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第90回
ベリオ
推薦盤「VISAGE」


  学生時代に必死に集め、必死に聞いたLPレコードの大半は手放してしまった。もう聞かない、金がない、人に貸したまま返ってこないなど、いろいろ理由はあるが、やはり自分にとって必要でなくなったのだろう。そう思うことにしている。
  ただ、このルチアーノ・ベリオのアルバムは、手放したことをちょっと後悔している。


  現代音楽はそう幅広く聞いたわけではないが、クラシック音楽からのアプローチというよりは、前衛的なロックのルーツ探しや、もっとヘンで無茶苦茶な音楽はないのか、という探求心から現代音楽にたどり着いたケースが多い。

  最初に現代音楽に出会ったのは、高校2年生の時の、男性の音楽教師の授業だったと思う。男子も女子も本当に真面目な生徒以外はいっさい教師の話など聞いていない、最悪の「音楽」の授業だった。教室は私語で溢れ、騒音状態。数名の女子生徒が眉間に皺をよせて教師のレクチャーに耳を傾けているが、まともには聞き取れない。確かクラシック音楽の歴史についての授業で、受験にも中間試験にも関係なさそうな内容に、ただでさえ人気のない授業の中でも、最も無用と思われていた時間だったろう。
  おそらくは教師も「自分の話など誰も聞いていない」と思いながら話していたはずだ。その音楽の歴史の最後の部分、現代音楽のところで、いきなりベリオのレコードがかけられた。


  「ヴィザージュ」を初めてきいた時の衝撃は忘れられない。これが1961年の作品だということにも驚いた。その後、どんなにノイズやアヴァンギャルドやスカムや、いわゆる無茶苦茶な音楽が出てきても、聞いても、決して驚かなかったのは、この「ヴィザージュ」を10代半ばに聞いていたからだろう。音楽ってなんて凄いんだ、単純にそう思った。

  『TAPES』というアルバムに収録した、非常階段の1980年録音テイクに「サークルズ」という曲があるが、これはベリオの同名曲へのオマージュである。どんな奇っ怪なボーカルをしてみても、ベリオの妻でもあったキャシー・バーベリアンにはやはり誰もかなわなかったが。


  1961年作曲の現代音楽の1作品に、どんな過激なロックも、未だに勝てないでいる。




JOJO広重 2006.12.27.



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