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田中敦子

 日々の手仕事

箱根寄木細工 露木木工所

天然木の色と人の知恵。

 

 子どものころ、寄木細工の秘密箱が好きだった。

 あれこれパーツを動かして、最後にひらくと、たりらりんとお琴の音がして引き出しが開いた。そこに玩具の指輪を隠したっけ。

 大人になって改めて寄木細工を意識したきっかけは、かつて日本橋の丸善に入っていたクラフトのお店で見つけた露木清勝さんの作品。焦げ茶と赤茶の市松模様がオプティカル風に伸縮しているペーパーウエイトで、いまも私のデスクに置いている。

 初めて露木木工所をお訪ねしたときは感心、感動の連続だった。寄木細工の木の色が、すべて天然自然の色であり、また秘密箱などの模様は、三角や四角の細い材にしたものをモザイク状に寄せてしっかりと接着、これを鉋削りして張り合わせるなんて、全然知らなかったからだ。

 ユニークなこの技法は、箱根だけのもので、江戸後期に始まるという。箱根の畑宿で土産物として誕生した。箱根の山の樹種の豊富さが、多彩な木地色で寄木文様をつくりだすという発想を生んだのだろう。明治になって、現在のような連続柄へと発展した。寄木細工の工房は、畑宿中心に、小田原にまで広がった。露木木工所はその流れを汲み、1926年に創業している。

 ギャラリー露木及び露木木工所には、感動の初訪問以来何度か取材にうかがう機会があった。露木さんの息子さんである清高さんがメンバーに加わっている若手の寄木細工集団〝雑木囃子〟の作品を紹介したこともある。子どものころからの親しみゆえだろうか。いやそれだけ心を惹くものなのだろう。

 今回、また改めてお訪ねした。何度かお目にかかってはいても、商品選びは電話ではできない。

 東海道本線の早川駅下車。小田原のとなり駅だ。潮の香りに満ちた駅を出たら左に曲がり、早川の土手下を左折すると小さな祠が右手にある。その向かいあたりにあるのがギャラリー露木。

 モダンな空間に、さまざまな作品が並んでいる。

 いわゆるお土産タイプのものから、作家としてつくったものまでさまざま。

 初代の作品もある。とても細工が細かい。

「いまはここまでしませんねえ」と清勝さんも感心している。

 文様は、矢羽根、七宝、鞘形、市松、松皮菱、青海波など。いずれも日本の伝統文様だ。曲線がないので、青海波や七宝は、一瞬何の模様だろうかと探ってしまう。そんな謎解きも面白い。

 木は、黄色はニガキ、白は檀、黒は桂神代、青は朴。樹皮に覆われた表からは見えない木の個性が親密に隣り合う。

 露木木工所の三代目である清勝さんは、クラフトの世界とも深く関わっていて、クラフト展では数々の賞を受けている。

 伝統の中に居座っては、先行きがない、そんな意識を若い時からもっていたのだ。だから、私からの素人じみた提案にも柔軟に対応してくださる。

 この模様だけでプレートはできないか。

 ムクづくり(寄木した状態を使うタイプ)で、メイクツールボックスは?

 清勝さんからも、フォトフレームは売れ筋ですよ、と提案があり、グラデーションがきれいな市松文様で大小をお願いした。

 また、清勝さんと、後継者である清高さんがつくった新作が、とてもモダンで洒落てたので、これもぜひ、と。

 寄木細工は、箱根のお土産。それは揺るぎないし、よいと思う。気取ってなくて親しみやすい。秘密箱が縁で、寄木の世界に入った若いつくり手もいる。でもそこに留まっているだけではもったいない。天然自然の木の色の豊かさを知る、とても身近な存在なのだから、もっともっと暮らしの中に入ってきてほしい。もちろんそうした作品も、多く世に出ているのだけれど、そこここで見られるものではないから、認知されにくい。惜しいなあと、つくづく思う。

 

 小田原港がすぐ近くとあって、生きのいい魚を売る鮮魚店があった。水晶玉のような目の銀色に光る小あじを店先でさばいて、干物をつくっている。歩道で天日干しもしている。

 母の里が伊豆半島の伊東なので、アジは子どものころから大好物。ことにたたきには目がない。次の仕事があったけれど、なんとか早く戻れば、冷蔵庫に入れてまた外出できる。

「東京に持ち帰りたいんですけど」

 白髪を坊主にした白い割烹着の大将が、たっぷり保冷剤をいれてくれた。

 海あり、山あり。なんてよい土地柄だろうかと、改めて思う。

 

 

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