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田中敦子

 日々の手仕事

駿河竹千筋細工 静岡竹細工協同組合

組み仕事の美、丸ひごの優しさ

 駿河竹千筋細工の商品セレクトのため、静岡へ向かった。

 静岡は何年振りだろう。骨董市の取材でゆき、帰りに芹沢銈介記念館に立ち寄ったことを憶えている。登呂遺跡も見たっけ。

 組合の杉山さんの、駅から歩いて20分くらいですかね、という言葉のままに歩いたのだが、国道、県道、と大きな道を歩いていくと、結構な距離感を感じる。東京より心持ち暖かで、歩くほどに汗ばんでくる。

 海産物の店が、軒を歩道いっぱいの幅に平行に張り出していて、サイドにくっきりと店名が書かれている。その様式が懐かしい。

昭和通りを大町通りの交差点で左折し、平成通りを右折するころから、まちは長閑になっていく。右に左に曲がっていくうち、地図感覚が分からなくなる。街並も似たり寄ったりで、分かりにくい。

 でも、目的地が近づいている確信はあった。なにかが匂うのだ。職人の町という感じ。これは東京でも感じることだ。ひゃあ、約束の時間を10分以上過ぎている。静岡竹細工協同組合は、いい感じに古くて簡素なトタン張りで、理事長の篠宮さん、それから伝統工芸師の黒田さんらが待ちかねていた。

 まあまずはお茶を。そういえば静岡といえばお茶だが、茶托はもちろん千筋細工。実家にもあったなあと思い出す。吹いてきた汗を抑えながら、セレクト開始。あれこれ見せていただき思ったのは、手のかかり用に比して価格が安いことだ。

「よく言われるんですけどね、あんまり売れないなあ」と大らかに笑う。売らなくちゃですよ。行灯や菓子器、茶托、花入れなどをセレクトする。そして受注製作品だという茶箱をえいっとお願いした。私の古布を使ってもらう。その相談と仕事を見せていただくことを兼ねて、みやび行灯製作所へ。町の風景になじんだ小企業で、これまた懐かしい。

 千筋細工の特徴は、組むということ。竹細工のほとんどは、そういえば編む技法で、組むのは静岡だけだ。曲げるのも、型があるわけではなく、鏝に当ててくいっと曲げる。この角度が揃っていなければ四角にならず、実は角ものがいちばん難しいという。これに蓋があれば、身より心持ち大きい曲がりにしないとはまらない。すべて手加減。組むことより、枠作りが難しいのだという。

 また、竹ひごの角度を決めるのは、枠に穿った穴で、これで丸みの大らかさが決まってくる。細かくなるほど難しいのは当然だが、刺し加減でカーブが決まるのは、確かにその通りで、組む技法だということを納得。また枠には一見つなぎ目が見えない。「はすかいに合わせているでしょ」と指し示す場所、よくよく見れば、斜めにうっすら切れ目が。「普通はフジヅルなんかで巻き止めているでしょ」。確かに。ていねいだ。

 竹肥後は丸ひご。他の産地は平ひごが多いのに、ここだけなんで丸ひごなんだろうか。どうもそのルーツは、徳川家康が駿府にいたことと関係があるらしい。鷹狩りが趣味だった家康公のため、鷹匠が竹籠を編んだのが始まりで、他に虫籠もつくった。献上品なので、継ぎ目の美しさなどにこだわりもしたし、生き物を納めるから、羽が傷つかないよう、丸ひごにしたのだ。

 この竹細工は、明治以降、戦後のオイルショックまでは、輸出品としてずいぶん海外に出たという。国内より国外の流通が多かったから、静岡の人でも千筋細工の名前を知らなかったりもする。

 明治時代の千筋細工は0.6ミリという極細もあったとか。

 今は、1.3〜1.6ミリが主流。明治時代とは、すべての工芸において、繊細さを競った時代だったのだ。

 竹は阿部川や天竜川の上流に生えている静岡の竹を使う。孟宗竹、真竹が主流だ。本漆の拭き漆か木鑞での白い仕上げ。美しい。

 私が千筋細工に関心をもったのは、照明デザイナーの谷俊幸さんが手がける曲げワッパの灯りを取材したとき、「今ね、静岡の千筋細工で灯りをつくっているんですよ」という話からだった。谷さんの照明は、訪問したみやび行灯製作が製作を請け負っていて、思わぬ出合いとなった。縁なのだろう。

 ここでも後継者問題は深刻で、若いお弟子さんは入ってくるものの、独立してもそうそう仕事はない。アルバイトしながらになり、売り込みだって、それなりの作品を見せられなければ難しい。

 でも、努力すればなんとかなりそうな気もする。

 いや、なんとかする一助になれればと思う。

 帰り、静岡駅の駅ビル内にある静岡県の物産販売店である「駿府楽市」で、改めて千筋細工の品々を見る。あれこれ置かれていて楽しいけれど、手仕事に興味のない人の関心を引くには、もっと見せ方が必要かもしれない。その点、食品はよい。美味しそうなものを探す気持ちさえあればいい。きちんと表示してあれば、消費者がセレクトできるのだから(いやもちろんパッケージとかPOPなども大切ですが)。というわけで、お土産に買ったタタミイワシ(カネナカ商店の「たたみぼし」)、美味しかったあ。調べてみたら、昔ながらの製法で、天日干しだった。道具も食べ物も、誠実さがいちばん。

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