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第86回
キース・ジャレット
推薦盤「The Koln Concert」

  「音楽は電線によってふりまわされるものではない」


  このキース・ジャレットの言葉はよく覚えている。


  アコースティックの楽器、特にピアノに魅力を持っても、自分がこれだと信じられる「音」に出会うことは、極々まれである。まして数分の曲や、1曲の中のこの部分、という出会いはあっても、ピアノのレコードで、アルバム1枚丸ごと好きな作品というのは、1975年に発表された、このキース・ジャレットの「ザ・ケルン・コンサート」しか、私には選ぶことができない。このアルバムのピアノの「音」には、ケルンの景色や空気、語ることのできない感覚が、キース・ジャレットという人を通して、そして彼という人を超えて、演奏されている。それは絶対に間違いない。

  このアルバムは、現在は1枚のCDで聞くことができるが、発売当時は2枚組のLP、つまり4面にわたって収録されており、70年代にこのアルバムをレコードで聞くにあたって、盤面を入れ替える作業が残念でなかったことをよく覚えている。全編を通しで聞きたい、そう思わせる演奏だった。

  内容はすべて即興演奏による、ピアノ・ソロである。ただ、インプロヴィゼーションと言っても、アブストラクトな部分はほとんどなく、美しいメロディが延々と続く。それでいて飽きることのない、だれることのない、奇跡的な演奏だ。

  私が大好きなのは、LPで言えば第4面、CDで言えばトラック4、つまり「ケルン、1975年1月24日 パートUc」である。おそらくアンコールのテイクだと思われるが、ここに聞ける旋律の美しさと切なさは、ジャズ・ピアノの中でも格別の逸品だろう。唯一文句をつけるとすれば、センチメンタル過ぎるか?私は肯定するけれども。

  「私は芸術を心棒しない。私はアーティストではない。私はミュージシャンではない」と語ったというキースを、私は信じられる。

JOJO広重 2006.4.23.



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