付加価値と差別化は禁句 宮城壮太郎

 「デザインという付加価値で競合商品と差別化してくださいよ」とクライアントから言われることがよくあります。

 私は「付加価値」と「差別化」という言葉は出来るだけ使わないようにしています。クライアントの口から発せられたら「それ何?」と問いただします。

 2つの言葉とも商品開発の上では無くてはならないキーワードですが、敢えて使わないようにしています。
 というのも「付加価値」と「差別化」を「目的」としている商品開発があまりにも多いと思うからです。「結果」として「付加価値」と「差別化」がなされている、というのは理解できますが、 「目的」とするのは違和感があります。

 開発段階においては、おまけの価値ではなく「本質価値」「真価値」「お客様価値」を目標とすべきだし、目立つための違いを出すのではなく、オリジナリティ、アイデンティティを発揮すべきでしょう。それらを「目的」とした瞬間から、競合商品に比べて機能性能をひとつでも多く盛り込むこと、競合商品を研究しちょっとした違いを強調することになってしまいます。

 「生活者視点」と口では偉そうに言っていても、やっていることは結局「競合品始点」になっているのです。

 付加価値を追求するあまり使い勝手が格段に悪くなったビデオデッキの話は有名だし、自動車の顔も差別化を求めるあまり結局同じ土俵に乗ってしまいどの車も同じような顔になっています。
 「本質価値」を気に入ってくださったお客様とは長い付き合いになりますが、「付加価値」の部分だけで引きつけたお客様はまたすぐ他に離れていってしまうのではないでしょうか。真のブランドとエセブランドの違いかもしれません。

 「お客様の視点に立って本質的な価値を追求しオリジナリティを確立すること事」が結果として一番有力な差別化になるのではないと思います。デザインはその本質的価値を表現する最善の道具だと信じています。

(アンビエンテ視察の感想記として 2006年2月)

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