YAMASHITA

「 化粧師の徒然  」
作 : てぃが こと ハッキネン山下


 ( 最新更新日 2012年 5月22日 )



「生活習慣の中に美容を入れる」 vol.42  (2012年 5月22日UP)(NEW)


 遅ればせながら今年最初のコラムです。今年は2012年。もう10年経ちました・・・
 この「ビューティーサイエンスの庭」の管理人(「庭」の管理人と書くと、まるでガーデナーのよう ですね)岡部さんとはその昔、同じ会社にいました。部署は違いましたが、いくつかのことを一緒に成し 遂げました。その会社を辞めてから、丸々10年経ったのです。2002年の1月31日付けで辞めましたから。
 この10年間、岡部さんとは連絡は途絶えず色々と相談に乗ってもらったり、教えていただいたりして おります。そんな縁でこのコラムも書かせていただいているのですが、そのほかに岡部さんが会長を されている「生活習慣美容研究会」と言うものにも参加しています。「美容の原点は、さまざまな生活 習慣の中にあり」を合言葉に勉強会や合宿やシンポジウムを開いたりしております。
 化粧品を正しく使うことはもちろん大切ですが、やはり首から上に、上からつけるだけで綺麗になる のなら、みんな同じ化粧品を使ったら同じように綺麗になるはずです。しかし、実際そうでないことは 皆さんご存知ですよね・・・。いえいえ、回りの方が同じもの使ってもみなさんほど綺麗じゃないって 言う意味です。(笑)
 そんな生活習慣美容は雑誌に取り上げられたり、結構言葉としても定着してきたようです。
 でも、いま私が奮闘しているのは、美容を生活習慣の中に取り入れてもらうこと。
 現在、私が働いている会社はもともとサプリメントの会社です。うちのサプリで元気になった―ッと 思った方たちは、元気になったおかげであちこちお出かけもしたくなり、色々なことに興味が出てきたり します。私も経験ありますが、具合悪いときは人にも会いたくないし、そうすると身だしなみとかも どうでも良かったりしますよね。なんにしても気力が湧かない…ですから元気になってみて始めて いろんな事やってみるんですね。その中のひとつに「お化粧」もあるのです。
 ところがこれが50代とか60代の前半だと素直にチャレンジできるのですが、それ以上のお歳になると 「いまさら…」と言う思いが先にたって、スキンケアをきちんとやるとか、ましてやメイクなんかでき ないわと言う方が多いんです。この「いまさら」が曲者で、「今までやってこなかったから、いまさら やっても綺麗にはならないわよね」という方と、「いまさら綺麗になったところで誰に見せるわけでも ないし」という2パターンがあります。このうち最初の「いまさら綺麗にならないわよね」パターンは、 知り合いの同年輩の方がちょっとがんばってお手入れして、綺麗になったのを見たりすると、あら、私も イケるかも!と言うことで比較的簡単に主旨換えしていただけます。
 ところが2つ目の「いまさら綺麗になったところで」パターンは、美容を行う意義を見出せていない方 なのです。そういう人に「これつけるとこんなに綺麗になるわよ」って言っても、「そもそもなんで綺麗に ならなきゃいけないの?」といわれてしまい、黙るしかないなんてことになりかねません。
 しかし、美容は人に見せるため、外見をつくろうためのものではなく、人として健康生活するためだと したらどうでしょう? 私ももう50歳近いおじさんですので、「モテたい」とはちょっとしか思いません。 (『ちょっとは思うのかいッ!』ってツッコンだあなた、正解です。)でも常に健康でいたいとは思います。
 皮膚をいい状態にしておくことで、すご〜く乾燥したところに行くと頬がピリピリします。それは「ここは 乾燥してるから、加湿するなりしないと喉やられるよ、インフルエンザにもかかりやすいよ」というサインです。 肌の手入れを怠って、いつもガサガサした状態だとその環境の変化に気がつきにくくなります。だから常に肌を 健やかにしておくことは、身体全体の健康に繋がります。お医者さんにも「皮膚科医」っていらっしゃいますよね。 ということで、皮膚がいい状態ではないということは、やはり健康ではないと言うことです。
 最近はこんな話もしながら、生活の中にスキンケアを取り入れてもらう努力をしています。

 ・・・続く・・・



「ゴルフでは実現してるのに・・・」 vol.41  (2011年 8月23日UP)


 前回も書いたように、まるでメイクアップアーティストの現役復帰状態で、日々メイクアップの 講座を行っています。
 参加される方はもちろん普通の奥様方。といいたいところですが、これまでの化粧品メーカーで メイクしたり、指導してきた方々に比べると平均値としてはお化粧に対する知識は少ない方の ほうが多いでしょうか?
 だから教材のアイブロウペンシルとアイライナーペンシルの説明もこんな具合に始まります。「どちらも 似たような物で、区別がつきにくいので、先ずキャップをはずしてください。それから2本のうち、 歯間ブラシの親玉みたいなのが付いてる方、そっちだけ持ってください。それでこれは後ろですから、 ひっくり返して先端が上にくるように持って、上の方と真ん中あたりを持って、胴体を回してみて下さい。 ギリギリ音がしてる方、回し方が反対です。はい、先から心が出てきましたね、これがアイブロウ ペンシルといって眉を描く道具です。 あっ、○○さん、ストップ! それ出しすぎ。出しすぎると芯が 折れますから、芯が確認できたら、逆に回して引っ込めてください。 次に、後ろにフェルトペンの 先みたいなのが付いてる方が・・・」
 と、まあこんな感じです。
 いままで余りメイクに興味もなかったという方も結構な割合でいらっしゃるので、単純に「アイブロウ ペンシル」なんていっても全員の方に通じるとは限りません。普段使ってらっしゃる方も、少し 自分が持ってらっしゃるものと違うと、「あら、なにかしら?」って感じです。それどころか、普段 ファンデーションも塗ってないというような方もいらっしゃるんです。大体3割りくらいでしょうか?  「メイクスクール」という名のセミナー受けに来て、『ファンデーションって塗らないといけないの?』 という質問も受けたことがありますから。
 今の会社はもともとがサプリメントの会社で、化粧品は2年半くらい前にスタートしたところなので、 こうしたユーザーさんが結構いらっしゃいます。でもそうした方たちが3時間の中で、どうにか他の方に ファンデーションが塗れるようになったり、タッチアップしてあげた後は、見違えるようになっています。
 そして、「まぁ、あなた綺麗ね」とか「あら、私綺麗だわ!」って声に出して言い合ってらっしゃいます。 おそらくこれまでの一生分の綺麗を言ったり言われたりしてると思います。とても心が健やかで豊かな 時間になってると思います。終了後に受け付けの女性が、みなさんお幸せそうですよね、って言い ますから。
 そしてみなさんが一様におっしゃるのが、今までこういうことを教えてくれるところがなかった、 ということです。懇意にしている化粧品売り場で訊くといいんでしょうけど、長く居るとそれだけ 買わされると思われるようです。
 まあ、自分の経験から言ってもそう思われても仕方のない部分はありますかね。私自身は、 化粧品メーカーのアーティスト時代に、メイクアップサービスを行うだけではなく、しっかり使い方の 話もしてきました。しかし、やはり化粧品「売り場」の限界は、実習してもらうところまでは行かない というところでしょうね。
 化粧品って消費財ですから使ってもらわないと減りません。そして効果が出ないと使い続けて もらえません。使い続けてもらうには、効果的な使い方や、使うことの価値観を伝えていかないと いけません。だったら化粧品売り場と別に、「メイクレッスンルーム」って出来たら良いと思いませんか? (日本語にすると「有料化粧室」となり、なんだか駅にあるコイントイレみたいになってしまいます。)  無理じゃないと思うんですよね、これ。ゴルフでは成立してますから。
 例えば、ゴルフパートナー、二木ゴルフ、つるやゴルフ、ゴルフ5、ヴィクトリアゴルフって言う ゴルフ用品のお店があるじゃないですか? クラブとかボール、ウエアなんか売ってるところ。 そのほかにあちこちに、俗に「打ちっ放し」と呼ばれるゴルフ練習場がありますよね。私はゴルフを やらないのでわかりませんが、調べたところによると、ゴルフの練習場は、入場料500円  1球10〜40円の金額がかかるようです。みなさんがどのくらい練習されるかわかりませんが、 大体3,000円くらいはかかるということですよね。
 まあこのくらいを値段の目安にして、化粧品を持ってくるとタオルは貸してくれて、洗面台のある ドレッサーのブースに案内され自分でメイクの練習が出来る。ただし、家と違ってコーチが居て、 わからないところは相談したり、片方やってもらえたりする。少し割増料金を払うと個室に なっていて・・・って言うようなのはどうでしょう。余り人件費をかけたくないので、各パートごとに 基本のメイク方法はブースにあるPCで確認できるとか。
 どこかのメーカー、もしくは化粧品店でやってみるところ、ありませんか?

 ・・・続く・・・



「現役復帰」 vol.40  (2011年 5月24日UP)


 このコラムのタイトルは「化粧師の徒然」です。化粧師は「けわいし」と読みます。化粧師とは今で言う メイクアップアーティスト。かつては「アーティストの徒然」としていましたが、ちょうど敬愛する石ノ森 正太郎先生(仮面ライダーやバロム1を生み出した方ですから)の漫画「化粧師」が映画化された頃に、 1次中断していた連載を再開したのを機に現在のタイトルに変更しました。

 ただ、私自身がスタート当初のようにメイクアップアーティストとしての仕事をしていたかというと、ほぼ セミリタイア、もしくはマスターズリーグ入りといった状態でした。

 ですがこの2月、現役復帰いたしました。別にまた会社を移ってアーティストに戻ったわけではありません。 現在の会社は3年目になり変わらずです。ただ会社がユーザー対象のメイクスクールを始めたので、 他のスタッフ2名と共にその講師をすることになりました。スクールの最後に「ケーススタディー」として、 参加者が自分で行ったメイクをリタッチするとともに、10人参加者がいれば10通りのメイクアップを見て いただきます。それによってメイクアップの可能性や生活の中における意味合いを感じていただこうという わけです。

 実質1時間半くらいで10名の方のメイクを手直しするのですが、眉・目元(アイライン・マスカラ・シャドー)、 リップライン、チークに手をつけますし、眉は99%カットが入るのでなかなか忙しいです。見学していた 若いメイクの講師は「自分なんか眉とアイラインいじるくらいですよ」といっておりました。どうしてこれだけの ポイントに手を入れるかというと、私は「メイクはガラスのバランスでなければならない」と思っているからです。 「ガラスの・・・」という表現は「もろい・壊れやすい」という意味で使われます。この場合は、どこかのメイクの 色や形を変えたら他のところもそれに合わせて変えないといけない」ということです。目元や眉はずっと同じで、 口紅だけ変えるというのは私の中ではありえません。

 というわけで、バタバタとやっていくのですが、現役の片鱗くらいは残っていたのでしょう。実際これを 1日2クールこなすこともありましたが、特に2倍疲れるということもありませんでした。この1日10名〜20名と いう人数、現役時代に勝るとも劣らぬ人数です。ただし、以前はベースメイクから丁寧にやっていたので 一人の方に1時間くらいかけてましたが。

 ただこの企画がスタートして一月余りで「東日本大震災」が発生しました。被災地はもちろんたいへんですが、 東京も電車は普段どおりに動かないしたいへんな状態でした。当然東京会場は、準備はしても参加者が 来られない状態もありました。ですが世の中には前向きな、太陽のような方がいらっしゃいます。3月14日の 開催でしたが、新潟から片道400km、女性3人でクルマで来られました。結局その回はその3名だけでした。 『中止になるかも、って思われませんでしたか?』と訊いたところ「まったく!」とのことでした。後になって ガソリンは大丈夫だったのかな、などと心配な要素もあるのですが、本人たちは極めて明るく楽しげな様子。 こういう時期に自分がやることを信じて疑わない姿勢は大切だなあと思いましたね。

 と同時に「美」に対する欲求はどんな状況にあっても女性には大切なんだと改めて思いました。 そりゃ 命が一番大切ですよ。その昔教わった「マズローの欲求の5段階説」でも、もっとも下の階層(ベースと なるもの)に呼吸や食事や睡眠を取るという生理的欲求があり、そのすぐうえに安全の欲求がありましたよね。 あと段階的に社会的欲求とか自我とかがあり、最上階に「自己実現の欲求」があって、一般的にメイクアップ とかはこの階層に属するのかなと思われます。 しかし果たしてそうでしょうか?

