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JOJO広重連載コラム
こころの歌・最後の歌
第97回
とうめいロボ
推薦盤「とうめいなじかん」


  『21世紀の森田童子』、というキャッチフレーズを、とうめいロボの宣伝文句として生み出したのも使ったのも私だが、このフレーズは正しくもあり、間違ってもいる。なぜなら森田童子というシンガーの歌と、とうめいロボの歌は、全然似通ってはいない。だから森田童子のファンがとうめいロボを同類の音楽と思って聞くと、がっかりしてしまうかもしれない。

  そんな危険性を持ちながらも、こんなキャッチフレーズを考えたのは、森田童子が1970年代の後半に音楽シーンに存在したという"意味"を、とうめいロボがこの21世紀の初頭において、かなり近いところの存在意味を持つ女性シンガーだと信じるからである。

  とうめいロボの歌には、無駄な音や無駄な歌詞はひとつもない。とうめいロボ/近藤千尋という女性シンガー・ソング・ライターの、心の奥底からわき出た歌とメロディが結実した曲しか彼女は歌わないからだ。

  切なさとあたたかさ、絶望と希望、昇天と下降、生と死、愛と慈しみ、こちら側とあちら側。こんなにリスナーと歌い手の心と心をつなぐ歌は、やはり21世紀の今、このとうめいロボがずば抜けている。歌はやはり内側にある。聞き手の心もその人の内側にある。とうめいロボは「歌」という一線でその距離をつなぐ。"糸電話"と彼女は自身の歌を語ったことがあるが、見えない糸を歌で具現化した希有な少女であることは間違いないだろう。

  繊細さは力強さと裏表である。暗黒の世界と希望の光の差も一瞬だ。歌が人を救えるかもしれないと、とうめいロボの歌を聞いて感じることは、この末世の時代に見た一筋の光明に思えるのは私ひとりではない気がするのだ。



JOJO広重 2009.5.15.



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