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第9回
キング・クリムゾン
推薦盤「EARTHBOUND」

 完璧(なように見える、を含む)なアーティストは、確かにいる。しかし、まあ、人間である以上、"あらら"とか、"なんじゃこりゃ"とか、"とほほ"とか、そんな作品をどこかに排出しているアーティストもいる。というか、そちらのほうが多いかもしれない。もちろん、"そんな"作品ばかりのアーティストも(特に日本には)最近多いわけで、まあ、あんまり特別に感じなくてもいいのかもしれないが、笑福亭鶴瓶ではないが、そんなことばかり気になって気が付いてしまうのも確かだろうか。例えばプログレの王道、これを知らないでプログレなど語れない大物、キング・クリムゾン。こいつらだって「Earthbound」という、ちょっと語るには難しいアルバムを「公式に」リリースしているわけで、これが油断なのかどうかはしらないが、まあ"とほほ"というか、なんというか、まあ凄いアルバムなのである。
 

 つまり、音が悪いのである。それも凄く、歪んでいる。まあ、SSと同じくらい!と言ってもいいかな。マスターはなんとカセット。そして音源にあとから旧型のシンセでおもいっきり加工されているもんで、ほとんどノイズのような部分もある。アナログ盤はアイランドの廉価盤レーベルHELPから出たのだが、後年日本盤LPもちゃんと発売されていた。長くCDの海賊盤が流通していたが、2002年に正規盤CDがリリースされた。
 

 しかし演奏内容は、なんだかせっぱ詰まっていて、良い。定番「21世紀の精神異常者」は、この曲ばかり5テイク収録したCDにも収録されたので聞いた人も多いかもしれないが、テンションは異常に高い。で、このアルバムには「ペオリア」という、他のアルバムには未収録の曲があって、そのテイクが私のクリムゾン全曲の中でも、1番のお気に入りだ。曲はアドリブで始まったような流れの曲で、メル・コリンズのサックスが妙に気怠い。ボズの、即興なのかどうかわからないが『君が僕をどう想っているかどうかではなく、僕が君をどう想っているかが大切なんだ』という歌が、たまらなく、良い。
 

 若い頃は、恋愛などしていても、相手のことばかり気になって、相手が自分のことをどう考えているかが大切で、やがて"相手のことではなく相手の考えていること"、が重要になってしまうわけで、そんな時代に、この歌詞は身にしみた。しかしまあ、最近はひきこもりじゃないけれど、やはりこんな、というか、心の持ちようの弱い人に出会うことが多くて(そんな人の気持ちがわからなくて、こっちが身につまされてしまったりする)、それでこの歌を思い出す機会が多くなった。つまり、そんな人はいつもまわりや相手がどう思っているか、ばかり考えていて、本当の実体の相手のことを考えていない、と私は感じるてしまうのである。本人にとっての問題は相手の思っている自分、という部分であって、本当の自分自身を見つめているのではないのではないか。だから社会と自分のズレが気になってしまうのではないか、と思う。ズレていてもいいのだし、それは気にしなくていいのだが、気にしてしまうのではないのかな。「それはわかっているけれど気にしてしまうのだ」というのだろうが、そんなに自分のことをきめつけるという自信がありながら、自分に自信がないというのは不思議というか、矛盾している、と私は思う。うーん、ちと冷たいかな?
 

 自分が相手のことをどう思っているのかが大切なんだ。そうすれば自分がどうしたいのか、自分がどうありたいのか、ということは、わざわざ探さなくても、後からついてくるのである。「Earthbound」を聞いたのは、私が16くらいのことだったと思う。早くにこのアルバムと出会えたことを、幸運に思っている。
 

JOJO広重 2001.4.7.(2002.8.21.改)



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