情など、いくつもの状況や問題を超えた上で、彼らの作品はリリースされてきた。だから、音楽的側面だけで語るには、どうも片手落ちのような気がする。つまり語るに難しいバンドのように思うのである。

  私がこのバンドのことを知ったのは1977年で、京都の彷徨館というプログレッシブ・ロック喫茶で初めて聞いた。ボサ・ノヴァやタンゴをベースにした、なんとも心地よいサウンドには一気にひかれたが、スラップ・ハッピー/ヘンリー・カウによる「Desperate Straights」を同じく彷徨館で聞いた時、そのアヴァンギャルドぶりに、これが同じバンド?と驚き、さらに傾倒することになる。そのころは「Acnalbasac Noom」は録音はされていたもののお蔵入りというシロモノで、そのアルバムではあのドイツのバンド、ファウストがバック演奏を行っているという情報だけで、ものすごく興奮したのを覚えている。

  しかし一番数多くの回数を聞いたアルバムは、やはり「Slapp Happy」だろう。ヴァージンの英国盤を購入し、何度も何度も聞いた。音楽というものはなんて美しく、そして恐ろしく、奥が深いのだろうと、何度も思った。バンドの本質的な部分にアヴァンギャルドがベースにありながら、それでいてポップであることの、このなんとも言い難い微妙なバランスの芸術に、心から魅せられたのは間違いない。

  そして、スラップ・ハッピーは、私個人の音楽感はもちろん、後のアルケミーレコード、偉そうに言わせてもらえば、80年代以降の日本の音楽シーンにもしっかり影響を与えているバンドであると言える。今日、日本の多くのアンダーグラウンドなバンド達は、当然のようにインプロヴィゼーションやノイズ、アヴァンギャルドな感覚を消化し、取り入れているが、そのバックブラウンドの根本のような部分に、このスラップ・ハッピーの音楽は慄然として存在していると思うのだが、いかがだろうか。  

  今やプログレッシブ・ロックはカタログである。全てが名盤と称され、紙ジャケットで復刻され、みなが名盤と思って聞き、各自の家のCD棚にコレクションされる。もうこうなれば、それはプログレッシブでもロックでもなければ、音楽ですらない。  

  スラップ・ハッピーは、そこでも異色であり、不可思議な魅力を放っていられるのだろうか。今でも内気な男の子が大好きな女の子を自分の部屋にあげて『「ア・リトル・サムシング」って、いい曲なんだよ』って、ステレオでかけたりしているのだろうか。
  そんな時代じゃない、気がする。でも、そうあって欲しいとも、思う。  

JOJO広重 2006.2.28.



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