 実は今回の震災で思い出したことがあります。1995年1月17日の阪神淡路大震災の後、1ヶ月くらい 経ったとき、大坂梅田の百貨店で仕事をしているとき、一人の女性がメイクのために来店されました。 30歳前後・ショートカットで、リュックを背負ってらしたことを覚えてます。この女性の会員台帳を見ると 住所はもろに神戸市でした。『地震の影響は・・・』と聞くと「いや〜家は全壊しちゃったんですけどね、 ハハハっ!」ととても明るくおっしゃいました。そんな状態でもメイクアップサービスは受けたいし、化粧品は 必要なんですね。 少しは話は違いますが、まだまだ文明から少し距離のある、未開の民族っていますよね。 そういう人達にとっては、男性であっても狩にいく前の装束と化粧はとても大切です。そういうことと 震災後のお客様のことなどを考えると、人間は単に生物として生命の維持をするだけでなく、「自分らしく」 いられることが「生きる」ということなのかなと思います。だからこそ生きがいという言葉もあるのでしょう。 であれば「きれいでいたい」という本能は、生理的欲求と同じくらい基本的な欲求であるように思います。 だからこそ地震に被災したような過酷な状況にあっても、「メイクアップを受けに行きたい」ということが 前に向うモチベーションになりうるのではないかと感じています。

 私は改めて「現役復帰!宣言」を行って日本がこの状況から前に踏み出すために、自分の出来ることで 貢献していきます。

5月某日名古屋のホテルにて。今日もこれからメイクスクールに行ってきます。

 ・・・続く・・・



「相変わらずのオブジェクション」 vol.39  (2011年 1月18日UP)


 みなさまたいへんご無沙汰しておりまして、誠に申し訳ございません。
 久しぶりに帰ってまいりました。

 前回の更新から1年半も経った10月のとある日に(そこから数えても3ヶ月経っている…猛省)、 ここの管理人さんからメッセージが来ました。タイトルは「化粧師の徒然」・・・このコラムのタイトルです。 ずっと更新できてなかったので、いよいよ『削除するよ』って連絡かと思ったら、「知り合いの 『化粧師の徒然』ファンの人が最近更新されていないって言ってきてるから、そろそろ書きませんか?」

 ありがたいじゃ〜ありませんか。こうしたきっかけでもないと、いくら面の皮の厚い私でも、 なかなか自分から最新原稿で〜す、って訳には行きませんから。

 そういうわけで。改めてよろしくお願いいたします。

 さて本題です。先日、と言っても昨年になってしまいましたが、友人のメイクアップアーティストから 『テレビに出るから見てね!』って連絡がありました。普段なら見ることの出来ない時間帯だったのですが、 その日はたまたまクルマで仕事に出かけていたので、駐車場にクルマとめてカーナビで見ることが 出来ました。何人かのアーティストが、視聴者のお悩み解決メイクを提案するという、比較的ありがちな 番組でした。(私がネタにした以上突っ込むわけだから、あえて番組名は伏せておきます。因みに 土曜日にやってる、ぐっさんの番組ではありません。)そして、わが友人Nさんの前に出てきたメイク氏 (著名なヘアメイクアーティスト・・・だったのか、どこぞの美容室の人だったのかは、忘れました。 その人に興味ないですから・・・)がおやりになった内容にびっくりしましたよ。なぜって、まだこんなこと やってるのか!? と思いましたから。それはメイクアップの内容そのものもそうですし、テレビ局の 番組制作の姿勢に関してもなんですけどね。

 番組の流れとしては、視聴者モデルが登場し、メリハリのない顔立ちなのだがメイクがワンパターンなので、 きりっとした感じのしかも華のある顔にしたいと言うような要望だったと思います。そこで件のメイク氏が何をしたと思います?

 まず、ビューラーをドライヤーで加熱したのですよ。これは髪の毛をドライヤーの熱でセットするところから きたものだと思います。でも髪の毛だってドライヤー当てさえすればかっこよくなるというものでもないですよね。 かっこいいヘアスタイルになるようにブラシとドライヤーを使わなきゃいけないわけです。ですから睫毛も、熱を 入れれば癖がつきやすいということと、目元がパッチリ見える、というのはまったく別の話です。

 本来ここでやるべきは、いかにして根元から立ち上げるかのやりかたを伝えることだったと思います。でも、 もっと根源的な話をすると、そうしたお悩みなら睫毛を根元からしっかり上げるといいですよってところから 始めないといけないと思います。そして、実際に片方だけやって見せるなりして、左右に差が出てくれば 視聴者もモデルさんも納得するし、そこではじめてメイク氏も評価されるってモンです。

 目的を伝えないで手段だけを取り上げても結局視聴者も、モデルになった方も意味が分からないままで 終わります。何のためにそうするのか、そうすればどうなるのか、意味が分かっていれば一回で出来なくても 練習しようと思うから、身につきます。毎日やるメイクの悩みを解決しようとするなら、毎日出来ることで、解決に なる提案をしないといけません。そこがスコーンと抜けていました。

 例えば料理を取り上げた番組でも、「料理番組」と「グルメ番組」がありますよね。こうした番組はどちらかと言うと 「料理番組」のスタンスであるべきでしょう。最もそんな番組のつくりだから、視聴率も推して知るべしで、たいした 影響はないのかもしれませんが。しかもその番組、MCに女性が4人もいるんですよ。物の分かったような顔した 30代のキャスターみたいな人が。当然毎日自分でメイクしていて、変だって思いませんかねぇ?

 ただし、これだけは言っとかないといけないのですが、ビューラーをドライヤーで熱してカールするは、かつて 瞼をやけどする人が続出した危険な行為です! くれぐれも賢明な皆さんはそんな真似をなさらないように。

 あと、そのときのメイク氏がおやりになっていたのは、流行の紫のアイラインを入れる、ゴージャスなゴールドの シャドー入れるということでした。それがどうしたって話です。単に物が流行っている色だからということで、 モデルになっている主婦との関係性は一切なく登場します。だったらこの方モデルで登場しなくても、『今、 紫のアイラインが流行ってます』で終わる話です。

 もっとも、番組のキャッチコピーに『…今「動き」のある街・人・モノの総合生活情報番組!それが「ものスタMOVE」! ってあるから、やり方よりもモノだけ取り上げる番組なのかもしれません。…あっ番組名言っちゃった!

 ・・・続く・・・



「お客様は神様です。」 vol.38  (2009年 3月24日UP)


 前回このコラムを書いてから、もう3年近く放っておいたことになります。
  (シェンカーさん残しておいてくれてありがとう)

 もうこの「ビューティーサイエンスの庭の」ファンの方からは忘れられた存在かなと 思っていました。ところが先日、名刺交換した美しい女性にこのコラムを読んだ、 面白かったといっていただきました。こちらが止まっていても、世間は動いていると いうことですね。

 それでもう一度書いてみようかとPCに向かっています。

 新たに書きたいことももちろんあってのことですが、いまさら私の視点が大きく変わる わけでもありません。それでもどなたかの何かのヒントになればと思います。いまさら ながら思うのは、ロジックにリアリティのないメーカーが多いなということ。それは客様に とっても押し付けであり、メーカーにとっては売上が上がらない要素になることに気付き ましょうね、ということです。自分も取引先にも両方にメリットがあることを「WIN WINの 関係」などといいますが、この逆の「LOOSE LOOSEの関係」になっているところも多い ように思います。

 とあるブランドの話・・・このアイシャドーはこのブラシでつけましょうと決まっているそう です。そりゃあ私も長年こんな仕事してますから、筆と粉の相性が大切なことはわかって ますよ。でもね、お客様のまぶたの大きさや張っているのたるんでいるのかとか、そういう ことも考慮する必要がありますよね。また同じシリーズの3色セットのアイシャドーなのに、 色番が違うと、同じ位置にある同じ役割のシャドーをあるものはブラシでつけ、それ以外は 指でつけなければならない。おんなじブラシでつくようにしてよって思いません?

 もっというと指でもブラシでもつくでしょそんなものは!

 ブラシにとったアイシャドーを手の甲でブラシになじませたり、調整をするのがNGだそうです。 理由は手の甲の油で色がにごるからとのこと。
???
指の腹じゃあるまいし、そんなに手の甲ってべたっとしてますか? で、案外そういうところに限って、ファンデーションはスポンジより指でつけることを推奨してたり するんでしょうね。(苦笑)

 たしかに開発者の意図したところをもっとも忠実に再現できる条件は限られているかとも 思いますが、購入したらお客様のものですよ。で、自分のものになったものをどう使おうが 勝手じゃないですか。だったら幅広い使用条件でもある程度の性能を発揮するようにするのが 開発者の腕の見せ所、知恵の使いどころってモンでしょう。指定したとおりの使い方を強いるよう なら「い〜らない!」って私なら言います。

 薬にも処方箋の必要な「医科向け処方薬」と「OTC医薬品」(いわゆる市販薬)があります よね。化粧品だってお金を出せば百貨店や通販で買えるものに対してあまりごちゃごちゃ決め 事してたらだんだんお客様にそっぽ向かれますよ。

 「お客様は神様です。」

 初詣もして、お盆に墓参りに行き、クリスマスも祝うほど神様好きな日本人が神にそむいては いけません。

 ・・・続く・・・



「眉唾」 vol.37  (2006年 6月20日UP)


〜眉唾〜
意味:騙されないように用心すること。「眉唾物」の略で真贋の確かでないもの。 信用できないもの。眉唾もの。
語源:眉に唾をつければ狐や狸に化かされないと信じられたことから生まれた言葉である。

 先日新聞に『親が子供に見せたくない番組ランキング』なるものが出ていました。それを みて私はなんとなく『おいおい』という気持ちになりました。そのランキングの1位はロンドン ブーツ1号・2号がやっている『プラチナロンドンハーツ』という番組でした。

 そこに登場するタレントが一般の人からどう見られているかのアンケートを基にした『格付 け』で人気のバラエティー番組です。その格付けがどうも『子供に見せるのふさわしくないと』 と判断されたようです。ところがこれが、まったくどうしてなのか私には理解不能です。実は 我が家は親子でこの番組のファンで、見せないどころか小学生の娘に『今夜は9時からロン ブーの格付けだから見逃すなよ』って電話入れるくらいです。子供に見せたくない理由に挙げ られた格付けも、思わぬ順位にきたタレントのリアクションや、出演者同士の『どうして私が この人たちと同じ扱いなの』といったやり取りが面白いだけで、そんなにテーマに品がないと かってこともないと思うのですが。まあこの辺りは、個人個人色々な感想があることは理解し ています。

 それよりも私が「おいおい」と思ったのは、このアンケートに答えた親の多くは、今から20年 ・30年前に、やはり「子供に見せたくない番組No.1」だった、ドリフターズの「8時だよ 全員 集合!」を見て育ったであろう人達じゃないのということなんです。当時はパソコンも携帯も ゲームもなく、今以上にテレビの影響は大きかったと思います。そしてどんなに親が見せたく ないと思っても、月曜日の学校での話題は必ず土曜日の全員集合でした。で、それを見て 育った貴方たちはそんなに悪い人に育ったのですか? ということです。

