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田中敦子

 日々の手仕事

月山段通  穂積繊維工業

春夏秋冬使える、桜桃の里のラグマット

 月山段通と出会ったのは、肌触りのいい敷物を探していたときのこと。ネットで検索したところ、「ゆき椿」という山形のモノを紹介するサイトをヒット、麻とウールの糸をメランジにしたナチュラルカラーのシンプルな敷物にピンときて、買ったのだ。ほどよく足に刺激があり、気持ちがよい。正解だった。

 その後、東北芸術工科大学卒の若手デザインユニット「f/スタイル」が、ここのモノ作りにかかわっているなど、積極的にデザイナーと関わっている会社なのだということを知る。麻地にウールで犬や猫のポップな姿をウールで刺したマット、きっとどこかで見たことがある人もいるんじゃないだろうか。

 6月下旬、上野駅から、山形新幹線「つばさ」に乗って、山形駅へ。左沢線に乗り換える。左沢と書いて、あてらざわ、と読む。左を「あちら」と言ったことかららしい。乗り換えのホームには、オープンウインドウのさくらんぼ風っこ号が止まっていた。これに乗って、さくらんぼ畑の中を走っていく! 羽前金沢駅で、穂積繊維工業の穂積勇人さんが迎えにきてくださっていた。「さくらんぼ列車だったんですね。初めて見ました。初めて来たのにラッキーですよ、あれに乗れて」。

 このあたりは盆地で、山に囲まれている。ひときわ高い山が、まだ雪をいただいている。「今日はよく見えませんけど、あれが月山です」少し前に森敦の「月山」を読んでいたので、呼ばれたような気分になった。「小説の舞台になった七五三掛の集落は、地すべり災害で大変なんですよ」と勇人さんが教えてくれる。

 会社は、私が想像していたよりかなり小体だった。昭和22年創業、工場の建物は旧帝国陸軍の兵舎だったとか。しっかりした木組みと飴色した階段の木に、そんな片鱗がある。

 作業は、幕のように垂直に張られたベースとなる生地に、ハンドフックと呼ばれる技法で糸を植えていく、というもの。大きなピストルというか見た目はハンドドリル風の機械を手持ちして、ベース地に糸を縫っていく。つくり手は裏側で下絵に沿って一段一段平行移動しながら糸を縫い付けていくので、表側からはつくり手の姿は見えず、まるで影絵のような感じ。ひとりでに柄が生まれでてくる不思議な光景だ。工場見学もできるそうなので、興味のあるかたはぜひ一度訪ねてみてはいかがだろう。

 ところでなぜ月山の麓に絨毯産業が根づいたのだろう。左沢線の走る山形の盆地は、あのドラマ「おしん」の故郷でもある。冷夏に泣いた東北の農村地帯だ。昭和初期、冷害が続き、昭和不況とのダブルパンチを受けた。なんとか他の産業を導入して副業にできないか、とそこから始まったのが絨毯づくりで、中国・天津の職人6人を招き、中国式段通の技術指導を受けたという。その後、高級絨毯を製作、一大産業となった。が、絨毯の工業化が進み、また物品税により高級品が売れにくくなり、企業数は激減した。穂積さんのところが残ってこれたのは、生き残りをかけて新製品づくりに知恵をしぼったからだろう。

 二代目で、勇人さんの父親である寛光さんは、さまざまなアイディア商品をみせてくださる。また、近隣の養護施設へ発注できるモノづくりをあれこれ考え出してもいる。こういう人だからこそ、今欲しいものを生み出していけるのだ。面白いものを見せてもらった。

 広島県のデニム工場で、デニムを織り上げる際に出るゴミ、デニム地の耳を、産廃にせず再利用できないか、という打診があり、そこから生まれたマットだ。名付けて〝デニムの耳プロジェクト〟。デニムは表がインディゴブルー、裏は白地。これがテープ状になっている。穂積さんのところでは、これをハンドフックしてラグをつくった。青と白が絶妙に混ざる。固めの木綿地の足触りもいい。デスク下の足マットにしてはどうでしょう、と提案してみた。実は、古びたジーンズを裂織りしたマットをもっていて、あの感じを思い出したのだ。今もデスク下に敷いていて、素足を置くと気持ちがいい。産廃の再利用だから、価格も手ごろだ。

 帰りは山形駅まで送ってくださった。途中、「ツルヤ品物店」に寄る。山形の伝統工芸×f/スタイルのモノや、デザイナーが関わった藤家具などを、元銀行だった建物を改装したシンプルな空間に展示しているお店。穂積さんのラグももちろんある。ここの母体は藤工芸のツルヤ商店だ。こうしたよい感性のお店が地方にどんどん増えている。

 サクランボの収穫も終盤戦だという。電車や車の車窓から見えた木々にはルビー色のサクランボがなっていた。「早めに気温が上がってから、収穫近くでまた急に冷えたから、今年のサクランボは収穫量はすくないけど、色がきれいなんよ」駅の構内でサクランボを売ってるおばちゃんが教えてくれた。

そういえば勇人さんのお子さん、昨年生まれた双子ちゃん。写真を見せてもらった。丸々と可愛くて、サクランボみたいだったな。

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