■Macの雑誌に「Macとプロダクトデザイン」について・・。

MAC LIFE 99-05


 MAC LIFE


Macは特にデザインの分野に強いといわれている。それは,Macの持つクリエイティビティがクリエイター達の波長と合うからではないだろうか。そのクリエイティブな世界のなかでも,今回はプロダクトデザインに焦点を当ててみよう。

プロダクトデザインとは

 グラフィックデザインなどの平面デザインにおいて,Macの普及率は非常に高い。
 だが,ファッション,インテリア,オーディオ,コンピュータ,家電,自動車,工業用ロボットなどの産業用機器,医療機器,建築,ランドスケープ,都市計画など,平面以外のデザインの世界も幅広い。映画の中の3Dアニメーションも立体的なデザインといえるだろう。
 今回は,これらのなかから,特にプロダクトデザインとよばれる分野を取り上げてみる。
 プロダクトデザインは,インダストリアルデザイン,工業デザイン,ID,とも呼ばれるが,簡単に言うと工業製品全般のデザインを指す。
 製品が世の中に出るきっかけはいくつかあるが,今まで気が付かない提案性を持ったモノが考えられたとき,技術開発により生活者に新しい製品を提案できるようになったとき,今までの製品が陳腐化し競争力を失ったとき,などの要因によって商品開発のスタートが切られる。
 それらは,デザイナーによって企画される場合もあれば,経営者や商品企画担当者によって発想される場合もある。もちろん技術開発セクションからの提案によって企画が始まることも多い。
 商品企画は,市場性,コスト,技術,競合商品の有無,社会性などを考慮し,販売戦略を組み立て,ゴーサインが出ると,デザインセクションに回されデザイン作業に入る。逆にデザインセクションが主導となってデザインオリエンテッドな製品をまとめ上げるケースも多く見受けられる。また,販売されるかどうかは別にして,アドバンスデザインを日常から行なっている企業も多い。
 実際のデザインでは,製品企画の意図を明確にし,ターゲット,価格,コスト,使える技術,使い勝手,新しい提案,GUI,などの視点から,アイデアスケッチ,ラフスケッチを重ね,レンダリング(丁寧なスケッチ)により社内検討を行ない,作成した外観図面に基づき立体モデルを作り,社内決裁をとり,ユーザー調査を実施しながら製品設計部門に引き継ぐのが通常のやり方だ。
 その課程で,デザイナー自らの手で発泡スチロールを削ってラフ模型を作ったり,3Dソフトを駆使し3D化を行なったり,操作部の表示系を考えたり,液晶画面をデザインしたりもする。

Macはこう使われる

 このプロセスにおいてコンピュータ,特にMacがどのように使われているかを見てみよう。まず企画段階においては,過去の製品デザインをパターン化して傾向を見たり,コンセプトチャートを作成するなど,通常の企画部門における使い方と大きくは変わらない。
 デザインする製品のターゲットイメージをビジュアル化する場合も,写真を読みとりコラージュする作業も,Mac上で行なえば,一昔前の,拡大カラーコピー→切り抜き→スプレー糊による貼り付け→でき上がったコラージュの複写にいたる一連の作業が,Mac上で効率よく進む。
 さて,次に思いついたアイデアをスケッチにする作業だが,筆者の回りに限っていえば,この作業をMacを使って行なっているデザイナーは皆無である。ときには喫茶店のナプキンに書き留めたりするように,アイデアを出す場所,時間に制約はない。また,流れるように出てくるイメージやアイデアを書き留めるための道具として,現時点では鉛筆,サインペンなどのスピードに,タブレットやマウスではとうてい追いつけない。
 もちろんはじめからMacでスケッチを描いたり,3Dソフトを駆使し,造形を行なうデザイナーも今後は増えてくると思われるが,「手」で描くことは重要だろう。
 次のアイデアスケッチを整理する段階で,Macの使い方が広がる。
 スケッチをスキャナーで読み込み,Photoshopを駆使して,部分的にプロポーションを変えたり,色を付けてシミュレーションしたり,2つのスケッチを足してみたり,あるいはPhotoshopではなくIllustratorで簡単な図面にしてみたり,3Dソフトを立ち上げて製品の裏側を考えてみたり……デザイナーによって使い方はさまざまだ。それができるところがMacのMacらしさといえるだろう。
 次の段階のレンダリングは,他人にプレゼンテーションするためのものなので,わかりやすく,きれいに描く必要がある。現在でもマーカーやパステルを使って描く人は多いが,最近はMacで描く人もかなり増えている。この場合,3Dソフトを使って描きあげる方法と,2次元のグラフィックソフトを使って,あたかも立体に見えるように描く方法の2つがある。
 3Dは入力などに手間がかかるが,様々な角度から見ることができ,アニメーションとして動かしたり,3D CADソフトと連動した光造形機を使い,立体モデルを直接作成することも可能だ。
 外観図面を制作するのは,MiniCADやform・ZなどのCADソフトを使うのが通常であるが,筆者は,入力の手間の重複を省くため,Illustratorでレンダリングしたデータに詳細図や寸法線を書き加えていく方法を採っている(図面用のプラグインにアプリクラフト社のCADtoolsを使用)。
 Macが先鞭を付けたと言っても過言ではないGUIのデザインにも,Macは力を発揮する。たとえば液晶操作画面のデザインをした場合,ボタンに触れたときの展開や動きを,Directorやブラウザを使って疑似体験することができる。これにより,試行錯誤し,使い勝手の向上に結びつけることが可能だ。
 もともとグラフィックデザインには強いMacなので,製品に操作のための表示(ONとかPUSHとか)やブランドロゴの位置,大きさ,書体,色彩などをシミュレーションしてみたり,図面データをパッケージデザインに転用するといった使い方にも非常に有効である。


プロダクトデザイナーがMacintoshを使う理由

 人間は技術の革新に伴い,肉体や頭脳の外在化を図ってきた。機械によって筋力を補い,重いモノを運んだり,加工したり,スピードを得ることができた。望遠鏡や顕微鏡は人間の視覚を補い,そして,コンピュータは記憶や計算することさえ補ってきた。その延長線上で考えると,技術の進歩により,将来,人間の感性や創造性までも外在化されてしまう可能性も否定できない。
 しかし,現時点においてコンピュータは,あくまでもシュミレーションや描く作業,過去のデータの検索,転用など,思考の補助はしても,人間に変わって感性や創造性までは補ってくれない。
 従ってコンピュータがあるからデザインができるわけではない。Macであってもデザインをしてくれるわけではない。
 それでも,われわれデザイナーがMacを使うことにこだわるのは,われわれが潜在的に持っている感性や創造性を刺激してくれる「何か」を持っているからだろう。
 その「何か」とは,筆記具や腕時計など,愛着あるモノにこだわるように,われわれを刺激し,愛しく思わせるフェロモンをMacが発していることにほかならない。また,市場での量を支配することが目的ではなく,真にユーザーのことを考えたアップルのもの作りの姿勢が,ユーザーの波長と合うのではないだろうか。そのフェロモンを発し続けている限り,また,ユーザーのことを考えたもの作りの姿勢が感じられる限り,Macを使い続けることになるだろう。


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