 そんなことないですよね。むしろ今となっては同年代との共通認識・擬似連帯感(そこまで 大げさじゃなくても)を感じる材料になってませんか。親か子供かのどちらかしか興味をもて ない番組と違ってその番組が親子の共通の話題になるだけでも、そんなに悪く言わなくても いいのになあと思うのですがねぇ。ほんの少しの過激な表現や芸人のいじり方に目くじら立て てるから大事なものが見えなくなってませんか。 

 今情報が氾濫している美容に関しても同じことが言えます。出版社は基本的に本を売りたい ので、誰か祭り上げられそうな(肩書きの)人間を見つけると「○○革命」とかって大げさなタイトル をつけて、たいした内容でもない本を売り出します。間違ってこれが売れたりすると続編や 続々編を売り出します。これがまたそこそこ売れる、中身は雑誌の美容ページの見出し程度の 内容なのに。

 かくしてテレビの情報番組がそこに乗っかり本人は更に祭り上げられ勘違いをしてしまう。今 現在もこういう現象は起こってるし、こういう人はいるんですね、残念なことに。でも読者も 出版社の編集者も普通に学校で化学の授業受けてたのなら疑問に思わないかこれ? って 言うような内容のオンパレードの本をどうして売ったり買ったりするのか本当に不思議です。

 絶対やめてくださいね、クレンジングオイルを使うとき、事前に水足したりするの。水加えて 乳化させたりしたらその時点でクレンジングオイルじゃなくなりますから。だめですよそんなんで 化粧落としちゃ、というか落ちませんよ、メイクが溶けないから。で、思いっきり擦らないとメイク 落ちませんから、そんなことしてたら肌に負担がかかって大変なことになりますよ。

 本人はまあいいですよ、周りから『あ〜ぁ』と思われててもそれが正しいと思ってるなら。ただね、 そういう輩のせいでこれまで私たちが真摯に接して、アドバイスをし、スキンケアを実践して コンディションを保ってきたお客様の肌が、その間違った情報でダメージを受けることに悔しさを 感じます。同時にこのサイトを見ている皆さんはそういった間違った情報に踊らされないように 願うばかりです。

 何でも疑ってかかるっていうのは悲しいことですが、世の中、悪そうに見えてよくよく見るとそう でもないものより、良さそうに見えて実はでたらめなものの方がはるかに多いのです。

 ・・・続く・・・



「いまどきの若者」 vol.36  (2006年 5月 9日UP)


 5月になると各企業とも新入社員研修が終わった人たちが実際に働き始めますね。 私自身も今を去ること19年前に新入社員というものになりました。当時は『新人類』なんて いう言葉がありました。それまでの人たちとはまるで違う思考パターン・行動パターンで動く 若者をそんな風に言ったのですが、当然私も当時の上司に言われたような気がします。

 しかし自分が中年になるとそういったことはまったく忘れて、『最近の若い子達は変な カッコウするなぁ』とかと思うわけです。まあいつの時代も変なカッコウの若者もいれば変な カッコウじゃない若者もいるわけですよね。私たちの時代も鼻ピーこそいませんでしたが、 たけのこ族もいましたしね。

 メイクの学校なんかで教えてたりすると、新人類ではなくて別の惑星から来たようなのが 結構いるんですよ。男の子だとドラゴンボールのスーパーサイヤ人みたいなのがね。そういう のが就職を意識すると、『先生、俺の髪、面接ダイジョウブっすかねぇ?』とかって訊きに 来ます。『ダイジョウじゃないな。前髪長くて顔見えないし、グリーンはまずいだろう。地球の 日本人に見えるようにしとくんだね。』というようなアドバイスをします。で、これで翌週の授業の ときにきれいに切って黒くなってたりすると、『…素直じゃん。結構使えるかも』と思いますよね。 こういうことって大事なんですよ。相撲の九重親方も千代大海と最初に会ったときに、剃り こみの入ったリーゼントでびっくりしたけど、次に会ったときは丸刈りにしてきて『こいつはモノに なるかなって思った』て『ジャンクスポーツ』に出たとき言ってましたね。ただ髪形直して来た だけのことですけど、目的に向かって、リサーチをし、そのための準備をタイムリーにできるって いうことですから。

 昨年一年間教えた専門学校の生徒にもそういった男子学生がいました。最初はなが〜い 髪で色も全体茶髪で一部紫みたいな感じでした。痩せてひょろとした感じで服装もパンク (古っ)というかなんというか、まあ今時のモード系の若者ファッションそのものでした。ただ、 授業にはまじめに出てくるし課題にもまじめに取り組んでいました。休憩時間にも良く話し かけてきたのでなんとなくいいやつだなあとは思ってました。その学生も面接の時期が 近づくにつれ、色々なアドバイスを求めてきました。髪は勿論ですけど、面接のときに着る スーツにしても実際に見てくださいって、学校までシャツやネクタイと一緒に持ってきましたね。 それで具体的にアドバイスを求めてきました。これはアドバイスをする側には大変ありが たいです。『どんなのがいいですか?』ではなく、『これを準備しているけど、どうですか?』の 方が、そこを基準にどうすればいいっていうアドバイスができますから。まあ彼がそこまで 考えたかどうかは別として、学校までわざわざほんの数分のアドバイスを受けるために 持ってくるあたりが、評価できるところですよね。

 それで、面談のときに希望進路を訊いたら、たまたま私の友人が事業部長をやっている ブランドを希望していました。こいつついてるなと思いましたね。それというのも、その彼は 極真空手の有段者だったんですが、実はその事業部長の趣味が空手であることを私は 知ってましたから。それでそこをきちんとアピールするように指導して、勿論別にこちらからも 推薦状を送って、無事合格と相成りました。といってもあくまで試験をして本人が基準に 達していたから合格ということなんですけど。

 今どきの若者もやっぱり育ちがいいと素直でいいなあ、なんて思ってました。私は年初の 面接で本人の履歴書も見てますから、その生徒の実家は何か事業をやっていると思って いたのです。しかし、どうもカン違いだったみたいです。

 最近彼に現在の様子を聞こうと思って、ランチに誘いました。その時仕事に関してご 両親はどう言ってるって訊いたときのことでした。『親とはあまり仲良くないんで、別にどう こうってないんですけど』って言うんです。見た目と違って人懐っこいやつなんで、親子の 断絶っていうイメージもないし、20歳過ぎて反抗期でもないでしょうし、何でだろうと思い ました。実は彼のご両親は彼が高校のとき離婚して、その後お互い再婚されたので なんとなく彼は居場所がない感じになり、高校中退してアルバイトで生計を立てて一人で 暮らしてたというんです。で、色々だと思うんですが、彼が通ってた専門学校の授業料は 年間100万円超えるんですよ。それに関しても、目標決めた時点でバイトしたお金を貯めて たらしいんです。魚屋でアルバイトして週六日で月30万以上稼いで、それを貯金して 捻出したというんですね。勿論学校に行ってからも色々バイトしてたみたいです。

 いやぁ、びっくりすると同時にいたく感心しました。まったく屈託のない子なので、まさか そんなに苦労しているとは思いませんでした。それだけの準備をして専門学校に通って いたわけですから、面接の準備をするくらいなんでもないわけですよね。

 よく自分がしっかりしないのを周りの環境のせいにする人がいます。でもそればっかり じゃないと思いますね。その環境が良くないと思ったら、そこから抜ける努力をすれば いいわけですから。

 件の彼は、10代にして、すでに経済的にも精神的にも自立していたんですね。 (こういう強さがないと、極真の有段者にはなれないんですね)果たして自分が同じ環境に あったら、心を折らず目標に向かっていけるかといわれたら、自信ありません。(この 連載さえ間が空きすぎてますから)ただ、こういう苦杯がいる以上、私も負けられないと 思って頑張るだけです。

それにしても『今どきの…』なんて一括りにしちゃいけませんね。人それぞれです。 今どきの若い者も捨てたモンじゃありません、結構やります。

 ・・・続く・・・



「外見が大切にされる時代」 vol.35  (2006年 1月 2日UP)


 前回一年ぶりに更新したこのコラム、多くのところで反響をいただきました。ほとんどが『更新 されないのでどうしたかと思っていた』というものでした。そして、それらの意見をいただいた 方々にはもちろん、久しぶりに更新しましたなんていう案内は差し上げてないわけですから、 常にこのサイトを気にし続けていただいたということになります。もちろん小生のつたないエッセイ などよりも魅力的なコーナーが数多くあることが、それらの方々をひきつけていた要因ですが。 岡部さんをはじめ「心のオアシス」のあやきちさんたちが頑張ってくださっているおかげで私も忘れ 去られずに済みました。
「ありがとうございます!」

 さて今回の本題ですが、ビジネスにおけるメイクや笑顔について書きたいと思います。

 本当は別の内容で書き進めていたのですが、今回内容を変更しようと思わせることが重なり ました。前回も、仕事場におけるメイクの指導について少し触れましたが、今回も関連しています。 というのも、仕事中のメイクの指導をしてもらえるかという問い合わせが最近結構来ているのです。 それも例えば自動車ディーラーのようなファッションと直接は関係ない業種からくるようになり ました。やはりこれだけ品物や情報があふれ『絶対ここでしか購入できない、似たようなものが ほかには存在しない』といったものがなくなってくると、最後はかかわっている人の善し悪しに なってきますからね。で、仕事中制服着用だったりすると、それを表現しやすいのは、やはり「顔」 ですから。これは何も女性に限った話ではないようです。

 私が時々読んでいるビジネス誌にも笑顔の作り方や、男性のスキンケアの方法が載っていました。 しかしここからが「あれあれテレビ番組」ならぬ『あれあれ雑誌の特集』です。もとNHKのメイク室で たくさんの俳優さんたちのメイクをしてきた人が出てきて、『冬場肌荒れした時は、その部分に綿棒で 酸化したてんぷら油をつけるとよい』と提唱されていました。曰く『酸化した油には肌荒れを治す力が ある』からだそうです。

 男性が女性よりスキンケアに弱いからってバカいちゃあいけません。何でわざわざ『酸化した てんぷら油』を探してこなきゃいけないんですか。増してや読者の半数は独身だろうって言うターゲットの 雑誌ですよ。大多数は酸化したてんぷら油の入手には困難をきたすと思います。そんなことしなくても、 いまどきドラッグストアで千円も出せばそれなりに効果のあるクリームが入手できますし、妻帯者なら 奥さんのクリームでも美容液でもちょいと使わせてもらえばいいじゃないですか。あざとい内容 載せるだけが雑誌の特徴出すことじゃないと思いますけどね。まあ、何かが注目されるとそこには 玉石混交いろいろ集まってくるからこちらで判断しなければいけないということですかね。

 さて、話を戻してオンタイムのメイクアドバイスに関して私なりの方法論を一言申し上げておきましょう。

 まずメイクの前にその会社・そのブランドにお客様がどんなイメージを持っているか、これを具体的に ディスカッションしてもらいます。そしてさらに、ではそのイメージを維持し高めるためには「私たちは どうあらねばならないか?」というテーマで再度ディスカッションしてもらいます。その後ですね、それを メイクで表現するにはどうすればよいか考えてもらいます。その後、私からプレゼンテーションするのは。 色彩心理やコミュニケーション学といったものをベースにして、こういった色でこういうつけ方をして くださいということですね。その際、各アイテムを上手に使うための方法もお教えします。これがないと 日々のメイクのユニフォーミティーが低くなりますから。

 ただ単にメイクアップのアドバイスをすると、時がたって雑誌見て「今シーズンのメイクはこういう テイスト」なんて書いてあるとつい影響されて、教わったのと違うメイクになったりすると思うんですね。 もちろん多少そういったものを取り入れるのも大切ですが、全面的に取り入れるのはプライベートの ときですよね。仕事のときのメイクは個人の趣味が入り込む余地は少ないと思いますよ。

もちろん、ノーメイクなんて論外です!

