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JOJO広重連載コラム
こころの歌・最後の歌
第93回
あがた森魚
推薦盤「噫無情」


  『約束は約束さ/きっと守るよって』


  この歌詞の一文だけであがた森魚を信じられる。
  そんな気持ちにさせられる、傑作アルバムである。

  このアルバムが発売されたのは1974年だが、私が実際にLPレコードを購入したのはもう少し後だったように思う。当時は「"赤色エレジー"のあがた森魚」というイメージが強すぎて、新作を購入する気持ちになかなかなれなかったこと、自分の音楽の興味が洋楽へ傾いていたことが理由だろう。しかし数年後、私は中古盤でこのLPは購入し、そして愛聴盤となった。

  不思議なほどの聞きやすさは、おそらくプロデュースした松本隆の才覚だろう。ともすれば第二の早川義夫になってしまいそうなあがた森魚を、もう少しポップな世界に引き上げた松本の功績は大きい。その後、現在に至るまであがた森魚は独特のポップ感覚を持つミュージシャンとして活動を継続し、懐メロ番組で"赤色エレジー"を歌うような終わった感のあるフォークシンガーにはならなかったからだ。

  「センチメンタル」というものは、日本人シンガーの得意とする分野である。そしておおかたの音楽リスナーが「あの曲いいよね」という時、決して音楽をほめているのではなく、たまたまその歌詞や歌声やメロディがリスナー個人のセンチメンタルな琴線に触れただけ、ということが多い。

  しかしセンチメンタルという感性を音楽として完全に生かしきった邦楽アルバムとしては、この「噫無情」はトップクラスのものだろう。なぜならここに収録された音楽は、ほとんどの日本人なら誰でもが垣根なしに聞けるサウンドであり、誰もが懐かしく切ない気持ちになれ、そして30年以上たった21世紀になっても何の違和感なく聞ける作品だからだ。こんなアルバムは、そうそうはない。


  2007年、私はこのアルバムの紙ジャケットCD盤にライナーノーツを書かしていただいた。30年ほど前、私が中古盤で購入したLPには歌詞カードも解説も付いていなかった。自分でその部分を埋めることができたことを、幸運に思う。



JOJO広重 2007.10.3.



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