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第3回
木枯し紋次郎
監修:市川崑/1972-73年、77-78年 日本


  「木枯し紋次郎―。上州新田郡三日月村の貧しい農家に生まれたという。十才で故郷を捨て、その後一家は離散したと伝えられ、天涯孤独の紋次郎がどういう経緯で無宿渡世に入ったかは定かではない・・・」
 

  三無主義とか、しらけ世代とか、死語以前に、今ではもう誰も記憶にすらない言葉かもしれない。曰く、三無とは「無気力・無関心・無責任」と、70年代初頭の若者を称して、マスコミは騒ぎ立てたものだった。
  1972年〜73年に、中村敦夫主演で、フジテレビ系列で放送されたテレビ時代劇「木枯し紋次郎」は、学生運動が敗退した後の、空漠な雰囲気日本の状況にマッチしたこともあり、大ヒットとなった。三無主義と呼ばれた世代には、なんともいえないシンクロニシティではあったが、実はその三無などと呼ばれた表向きの態度とは別の、こころの中に思うどうしようもないような気持ちを、紋次郎が代弁してくれていたのではないか。大ヒットの背景には、そんな時代の男の気持ちが込められていた気がする。
  その証拠に、1977年には続編の「新・木枯し紋次郎」もテレビ東京系列で放送されたが、時代の空気の温度差か、たいしたヒットには至らなかった。  

  原作は笹沢左保の小説。彼の晩年に執筆された「帰ってきた木枯し紋次郎」シリーズもあわせれば、100話以上もストーリーはある。そして全てが、アンハッピーエンドである。もちろん、映像版も。

  基本的には、木枯し紋次郎は、何の目的もなく、生きている。生き甲斐など、ないのだ。自分は間引きされそうになったところを姉に救われ、その姉の死をきっかけに、世の中の全てに背を向けた渡世人となる。
 

明日なんか、ない。
過去も捨てた。
人とは関わらない。
誰も信じない。
 

  こんな生き方は、昔も今も、あこがれこそすれ、実現は不可能である。しかし、木枯し紋次郎はそれを映像の中で実践し、そして、人間が生きるということの全ての欲望、愛欲、金、信頼を信じることの空虚さを、我々の目前にさらしてくれるのである。

  男女の愛情など所詮、性欲だ。親子の愛ですら、我が儘で自分勝手な利己主義だ。どいつもこいつも自分のことばかり考えている。達観したかのような僧侶や武士すら、一皮剥けば俗な人間でしかない。純粋な気持ちすら、最後には裏切られる....。
  こんなに暗いストーリーが、時代が時代とはいえ、日本国内で大ヒットしたことは、ちょっと誇ってもいいのではないか、とも、思う。

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『あっしには関わりのねえことでござんす』
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  オレもそう言いたい。そして肩で風を切って、木枯らしのようなため息をつきたい。

  近年、めでたく全話DVD化された。原作者の笹沢左保は死去したため、もう新作は期待できない。

  残された小説を何度も読み、DVDを何度も繰り返し、見る。
  何度でも。
  死ぬまで。
 



JOJO広重 2005.2.5.


参考LINK:http://www2u.biglobe.ne.jp/~nikkicho/jidai/kogarasi.htm



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