という訳で、今年も辛口ジョークを絡ませながら、忘れられないよう更新をしていきますので、よろ しくお願いいたします。

 ・・・続く・・・



「帰ってきた化粧師の徒然」 vol.34  (2005年 11月 8日UP)


 「帰ってきた…」「○○リターンズ」「まだまだ…」など映画やテレビで続編を作る場合こういうタイトルを つけることがあります。別にこのコラムは続編ではないのですが、ずいぶん間が開いてしまいました。

 というわけで、恥ずかしながら帰ってまいりました。いやぁ〜ホントのお恥ずかしいf^_^;

 まずはどうしてこんなにあいてしまったかという言い訳から。はにゅうさくるさんと同じような事情ですが、 昨年一年間、私めは「子供会の役員」なるものをおおせつかっておりました。以前は出張途中の新幹線の 中か、休みの日に書いておったのですが、出張は減るは、土日は子ども会の行事で忙殺されるは(土日に 限らず有休をとってまで参加せねばならない行事もありました。) という訳でとても書いておる余裕が ありませんでした。

 その子供会の役員の任期はこの3月いっぱいで終了したのですが、そしたら急に仕事が忙しくなりまして (有難いことです)またまた書く余裕がなくなってしまいました。(言い訳コーナーだからこのくらい言わせて ください。)何せ深夜零時過ぎに帰宅して、朝は6時になると家を出る生活。忙しいですよ〜自宅に6時間 しかいないのだから。その間に晩御飯食べて、朝ごはん食べてと食事だけでも2回しなきゃいけない。 しかもお風呂に入って、あと睡眠もとらなきゃいけないわけですからね。夜はいくらか早く帰れるようになり ましたが、朝は今でも5時に起きてます。

 さて、言い訳はこのくらいにして、今回の本題に入りましょうか。

 最近思うんですよね、なかなかメイクアップの理論って進化しないし普及しないなぁって。以前メーカーの アーティストをやっているときはある程度決まった範囲のお客様(つまりそのメーカーの顕在的・潜在的ユー ザー)を相手にしていました。ですからお客様の価値観にはある程度の共通点があり、同じような情報に 信頼を抱く傾向がありました。といっても実際は、それこそいろんなお客様がいらして千差万別なのです。 自分が啓蒙しない限りは新しいメイク理論や、そこまで大げさでなくてもメイクメソッドは浸透しない、と いうのは無意識のうちに理解していたようです。

 ところで最近仕事でアパレルブランドや他のファッションブランドのスタッフの方にメイクレッスンすることが 多くなりました。トータルファッションという言葉が使われるようになって久しいと思いますが、そういう方でも メイクアップとファッション(狭義の)のバランスなんかほとんど無頓着です。色くらいはコーディネイトしなきゃ という気持ちの方もいらっしゃるようですが、生地の厚さと色の強さとか全体の雰囲気なんかまるで考え られてません。相変わらず眉は難しい、どこに描いていいかわからないというのがほとんどです。われわれは プロとしていったいどれだけの啓蒙活動をしてきたのでしょうか。結構直に接点のあるお客様には指導させて いただいたと思うのですが、メディアに比べると地道で、一気に広がることはないですからね。そのメディアも どこまで使命感があるのかって気もします。だいたい雑誌のメイクページなんかわずかな色の違いや、撮影時の 強い光の下では判りづらいような淡い色をきれいに出すために、白めに肌を仕上げてそれが不自然に見え ないように、どアップでピントはそこにしかあってないから、どんな服着てるかさえわかりゃしない。といっても、 どアップにしないとメイクしているのか判らないのも事実ですけどね。

 それで結局カッコイイお姉さんがカッコイイメイクしてカッコイイ服売ってれば、それをマネするコも増えるかな と思って指導してますけどね。でもなんか深遠な話のような気がします。なんかじれったいですねぇ。いっその ことどっかの雑誌で僕に連載任せてくんないかなぁ。

 でも間が1年空くのは連載って言わないっていう声が聞こえてきそうです。どうもスミマセンm(_)m

 ・・・続く・・・



「肌ラマダン?」 vol.33  (2004年 10月27日UP)


 私事ですが、遂にというかやっとというか、ちょっと前に40歳になりました。

 高校生の頃、『40歳になったらこうなっていたい』という目標があったんです。 実は『藤竜也』みたいな 中年になろうと思ってたんですよ。今じゃ藤竜也って言ってもぴんと来る人も少ないですかねえ。藤原 竜也じゃないですよ。僕が高校生の頃は『プロハンター』という連続物の探偵ドラマで草刈正雄とコンビを 組んでました。この番組は結構ヒットして、主題歌の「Lonely Hart」も売れて、歌っていたクリエーションと いうバンドがベストテン番組に出たりもしました。このクリエーションは、竹田和夫さんと言う有名な ギタリストが作ったバンドで、このときはGSのカーナビッツ(といっても道案内はしてくれませんが…)の ボーカル兼ドラマーだったアイ高野さんがボーカルを取ってました。このときというのは竹田さんは同じ クリエーションという名前のバンドを何回も結成したり、解散したりしてるからです。このバンドには結構 他にもヒット曲がありますが、一番メジャーなのは、プロレスのザ・ファンクス(元フジテレビのアナウンス 部長だった露木さんに似た兄のドリー・ファンク・ジュニアと、その弟のテリー・ファンクのチームで、 ブッチャー&シーク組みと抗争を繰り広げました)のテーマ『スピニング・トゥ・ホールド』でしょう。

 藤竜也は化粧品のコマーシャルにも出ています。ポーラが一社提供してたTBSの午後の枠で やっていた『おりん』に出演した縁からか、ポーラの男性用のトワレかなんかのコマーシャルをやって いました。他にもアクション系や不倫系(?)のドラマに次々と主演して、とてもかっこよく見えました。 『シブい』という言葉がこんなに似合う人もいないと思うくらいでした。以来十数年、目指したものと違う ところに行き着くというのは別に珍しい話じゃありませんよね。(苦笑)

 さて、ではどんな40歳になったかというと、経時変化が進んで、それなりにくたびれては来てますよ、 実際。免許更新のたびに輪郭が緩んできてるのは実感してるし、体は硬くなってくるし,ずっとパソコン みてると目がショボショボしてきたりと、まあいろいろあります。何よりここ最近は肌が汚くなってきた 感じがして、自分でも嫌でしたね。具体的にはキメが粗く、ハリがなくなった感じがいつもしてました。

 しかし、これからまだまだひと花もふた花も咲かせなきゃいけない中年としては、これではいかんと。 まずは外見からということで、肌をきれいにすることにしました。それまでも結構ケアはしてましたし、 肌がきれいといわれることはあったのですが、自分で満足の行くレベルではありませんでした。そして やはり基本に戻ろうと思い、化粧水の大量投与を試みました。やはり年齢と共にいろんなところが 乾いていくのを感じてましたから。眼球が乾いてコンタクトが長く入れてられなかったり、指をなめないと ページがめくれなかったりとかね。

 それで、毎日ローションマスクをやりました。劇的に違いましたね。3日間くらいで肌の明るさとキメの 細かさがまったく違ってきた感じがしました。これも昔の話ですが、三田村邦彦が『人間は水ダーッ!』て コマーシャルしてましたけど(ダイドーの『スポーツエネルギー』というアイソトニックドリンクです。) まさにその通りです。

 さっきケアはしっかりやってると書きましたが、夜は結構サボることもありました。面倒なんですよね、 やっぱり。何で夜かというと、朝は髭を剃るので、どうしても手抜きは出来ないわけです。髭剃った あとに何もつけないでいると、冬なんか本当に粉吹いたみたいになって、痛いくらいですから。 でも夜はお風呂から出て、何もつけないでそのまま寝ることもありました。どうせ男で皮脂膜は しっかりあるし、なんて思い込んで。ところが何もしないで寝た翌日は髭剃りが不調なんですよ。 思うに前夜お手入れしてないから、角質層の柔軟性がなく、表面が毛羽立っていてかみそりが スムーズに動かない。潤いもないからかみそり負けしやすいといったところが原因でしょうか。

 でね、ここからが本題なんですが(って『おまえ前振りでこんなに読ませたのか』って言わないで くださいね。これもエンターテイメントですから)、ラマダンってあるじゃないですか、イスラム教の 人の。その期間は断食しなきゃいけないって言う期間が。イスラム暦の9月らしいですけど。 でもあれは日の出ている間のはなしで、夜はどれだけ食ってもいいんですよね。肌断食に なぞらえて言うと、まあ昼夜の逆はあれど、僕が夜、何もつけないで寝たのは言ってみれば 『肌ラマダン』だったわけです。 で、結果はというとさっき書いたとおりです。

 もちろん中にはそれで調子の良くなる方もいらっしゃると思うんですよ。ただし、その方は間違った お手入れをしていたか、肌に合わないものを一生懸命塗ってたんだと思われます。『肌断食』なんて いうと何だかよさそうに聞こえますが、要するに「ネグレクト」ですからね。そんなことで肌の調子が 良くなるのなら苦労しませんよね。 

 ・・・続く・・・



「香港化粧事情」 vol.32  (2004年 7月20日UP)


 香港へ行ってきました。もちろん仕事で。12年ぶりの海外に、それも一人で。化粧品の売り方の指導が 主な目的です。 今日本でよく使われている美容成分の説明や、デモンストレーションの仕方をレクチャー してまいりました。

 行く前に香港は東京に比べて気温も湿度も高く、過ごしにくいと聞いていたのですが、私自身はそう感じ ませんでした。東京の夏の日中のメインストリート沿いは、アスファルトの照り返しとクルマやビルの エアコンが発する熱でかなりな暑さです。 都会の夏の暑さとしては同じような条件ではないでしょうか? また名古屋に行くとさらに東京より蒸し暑いと感じます。あるいは福岡の天神は東京でいうと銀座にあたり ますが、夏は電話が聞き取れないくらい街の真ん中で蝉が鳴いていて、そのせいで実際より3割増で暑く 感じます。ということで、香港の気候は東京より多少暑いのかもしれませんが、熱帯じゃあるまいし、せい ぜい九州と同程度でしょう。

 そんな香港の女性たちはほとんどメイクをしていません。口紅を塗ったり眉を描いたりはしていますが、 ベースメイクからきちんとしている香港の女性は全くと言っていいくらい見掛けませんでした。滞在期間中に 話しをした人でフルメイクしていたのは、ジャッキー・チェンのオフィスに所属する日本人の女優さんくらいでした。 それでどうして皆メイクしないのか訊いてみたら、『香港は蒸し暑くて、メイクしてもすぐ崩れるから。それに 香港の女性はがんばって働くから、メイクにかまけている時間はない。』ということでした。

 まあ考え方は人それぞれ、お国柄もありますから自由ですけど、僕にはかっこよくは見えませんでした。 香港の人はよく働きます。しかし日本人だってそう変わらないと思いますよ。ビジネス以外の部分では むしろ日本の女性のほうがやること多いでしょう。香港の多くの人は自宅で朝食をとりませんから、 その支度がないだけでも、朝はゆとりがあるはずです。それに大して広いエリアではありませんから、 通勤時間も日本より圧倒的に短いはずです。

 結局働くことの目的の多くが「お金」にあるからだと思うのです。これは別にそれがいけないと言っている わけではなくて、違いだと思うのですが、日本の女性はそのお金で得られる自己実現に働くことの目的が あるような気がします。あるいは、香港は今や中国であり、その中国は全体的に見ればやっと市場経済を 導入し始めたばかりで、いまがんばっておけば一攫千金、成り上がりも夢じゃないから必死なのかもしれません。 日本はシステムが出来上がってしまっており(しかも老朽化して欠陥を露呈してしますね)、普通の人が 普通にがんばっても、そうそう収入が莫大に増えるチャンスは少ないので、そうじゃないところに自己実現を 求めて、美容に走っているという面もあると思いますが。

 今回は仕事で行ったので、会う方々はほとんど美容関係の方ばっかりだったにもかかわらず、彼女たちが ほとんどメイクしていなかったことを、僕が不思議に思ったことが、彼女たちにはプレッシャーだったようで、 『メイクしないと私はきれいじゃないか?』訊き返される場面もありました。そのことで気づいたことがひとつ あります。

 僕は化粧という分野において、メーカーがお客様に商品とサービスをあわせて提供するとき、お客様の 感じ方として「スキンケア」=「must」、「メイクアップ」=「fun」という風に勝手に決めていました。カウンセ リングを受けて自分の肌悩みにあったお手入れ方法とスキンケア商品を教えてもらい、それを実行するには いくらかの義務感が伴い、いつも店頭でその話ばかりだとお客様も疲れてしまう。そこでいくらかの楽しさ提案 としてのメイクアップがあると、そういう考えですね。しかし今回香港に行って感じたのは、メーカーが提案できる 「fun」な部分としてのメイクアップというものがあるのは確かであるが、必ずしもメイク=「fun」ではないことも あるということですね。それを理解したうえで改めて思うのは、メイクアップはマニュアルシフトのクルマを 運手するのと同じ「プレジャー」があるということです。

 いまやF1でさえもシフトはオートマチック(セミ・オートですが)ですから早く、そして正確にドライビングする と言う点では機械に任せたほうがいいのかもしれません。それに市販車レベルだと楽でもありますし。しかし だからこそマニュアルトランスミッションを自由に操ることができ、それを駆使してドライビングすることには オートマチックにはない「プレジャー」が存在します。

 メイクがもつ「fun」な部分とはかなりこれに近いかなとも思いました。今後はそのことを踏まえたうえで メイクアップを考えていきたいとおもっています。

 ・・・続く・・・



「アーティストの憂鬱」 vol.31  (2004年 4月 5日UP)


 『もしもし、久しぶり。実はメイクアップアーティスト探してるんだけど、誰かいないかなぁ。若くてルックスのいいの。 メイクは普通にできれば、特にうまくなくていいや。ヨロシクネ〜。』

 最近アーティスト探してくれという内容でかかってくる電話は、大まかに言ってこういうものが多い。売り場の花として 華やかな雰囲気を盛り上げてくれればそれでいい。メーカーとして店に対する義理は果たせるし、売上もいくらか 上がるし、お客さんもまあ喜んではくれるだろう。それに若い子であれば、ギャラも大して高くないし。

 まるで色物の扱い。格闘技イベントのラウンドガール程度の役割。F‐1中継の視聴率上げるためにイケメンの俳優や、 オネーチャンタレントをレギュラーにするテレビ局と同じような発想。それよりも鈴木亜具里のわかりやすい解説と、カワイ ちゃんのマニアックな視線から見た、リアルタイムなレポートの方がどれだけ真のファンを増やせることか。(注:レーシングの 世界では常識ですが、その世界に関心無い方は無視してください。ていがさんは私と同様にF1をはじめとするカー・ レーシングの世界が好きなのです)

 そもそも何のためにアーティストがいるのか? 「普段動かないものをこの機会に推奨してください。」と、店頭での メイクイベントの打ち合わせでこう言われることがある。それでもって推奨品リストに入ってるのが、なんとなく顔につやが 出るグリッターとかのいわゆる雰囲気商品。普段スタッフが売れないものを進めてほしい、それはわかる。ただし、それは あくまで基本的な定番アイテムにした方がいい。なぜなら顔がキラキラになるだけの雰囲気商品は雰囲気で売るもので、 きちんと計算されたメイクアップ効果は期待できないのだから。そこには「ファンデーションの色は01より02のほうが 合ってますよ。」 「顔の赤みが気になるなら、グリーンのシャドーは避けたほうが賢明です。」というような論理的な必然性は どこにもないのだ。

 そんなものはスタッフが気心知れてるお客さんに、売ったほうがいいよ。それよりもこの機会に一度使うと今後もリピートが くる、あるいは「新色が出ました」といって、次の機械も容易に紹介できるもの、そういった継続性のあるもので、普段売れない ものをアーティストに売らせるべきである。

 アーティストが勧めることで化粧品が売れるのは、かっこいい男の子が進めるからではない。その人に本当に合うものを 使って、それできれいになれるからお客さんがそれを使おうと思うのである。そんなことも考えないで、コンパニオンにして しまおうというメーカーの浅い考えが、メイクアップをお客さんの実生活とオーバーラップしないものにしてしまっている。

 化粧品メーカーは「顧客育成」を声高に唱える。まあ化粧品に限らないけどね。かつてトヨタも『いつかはクラウン』なる 名コピーを生み出した。あれは当時で言うと、スターレットやカローラで捕まえたユーザーを、カリーナ、コロナ、マークU (クレスタ、チェイサー)を経て、最後はクラウンまで育成しようというメーカーの目論見を現すものであった。ただそれが まだまだ右肩上がりだった日本経済とリンクして、個人の成功をクルマでシンボライズしようという一般大衆意識にうまく乗った。 あるユーザーの人生におけるカーライフ(死語かね?)を、すべて自社のヒエラルキーの中で収めてしまおうという奴で、 最もわかりやすく、しかも当時成功した顧客育成の例である。

 それを化粧品メーカーも必死でやりたがる。だけど、スキンケアでしかできないと思っている節がある。実はメイクでも 十分可能である。例えば、ビギナーに関しては、(ファンデーションと口紅くらいは既に持っていると仮定して)チークと マスカラがあればそれを瞼と眉に使うことで、まずはフルメイクしたように見える。(このことは前にも書きました) それが できるようになったら、次はアイブロウ、アイシャドウと使うものを少しずつ拡大して、半年から1年かけてアイラインや シャドウの多色使いができるようにしていけばいいのである。今持ってるものを使えるようになってから、次のものを使える ように指導し使用品目の拡大を図る。十分顧客育成ができるはずだ。しかもおなじ「化粧」でもスキンケアは「must」な感じが するが、メイクは「fun」な部分をアピールできる。顧客メンテナンスとしても有効だ。なのにいきなりコンシーラーのような 難しいものや、冒頭に述べた雰囲気商品に走りたがる。

 ある女性がきれいになるためには、「メイク」「スキンケア」はどちらかが「主」でどちらかが「従」であるわけではない。 ただ個々のユーザーの持つ種々のファクターによって、そのプライオリティーが変わってくるだけである。まったく主張がないと メーカーの個性も無くなってしまうが、だからといって得意なところだけで商売しようとして、本来育つマーケットを自らつぶして いくような愚はこれ以上犯してほしくないと思う。

 しかし、私の憂鬱の理由はこれだけではないのだ・・・・。

 ・・・続く・・・



「スタンスの違い」 vol.30  (2003年 12月24日UP)


 先日の更新で、ここの家主が「メディアの情報の中には、研究者同士で検証されていないものも結構あるので、 鵜呑みにしないように」というようなことを書いておられました。僕もまったく同感です。メイクに関しても同じようなことが よくあり、ちょっと考えると「?」と思うようなことが平気で雑誌に載っています。 

 例えば夏場によく出てくるのですが、あるヘアメイクの方が「化粧崩れの防止のために、冷たく冷やしたタオルや アイスノンを肌に当ててからメイクする」というものです。これ、まったく逆効果です。いまどき高校野球でも試合後の ピッチャーは肩をアイシングしていますよね。これは一度冷やして毛細血管を収縮させ、その後のリバウンド効果で 圧倒的に血流量を増大させ、疲労から早く回復させるものです。血流量が上がるということは当然体温も上がります。 つまりメイク前に肌を一度冷やすと、その部分が体温が上がって崩れやすくなる可能性があります。また、化粧崩れを 防ぐ鉄則はメイクしたあとに引き締めることです。冷やすと皮膚が収縮します。その後、弛緩するわけですから余計に 崩れやすい状態になります。

 こういうことは普通すぐに気づくと思うのですが、編集者も相手が有名だとついそうかと思ってそのまま載せてしまう のでしょうか。同じ方がいろんな雑誌で発表されてるんですよね。まあ、その方はメーカーのアーティストではなく、 ヘアメイクと呼ばれるスタジオの中だけの方なので、メイクの被験者はメイクのあと、汗をかきかき駅まで歩き、 満員電車に乗ったりせず、照明の前に短時間立つだけなのでいいのかもしれませんがね。それを一般読者に そのまま当てはめるのには無理があります。

 さて、ちょっと前に「ビューティーエキスパート」の大高博幸さんと一緒にお仕事をする機会がありました。実は以前から お互い知らぬ仲ではなく、家も電車で12分のところにあったりします。それで一緒にやった仕事というのは、彼が トークショーでお客様を集めて、その集まった方たちに僕らアーティストチームがメイクをするというものでした。

 そのトークショーの中で大高さん自身もメイクのデモンストレーションを行ったのですが、口紅をつけるときに大高さんは 2色をブレンドしていました。『毎日違う自分と出会いたい。毎日新しい、昨日と違う自分でいたいでしょ。』というのがその 理由でした。

 ところで、僕はメイクをするとき口紅に限らず、絶対色を混ぜないようにしています。なぜか?それは料理のレシピと違って 混ぜるもの同士の量を規定できないからです。言い方を変えると再現性が低いから。だからといって大高さんの話を聞いた ときに否定的な気持ちはまったく起きませんでした。むしろ『なるほど』と思いました。日々昨日と違う、新しい自分でありたい ってすばらしいと思いませんか。もう僕らくらいの年になる必死にあがいて前に進んでるつもりでやっと現状維持ということが ありえます。ふと「いつもと同じでいいや」と思ったとたんに、同じところにいるつもりで後退している自分がいる。そんな 時代に毎朝新しい自分でありたいというのは、マンネリを防ぐ大きなモチベーションです。

 ではなぜ僕と大高さんの考え方に違いがでて、それを僕自身受け入れられるのでしょうか。それはスタンスの違いです。 僕はお客様にメイクをして差し上げます。お客様には『自分でもやってみたい、できそう。』と思っていただかないと いけないんです。だからこそ再現性の高さが重要であり、そのためには色を混ぜないことを基本にしています。しかし、 大高さんは多くのユーザーの代表として自分自身も化粧品を使いメイクをされます。そしてそういった自らのスタイルや スピリットを啓蒙していくことを使命とされているんです。ですからその考え方がユーザーに伝わることが大切なわけです。 そこが方法論を受け入れていただかなきゃいけない僕との違いと言えます。

 そういう眼で一度メディアの情報をスクリーニングしてみてはいかがでしょうか。

 ・・・続く・・・



「幻のTVデビュー」 vol.29  (2003年 10月21日UP)


 私の好きなミュージシャン、甲斐バンドの曲に「噂」と言うのがあります。ある日テレビを見てたら、どっかのテレビ局の ディレクターが不意に電話してきて『ヒットチャートのなかにあなたがたの席もあります。』といった内容で始まります。

 私への出演以来もまったく不意にかかってきた一本の電話でした。『○○放送の△△と申しますが、てぃがさん いらっしゃいますか』

「わたくしですが」

『先生の記事を拝見しまして、電話をしておりますがテレビに出ていただくことは可能でしょうか?』

「はあ? で記事とはいったい何をご覧になったんでしょうか?」

最近雑誌にも載ってないし、かといって悪いことして新聞沙汰になった覚えもないし、なんかの間違いだなと思いました。

『失礼しました。CREAの春ごろ出たものです。』 (あれっ、それって俺じゃん。)

 話を聞くと、とある局が「メイクでいかに若くなれるか」を特集した番組を作りたいとのことでした。それにしても驚き ましたね。確かにCREAの3月号には載りましたし、その内容はここでもとり上げましたけど、名前以外、所属とか 電話番号とか載ってませんでしたから。よくぞ調べてきていただいたと思いました。それにあまた存在するアーティストの 中から私を選ぶというのもかなりマニアックでオタッキーな視点です。最も番組の性質上あまり頻繁にTVメディアに登場 してない人、つまり有名じゃない人を探していたようですが・・・。

 まずは電話で、メイクによって若く見せることは可能か、と言うような質問がありました。もちろんイエス。その手法に ついていくつかの質問をされましたが、その時このコラムが役に立ちました。基本的にここでは、いかにロジカルに言葉 だけでメイクを伝えるかという事を自分に課していますから。

 具体的な手法としては、大きく二つ提案しました。一つは顔を小さく見せること。というよりもパーツと地の部分の面積比率を 変えるということです。人間子供のころと大人になってからと眼の大きさは変わりません。しかし顔全体は大きくなっていく ので、その比率を子供のころに近づけることによって若く見せる事ができます。それに付随して同じ眼に関して言うと、丸く 見せる、それからなるべく顔の真ん中の高さにあるように見せるということがポイントになります。これは眼の下側をメイクする、 つまり下にアイラインを入れたり、下のまつげにマスカラを着けることで一挙にクリアできます。年齢とともに眼の位置が 高くなったり、切れ長になっていきますから。

 二つめはハリを出すことです。やはり年齢とともに顔の筋肉も衰え重力に抗することが難しくなります。それをメイクで カバーすることは可能です。ファンデーションの着け方一つで顔がリフトアップして見えます。それを特殊な技術であるかの ように振る舞うアーティストの方もいらっしゃいますが、僕に言わせればまっとうな技術さえあれば誰にでもできます。 それに関連して顔の重心が下がってくるとふけて見えるからそうならないような口紅選びをするということですね。

 相手が男性のディレクターだったのでそういうふうに説明しました。なるべく「感性」という曖昧なところに逃げ込まないで、 すべての選択・技術に論理的な裏付けが存在すべき、というのが僕のメイクのスタンスなので先方も理解が容易だったようです。 また、番組を作る上ではそういった裏付けなしにはナレーション一つ入れられませんから、ぜひ取り組み対といってもらいました。 その語実際に何度顔うちあわせを行いました。一回の打ち合わせは実技と検討を含めて4〜6時間にも及びました。非常に 真摯に番組を作っているなと思いました。

 ただしテレビって無理してるなと思わせられる部分もありました。なるべくお金を掛けずに、家庭にあるものを使って メイクをするという提案をしたい、たとえば口紅をブラシを使わないでバターナイフか何かで塗れないかなんて話しも出て きました。それからメイクの切り口をすべて同じ方向性に持っていけないかというものです。要するに若見せメイクの法則を 作りたいわけです。ですがこれってちょっと無茶ですよね。ふけて見える理由は人によって違いますから。

 つまり正しい方法、まっとうな方法よりも新しい方法を求めているという感じです。「美容の話」で岡部さんがテレビに 関しての警鐘を鳴らしてらっしゃいましたが、まったくそのとおりだと思いますね。ただし、このときのスタッフは姿勢としては まじめだったと思います。

 で結局僕は今所属してる会社からNGがでて、残念ながら僕のテレビ出演はなくなりました。スタッフの方と何十時間も ミーティングを重ねてたし、とても残念でしたけど・・・。田舎の両親にテレビに出てる姿を見せたかったんですけどね。(笑)

 まあでも、そういうスタッフの目に留まったということで良しとしましょう。

 ・・・続く・・・



「顔を割る」 vol.28  (2003年 10月 2日UP)


 顔を割る〜本当に立体感を作る方法〜

 前回古武術研究家の甲野善紀氏のことを書きましたね。こんな内容誰か理解してくれるのかしらん? と思いながら 書きましたが、さすがはこの庭の一員、はにゅうさくるさんが甲野氏をご存じでした。その甲野氏は前回紹介した 『井桁崩し』の他にも多くの理論を発表されています。その一つに『多要素多方向同時運行把握』というのも提案されて います。

 詳しくはここでは触れませんが、それを説明するときのたとえとして「大きな魚がグルっと向きを変えるより、大きな魚と 同じくらいのかたまりの小魚の群が向きを変えるほうが早い。体もいろんな部位を個別に同時に動かした方がすばやい 動きができる。」というものです。これを甲野氏は『体を割る』とも表現されています。

 そしてメイクに関しても、このたとえと同じようなことを僕自身気付いたのです。それは顔を小さく見せるということを 理論的に説明しているときの事だったのですが、そもそも顔を小さく見せる、あるいは立体感を着けるということは 前面投影面積を減らすということです。(前面投影面積なんて言う言葉は車や飛行機のような乗り物に興味のある人にしか 通じないかな? もともと流体力学の空気抵抗に関する言葉ですからね。)

 簡単に言うとまっすぐな紙を丸めると実際の面積は減っていないのに、正面から見ると面積が減った感じがします。 メイクで顔を小さくするというのはこういう事と同じだということです。

KAOWARI

 高いところを明るくして、低いところを暗くする。一般的な手法としては額・鼻筋・アゴ・頬骨にハイライトを入れ、眉山の 外やフェイスラインにシェーディングを入れているようです。これは顔全体をひとまとめにしているわけですが、これでは 正直言ってナチュラルメイクの範囲では大きな効果は期待できません。ですがこれを眼・唇といった各パーツ単位で 行っていくと、顔全体に対してのみ行う場合に比べてかなりつよくそのコントラストを着けられ、その結果、効果も絶大で あることに気付きました。これも最初からその方が顔が小さく見せられると思って行ったのではなく、よりリアリティーを 追求していく過程で生まれてきました。

 世の中には多くのメディアで活躍する著名なアーティストが多くいますが、その人たちの作品のでも、唇やマブタの持つ 立体感を常に意識しているとは言いがたいものがあります。僕自身は常にそのことを意識してメイクしていきたいと 思っています。ですからリップメイクにおいて一本の口紅しか使わなくても、最初に紅筆を置いた口角が最も色が濃く 唇の中央に向かうにしたがって、力を抜いていき口紅が薄くなるようにします。またリップラインを描いたらもう紅筆に 口紅は足さず、残ったもので薄く中塗りをします。こうして口角が引っ込んでいて真ん中が出ているという唇の立体感が 常に損なわれないように気をつけています。これを意識せず唇の輪郭もなかもおなじようにベタ塗りしてしまうと、 せっかく丸めて前面投影面積を減らした顔をまっすぐに広げたようにえらがはって顔が大きく見えます。

 目許に関しても同じく、目尻側は濃い眼のシャドーを使ってアクセントにすると同時に引っ込んで見えるようにすると、 途端に目尻から外のこめかみ部分がグーッとなかに入り込んでみえてきます。こうして各パーツごとに紙を丸める ようにアールを着けていきます。

 僕は最近このような手法を、甲野氏の「体を割る」になぞらえて「顔を割る」と表現しています。こうして顔を割る ことによって、大きく顔を捕らえたときには考えられないくらい、より小さく立体的に、そしてリアルな顔になっていくのです。

 ・・・続く・・・



「ロジカルメイク講座」 vol.27  (2003年 9月16日UP)


 今回はロジカルメイク口座として、口紅をつける場合について検証してみたいと思います。以前、アイシャドウをつける 時のブラシの動かし方を話したことがあると思いますが、リップブラシの動きもアイシャドーをつけるときのそれと大きく 変わるところはありません。ただしそれはブラシの動きに関してであって、それを動かしている手、あるいは腕のほうから 見ると、いくらか違った点もあります。

 口紅の塗り方もいろいろとあると思います。今回は、唇の山と山の間を、先に「V」の字に描いてから口角から山までを 結ぶような、初心者向けの旧態依然としたものではなく、口角を左右の基点としてセンターに向かうような塗り方についての 話であることを、はじめに断っておきます。また、対象とする唇の大きさと、アーティストの体格(身長、腕の長さ)、椅子の 高さなどの要素により微妙な違いもあります。

 まぶたも唇も、放物線と逆放物線(という言葉があるかどうかは別にして)を上下にくっつけたような形をしています。ですが 唇はまぶたに比べて大きく、特に幅はまぶたの2倍ほどもあり、リップブラシの動かし方で述べたような、肘から先の動きでは 間に合わないのです。つまり上腕部の屈伸も伴う腕全体での動きが必要になります。しかも、その上腕部が伸展しながら、 肘から先は弧を描く運動をしています。これは別の言い方をすれば、口紅を塗り始めるときには肘が支点であり、リップ ブラシの先端の毛の部分が作用点となっていますが、作業を進めていくうちに肩へとその支点が移っているということです。 ですが、ブラシと接している唇部分の反力を感じながら移動しているので、実際にはブラシの先端と肩がお互いに、 連続的に移動する支点であり作用点となっています。これは図式化すると平行四辺形がつぶれていく過程と同じような動きです。

 そしてこのような動きを井桁崩し(いげたくずし)と名づけた人がいます。古武術研究科の甲野善紀氏です。甲野氏は 武術稽古研究会「松聲館」を主宰し剣術や柔術、合気道などを融合した、いわゆる昔の達人たちの行ってきた体術の研究を している方です。氏の許へは多くの他のスポーツの選手も稽古にいっており、身体の動かし方そのものを考えることで 新しい力を見出しています。(有名なところでは巨人の桑田眞澄投手がいます。)氏は様々に身体の使い方を研究した 結果、身体を捻じらず回さない井桁崩しを発見されました。捻じらない回さないということは、一般的なスポーツでパワーを 生み出す元になる「タメ」を造らないということです。メジャーで活躍する野茂投手のトルネード投法などとは対極に当たります。 

 僕はたまたまテレビで甲野氏のことを知り、単なる興味の対象としてその著作を読んでいました。そのうちにその理論が メイクにもつながっていることに気がつきました。また甲野氏は「不安定の使いこなし」ということもよく言っておられます。 これは二本の脚でしっかりと踏ん張るから、片方の足をすくわれたときにバランスを崩すのであり、歪みが生まれる。一本足 では歪みは生まれず、不安定から生まれるパワーをすばやい方向転換や、「タメ」を造らなくても力のある動きにつなげる ことが出来るというものです。これはさっきの『ブラシの先端と肩がお互いに、連続的に移動する支点であり作用点と なっている』という部分と共通すると思っています。

 ここで口紅の描き方に戻りますが、口角からスタートして距離が遠くなるにつれて高さは上ってゆく。しかも一定率ではない、 とすれば直線・円弧のどちらでも正確にトレースすることは不可能です。ここに井桁崩しがいきてきます。こうした考察は アーティストが他人に塗る場合のことを想定しての話しなのでそうでない方にはわかりにくいかもしれませんね。

 次に、唇の山というか谷の描き方ですが、これも他人に描く場合のテクニックです。一般に唇の上至点までブラシが 到達したときに、カーブを描くようにブラシの向きを変える方が多いようです。ですが私はブラシを支える親指と人差し 指を回すことで対応しています。通常私は親指と人差し指の二本の指でブラシをつまむように持っています。そして 唇の山に来たときにそれらの指を回すことで、人差し指がブラシの下に入り込み、軸の先端が上、毛の部分が下に あったブラシの位置関係が逆転します。その結果、それまでと同じ軌跡を腕が描いても、ブラシは上から下に向かって 動くようになりなめらかに山が描けるのです。これはいつの間にか身についたものであり、他のアーティストの方も同じ ようにしているのか、あるいはまったく別の方法をとっていらっしゃるのかはわかりません。ただ、これが絶対とも思って いませんし、今後もよりよい方法を探して行きたいと思っていますので、これを読んで意見のある方からの連絡をいた だけるとありがたいと思います。

 ・・・続く・・・



「僕らの使命」 vol.26  (2003年 5月20日UP)


 ときどき僕は、このサイトに連載してらっしゃる方を題材にしたりして最近の地下鉄のように「相互乗り入れ」させてもらって います。今回も先週の更新「気になる美容の話」の中のフレーズを引用することになるかなと思いながら進めます。

 先日、ある1部上場の金融機関の研修センターで研修を行ってまいりました。内容は2部構成で、前半は「いかにして会話の 中からお客様の情報を得るか」、後半は「外見とコミュニケーション」についてです。(メイク以外にもいろいろやってるんですよ。 貧乏暇なし。)金融業とはいえ、サービス業に変わりないから、お客様の情報はなるべく多くほしいわけです。ですが、紙に書いて もらうと通り一遍の情報しか得られないんです。ですから会話の流れの中からそれとなく、その方の生活環境を聞き出す話法 といった内容で行いました。

 僕はメイクアップアーティストとしてお客様に接するときに、会話を通じてそのお客様の人となりを感じ取って、それを背景として メイクをしています。そのためにはその人がどんな仕事をしていて、家と会社の距離はどのくらい、何時に家を出て何時に帰るから 睡眠時間はどのくらい、休みの日はなにをしていて、今はなにに一番興味があるのか。こういったことを知らないとメイクのイメージも わいてきません。常にそういう手法でやっていたので、会話に自分なりのパターンが出来てましたから(そりゃぁ、15年からやってれ ばね)、それを一度整理して体系化したテキストも作りました。

 後半は、外見は自分から相手へ情報発信のであり、コミュニケーションの入り口であるというような内容で、相手とコミュニケー ションをとりやすい外見とはどういったものか。そこに求められる用件は?といった内容です。(ここら辺については、バック ナンバーの「変身はライダーに任せて」をお読みください。)

 そして最後にやっとでは「御社の企業イメージとそれを体現したメイクアップは、と来るわけです。受講者は男性5人女性8人 だったのですが、8名の女性ははっきり言って仕事忘れてましたね。受講者には制服を着て、普段どおりのメイクをしてきて もらってました。それでテーマにあわせた顔を作るにも一人一人使うものが違ったり、やり方が違うことを知っていただけたと 思います。で、その最中にスキンケアのアドバイスの必要性も出てくるわけです。例えばクマが出来てる場合、コンシーラーは もちろん使いますが、それでは根本的な解決になりませんから、乾燥していることと、それを解消する基本的なスキンケアの 方法を簡単に説明する程度ですけどね。ところが皆さん一般の方ですから一人一人レベルも違うし、とんでもない発言が 出てきたりします。びっくりしますよ!

てぃが「このクマは乾燥から来ていると思いますが、朝の目元のケアはどうされてます?」
Aさん「朝は水で顔洗うだけです!(キッパリ)」
一同「えぇーっ!」
てぃが「・・・化粧水とかも」
Aさん「でも夜はちゃんと石鹸で洗って、化粧水つけてますよ!」
てぃが「クレンジングは?」
Aさん「だからちゃんと石鹸で洗ってますって。」
てぃが「もう少しきちんとお手入れされたほうが・・・。」
Aさん「だから夜はちゃんと・・・。」
Bさん「朝何もつけない人が『ちゃんと』なんていわないのっ!」

 メーカーにいたときもお客様は様々でした、が少なくとも自分がお手入れ不足だという自覚はある人を相手にしてた ので、ホントに驚きました。

 前回の更新でここの家主は『お客様と接客販売者とメーカーとの関係は、もっと情報がスムーズに流れ、商品やそれに まつわるソフト情報として還元される余地はまだまだたくさんあると実感しています。』と結んでいます。

 まさにそのとおりだと思いました。

 そして僕は今メーカーを離れているので、よりニュートラルな立場で正しい的確な情報発信の努力をしないといけないと 思う次第であります。

 ・・・続く・・・



「私がメイクをしないわけ」 vol.25  (2003年 4月 1日UP)


 今回はあやきちさんの「心のオアシス」のように実際のお客様の実例をあげてメイクアップをどう組み立てていくかを 披露したいと思います。

 百貨店には店舗の中央や正面入り口の辺りにイベントスペースやメインステージといわれるものがあります。いろんな 売り場が持ち回りで使うのですが、化粧品メーカーに店側から「なんかやってよ!」という命令に近いお願いが来ることも 多いんです。

 Kさんにメイクをさせていただいたのは、そんなイベントスペースでのメイクアップイベントでのことでした。Kさんは20代 前半のはっきりした顔立ちの元気な明るいお嬢さんです。でもお会いしたときは頬にファンデーションが残ってるくらいで、 ほとんどメイクらしいメイクはしてらっしゃいませんでした。まあ、午後7時でしたから、朝やったままなら、お化粧が落ちて いても不思議ではないのですが。

てぃが:「今日メイクさせていただくてぃがです。何かご要望はありますか?」

Kさん:「わたしメイクはほとんどしないんですよ。自分でやるとめちゃくちゃケバくなってしまうんです。どうしていいか わからなくて・・・だから今日もファンデーションだけなんです。」

 Kさんはとてもはっきりした顔立ちで日本人にしては顔の幅が狭い、というより平面ではなくてとても立体的なお顔です。 眼も大きくしかも眼球の丸みが強く出ていてまつげも長い。鼻も高く整ったお顔立ちですが、あえて言えば下唇のかたちが ぼんやりしているといったくらいでしょうか。肌色は特に白いわけではありませんがオレンジ色がかった健康的な肌色で、 キメも細かいいい肌です。

てぃが:「OK。メイクって手を掛ければ掛けるほど派手になると思ってるでしょ。でも大丈夫だからね。」

 まずはパウダーファンデーションを使ってベースメイクを直しました。それから眉を整えて書き足してあげます。

てぃが:「Kさんは顔が平面ではなく欧米人のように湾曲しているので、顔全体が小さく見えるよね。髪もひっ詰めてるから、 眉はしっかり書いてあげないと『顔から眼がはみ出してる』印象になるんですよ。眉弓骨の外を通るようにしっかり書いて あげると、眉弓骨がはっきりしてくる分、眼球の丸みが強調されなく済むんですよ。」

Kさん:「ホントですね。」

てぃが:「次にアイシャドーだけど、もしかしてKさんが持ってるアイシャドーってブルーやパープル系のものが多くない?」

Kさん:「そうなんです。でもどうしてわかるんですか。」

てぃが:「色はいろんな分類ができるんだけど、肌になじむ色とコントラストになる色というわけ方もできます。日本人は 黄色人種なので、ブルー〜パープルがコントラストになる色なんですよ。顔立ちのはっきりしたKさんがコントラストになる 色を使うと作りも派手、色も派手という組み合わせでケバくなりやすいんです。」

Kさん:「そうなんですね。じゃあどんな色を使えば・・・?」

 そこで僕がまず選んだのは淡いベージュにゴールドのパールの入った練のシャドーです。ベージュなので肌になじみやすく、 かといってゴールドパールが入っているので暗くなりません。これをアイホール全体になじませます。それから次に選んだのは 明るめの臙脂というか、ラズベリー色のシャドーです。これ、じつはもっともはれぼったく見える色なんですが、眼球の丸みが 強く出ている人に普通につけるとアウトかもしれません。ですが、これを目尻側に入れてあげることで、そこにハリを持たせます。

Kさん:「ああ、目の真ん中が目立たなくなった!」

てぃが:「でしょう。外にアクセントを置くことで瞼の真ん中が引っ込んだ気がしますよね。あとは眉の下の部分にハイライトを 入れてあげると、そこがさらに出て見えるので、眼の丸みはさらに収まります。」

 この時点でKさんの目元はノーメイクのときとまったく変わったものになりました。ノーメイクのときは、湾曲が強く、光って 見えていた瞼の真ん中が目立たなくなり、瞳の美しさが強調されています。

 ここまでは両目を同時進行にしました。片方ずつやった方が違いがわかるのですが、それを「メイクの可能性」という ポジティヴな反応ではなく、「メイクをしないと変なんだ」とネガティヴにKさんが取ってしまう可能性がゼロではなかったので。 このあとアイライナーとマスカラは片方ずつの進行です。メイクアップのポテンシャルを感じてもらうところですから。 アイラインをブラウンで目尻よりほんの1mm長く引き、ビューラーも目尻側を重点的に当てました。そしてマスカラも目尻の ほうをメインにして外へ外へ薙ぐようにしてつけます。

てぃが:「今左だけラインとマスカラやったけど、左右の違いわかりますか?」

Kさん:「左のほうが頬が締まって見えます。でもメイクしたのは眼だけですよね?」

てぃが:「Kさんは顔の縦」と横のバランスは理想的な卵型なんです。でも髪をひっ詰めてると実際以上にタイトに見える ので、眼が顔の輪郭からはみ出した感じになるんですよ。だからアイライナーとマスカラで実際より眼を切れ長に見せる ことで顔の眼の高さでの横方向の距離をだしてあげたんです。その分逆に頬は締まって見えるんですよ。」 これは男性の 体形なんかもそうで、同じ腰の幅なら肩幅が広いほうが、差が大きい分締まって見えるのと同じです。見た目というのは 数値による絶対値ではなく、何かと何かを比較した相対値ですから。

Kさん:「顔を細くするのって、フェイスラインに影を入れるものだと思ってました。でもこの方が自然な感じがしますね。」

てぃが:「それに顔の横幅が増えて見えますから、顔全体の面積に対する眼の大きさも幾分小さくなる効果もあるので、 顔が落ち着いた感じになりますよね。でもKさんやっぱり贅沢だなぁ。みんな眼を大きくしたいって言ってくるのに。」

 このあたりまで来るとKさんの心境に変化は手に取るようにわかります。目の輝きが違いますよ。仕上げまでもう一歩です。

てぃが:「口紅はオレンジブラウンにゴールドのパールが入ったものを使いましょう。落ち着いた大人の女という感じの 目元になりましたから、そのイメージにマッチしたもので、且つシャドーと同じように肌になじむということで選びました。」

 そして口紅をつけ終わったときに、Kさんが不思議そうに質問が出ました。

Kさん:「私、上の右に八重歯があっていつも口紅を塗るとき、そのせいでラインが歪むんです。どうして先生は スーッと引けるんですか?」

てぃが:「それ、Kさん力入れすぎ!(笑)唇の弾力を通り越してその下の歯並びが影響するほど押さえつけて口紅 塗ったら、唇の形も歪んじゃって、きれいなラインなんて描けないよ。僕らも紅筆を唇にぴたっと当てるけど、押し付ける わけではないんだから。」

 Kさんはいつも八重歯を邪魔に思っていて、歯医者さんに抜いてくれって言ったら、虫歯でもないし目に付くところ だから抜かないほうがいいっていわれて、めちゃめちゃ悩んでいたそうです。リップメイクの仕上げに濃い目のパウダー ファンデーションでリップラインをきれいに縁取って、きりっとした口元にし、最後はこの日初めてのアンバー系のチークを 入れてハイライトを入れてメイクの完成となりました。

てぃが:「メイクっておもしろいでしょう。デコレーションを足していくだけじゃなくて顔立ちまで変わって見えるから。でも 変わったんじゃなくてこれがKさんの本当の顔ですよ。」

Kさん:「すごく楽しかったし、来てよかった。ありがとうございました。」

 でもそう言っていただけてありがたいのはこちらのほうです。こんな僕でも少しは人の役に立ってるなと思える瞬間を 過ごさせていただきましたから。

 ・・・続く・・・



「『載った雑誌』、なんちゃって」 vol.24  (2003年 3月18日UP)


 今週の更新は『載った雑誌』の1件です。(笑)なんちゃって。

 ここの家主の真似してみましたが、私の名前がクレジットされた雑誌が2冊出ました。

 1冊目は3月1日に発売になった『Urb』(ベルシステム24 )です。月刊「ビーズアップ」の 増刊で年に4回出ている季刊誌です。僕が出ているのは全6ページからなるUVケア特集のなかの、ベースメイクについての ページです。夏場のベースメイク・化粧直しで気をつけることを、ファンデーションのタイプ別にというテーマです。特に夏場に 限らなくとも使える基本的なことも紹介しました。「ファンデーションとUVベースの相性が大切」みたいなことが書いてある のですが、もちろん一番大切なのは、肌質や肌悩みに合ったものを使うことです。

 それにしても技術革新は速いペースで進みます。今回雑誌に取り上げたもの以外にも多くのUVベースを試しましたが、 高いSPF値にもかかわらず、軽い感触でムラなく伸びるのには驚きました。かつてはSPF値が高くなると、重い感触に なってムラができやすく、しかも白くなるというのが当たり前でした。今は特別な注意は何も要りませんね。 107ページに僕の顔写真入りで出てます。僕がどんな顔してるか、興味の ある方は読んでみてください。

 もう1冊は「CREA」4月号で3月7日に発売になりました。108ページから始まる 「運命を変える整形メイク」という特集で、小顔にするテクニック・眼を大きく見せるアイラインの入れ方・クールな印象の 切れ長の眼の作り方を紹介しています。他2名のアーティストやカラーアナリストの山口眞未子さんも同じコーナーに 登場しています。

 山口さんは以前からよく知っています。美人なのに気さくで、美容には、メイクだけでなくスキンケアに関しても 詳しい方です。多くのメディアに出てらっしゃるのでご存知の方も多いでしょう。この方、僕と始めて会ったときに 同い年だと知って、思いっきりあたふたしてました。何でも1回りくらい上だと思ってたらしいです。(爆)

 どちらかというと年よりは若く見られるんですが、当時はヒゲ生やしてたし、ストライプのスリーピース着てたと 思うので、おそらくそのせいでしょう。

 雑誌の内容に戻ると、同じところに登場してる方と僕の意見が、まったく違っているコメントに気付きました。僕のコメント では『眉山を外に持っていくと顔が細く見える』となっているんですが、もうひとかたのコメントでは、『小顔に見える には眉山を内側に』というようなことが書かれています。まったく逆ですよね。まるっきり別々に取材を受けてますから、 当然食い違うこともあると思いますが、皆さんはどう思われますか?

 でも、こうしてまるっきり逆のことが書いてあるから、実際どうなのか?自分でやってみるというのが大事だと思います。 その上でどちらに賛同いただけるかは、皆さんが判断していただければいいと思うので。またお読みになった方から、 何らかのご意見をメールでいただけるとありがたいと思います。

 今年、自分のなかでは『メディアに出よう』というのがテーマなので、これを読んでいただいてるマスコミ関係の方が いらっしゃたら、ぜひ声を掛けてください。と宣伝したところで終わるのでした。

 ・・・続く・・・



「ブラシの使い方」 vol.23  (2003年 2月25日UP)


 もう立春も過ぎましたが、今年の冬はいつまでも寒いですね〜。というかいつになく寒いというか。でも、化粧品業界は そんなことにまったく関係なく、既に「春の新色全開モード」です。なんでも今年は「パステルカラー」アイシャドーと「ぷるるん」 感触のリップ(およびグロス)がトレンドのようですね。というようなことは雑誌を見ればわかりますが、付け方に関しては雑誌 じゃあなかなかわかんないですよね。

 なのでこのコラムの中で時々極めて基本的でロジカルな、それでいて既存のメディアでは語られないようなことを書いて みようかと思いました。毎回ではなく時々だと思いますけどね。たとえて言うなら柴田書店から出ている料理や包丁の入門書の ような感じでしょうか。題して「ロジカルメイク講座」その第1回としてアイシャドーブラシの動かし方について書いてみようと思います。

 メイクの必須アイテムであるをブラシの動かしかたですが、基本は「引くこと」です。腕の動きが押す状態になったとしても、 ブラシは引っ張られている状態。これが鉄則です。言いかえればブラシの毛の部分よりも、軸が先に進むこと。そしてその時軸と 毛の部分は同一ベクトル上を進まなければなりません。「プロ」といわれてる人の中にも、手首を使ってブラシをワイパーのように 動かしている人を見かけますが、これは感心しません。

 それはなぜか?

 一つにはブラシをワイパー状に動かすと、ブラシの穂先から手首までの長さを半径とする円の円周上を、ブラシが動くことになり ます。これが必ずしもその時メイクの対象となっているまぶたの形と合っているとはいえないからです。要するにまぶたの形に 関係なくある一定の曲線を描いてしまうのです。それからこの動かしかたでは、毛が動く方向に対して90度に近い角度のまま 動くため抵抗が大きくなり、結果、ブラシの毛に弾性(一般に「腰」と言われます)を発生させます。それによってアイシャドーの 粉が粉飛びを起こします。するとつかなくてもいいところまでアイシャドーがついてしまうのです。また、このような使い方では まぶたの立体感も死んでしまうことになりがちです。

 まぶたと言うのは本来真ん中が一番高く、目尻側と目頭側あるいは眉側と頬側に向かって次第に低くなっている半球型を しています。ですから私は実際にメイクする場合ブラシを床に対して横方向に垂直にかまえ、まぶたの上部を塗るときはブラシの 上端を内に傾斜させ、まぶたの下部を塗るときは逆にブラシ上部を開きます。こうすることでブラシがまぶたの高いところに強く、 低いところに弱く当たることを防ぎ、結果として立体感を潰してしまうことを避けているのです。色とは所詮光のないところでは 存在しないので、メイクの対象部位の形と光の当たり方による色のバランスを考えてメイクをしなければなりません。

 このような理由から私はブラシが引っ張られるような動きでメイクがなされるべきだと考えるのです。また、先にも少し触れ ましたがブラシが手首によって動かされることにも賛成できません。メイクをする場合ブラシは支点となる関節を中心とする 円運動にほかなりません。その動きを支配する関節が手首、肘、肩となるに従い描く円は大きくなります。つまり手首ではなく 肘から動かしたほうが直線に近い線が引けるのです。半径の大きな円の弧が描けると言うことです。これは半径の小さな円の 弧に比べて直線的な線も曲線も描けると言うことで、とりもなおさず対象となる顔のパーツをより正確にトレースできると言うことです。

 また、手首にしろ肘にしろ関節動かす円運動によってメイクが行われる以上、最初にブラシを置いた点が最も肌とブラシの 密着感が強く、動かすにしたがって皮膚からブラシが遠ざかっていくことを知らなければなりません。ただしこのことは常に メイクにとってマイナスに働くとは限りません。この事と顔の湾曲のを考えることによって、色を自然とぼかすことができるから です。また肘を支点にしている場合は肘を伸ばすことによって顔からブラシが離れていくのをカバーすることが可能です。 ただし、これはリップメイクのときに必要なテクニックで、アイシャドーを塗るときは、特にそのことを考えなくてもいいでしょう。

 ・・・続く・・・



「ある名言」 vol.22  (2003年 1月21日UP)


 「人間はテクノロジーの上に君臨すべし」といったのは自動車評論家の館内端氏です。この言葉は技術の進歩を否定する ものではありません。そもそも彼は航空宇宙学を学んだあと、レーシングカーのデザイナーになり、現在は電気自動車を 主としたゼロエミッションヴィークルによるレース活動を行ってるくらいですから。先の言葉の意味は「常に新しいテクノロジーを 開発し、そしてその技術に使われることなく、使いこなしていこう」と言う含蓄に富んだ名言だと思っています。

 さてここからが化粧品の話です。先日ある雑誌の編集の打ち合わせをしました。友人が紫外線対策のページの企画を 請け負うので、ベースメイクの部分を手伝うことになったためです。切り口はファンデーションのタイプ別の特徴や注意点です。 パウダー、リキッド、エマルジョンといったファンデーションはどんな下地と組み合わせるとよいかとか、逆にNGな組み合わせは どんなものかといった感じです。打ち合わせはどんなカットを撮り、何の商品を登場させるかといったことにも及びます。 ぼくが『むずかしいなぁ』と思ったのは物が先に来るという点です。お客さんにメイクする時っていうのは、まずお客さんの肌質が あって、そのコンディションがあって、それらに起因する、ファンデーションに対する要望があります。なおかつそこにお客さんの 好みというものが入ってきて、最終的にはメイクの経時変化に影響する生活環境まで考えてファンデーションを選び出します。 で、その選んだファンデーションとお客さんの肌をつなぐものとしての下地というふうに考えて使うものをセレクトしていきます。

 あるいはフェイスパウダーを選ぶ場合だって色んな切り口から考えます。例えば「この人の肌はマットに仕上げるよりツヤが あった方がキレイだから、パール入りのこれにしよう。」「05番のファンデーションだとやや暗め、03番だとチョット明るい。だったら ファンデーションは05にしてフェイスパウダーを白く仕上がるこっちにしよう。」といった具合です。

 もちろんものが先にくることもあります。新製品が出れば当然雑誌媒体などの露出が多くなり、それを見たお客様が「この ファンデーション着けてみたいんですけど。」といっていらっしゃいますから。ただしそういう場合でも、そのファンデーションと お客様の肌という2つファクターがあるんです。

 ところが今回はページのテーマはあるんですが、誰が使うというのが見えていないんですね。本当は雑誌自体のターゲットと する読者象がありますし、キーとなるアイテムごとのターゲットがありますから、それが重なるところをイメージしていけば いいんでしょうが、僕自身が不慣れなせいか、チョット難しかったですね。

 さて、それから実際の撮影です。各ファンデーションにあわせた下地やフェイスパウダーをセレクトして、それぞれのアイテムを 使うときの注意点を挙げてくれということになりました。

 これは正直言ってもっと困りましたね。前にファンデーションのところで書いたかもしえませんが、タイプによるつけ方の違い なんてないんです。どんなタイプのファンデーションでも、基本的に同じなんです。考えても見てください。たとえ軽自動車であれ 3,000CC、500万円の高級車であれ安全に運転するときのドライバー側の注意点は一緒でしょ。各メーカーの開発担当者も、 機能面ではもちろん使いやすさも十分考慮しながら新製品を送り出してるわけで、市販品の中にそうそう使い方の難しいものは ないと思うんですよ。

 まあ、そんな事ばかりいってても雑誌になりませんし、切り口の1つではあるわけです。ですから今回はそのアイテムをつけるときの コツというよりも、パフやスポンジを使うときの普遍的なコツを入れさせてもらいましたけどね。

 雑誌を読む方には、こういうことをある程度はわかって読んでいただきたいなと思いますね。組み合わせの一例でしかないものを 目にして「このファンデにはこのベースじゃなきゃだめ!」なんていうふうに考えてしまうと、自分の肌がどっかに飛んじゃいますから。 化粧品をあなたの肌に合わせて選び、あなた自身が使いこなすべきものですから。

 個人的には化粧品の記事は、もっと1つのアイテムを使い込んで書いた「フェイス インプレッション」みたいなものが増えて いけばいいなと思います。

 ・・・続く・・・



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