『神道事典』をどう使うか

 五年余の編集作業をへて、去る六月末に『神道事典』が刊行の運びとなった。本研究所の総合プロジェクト「神道事典の編集・刊行」の成果であるが、研究所外の多くの方々にも執筆を依頼してできあがったものである。研究所には、国学者や神道家に関する基礎資料、全国の祭りに関する豊富な映像資料や調査データ、あるいはデータベース化されている研究文献リストなど、神道関係の資料・データが揃っている。またこの分野のスタッフも充実している。そうした研究所の特徴を十分に生かした企画と自負している。

 神道を体系的に説明し、かつ個々の用語を分かりやすく解説したものを作成しようというのが、当初の目的であった。頁数の制限や編集上の時間的制約もあって、不備な点もあろうかと思うが、今のところまずまずの評価を受けており、編集委員の一人としてはホッとしている。この事典の意図や研究上の意義などについては、すでに『國學院大學学報』(七月一〇日)の他、産経新聞(七月三〇日夕刊)と朝日新聞(八月五日夕刊)の文化欄においても述べたので、ここでは内容紹介をかねながら、この事典の使い方という側面に焦点を当ててみたい。

 この事典をどう使うかは、むろん個人によって違うだろう。だが作成した側がどんな使われ方を想定していたかを知っておくことは、利用法の幅を広げてくれる筈である。とくに、この事典は多角的な利用が可能となるよう配慮してあるので、その点について以下に列挙する。

 第一には、神道に関係する個々の用語の意味を調べるためのものである。これをもっとも一般的な使用法として想定している。それに、当初は『神道用語事典』という発想から出発したので、この点では使いやすくなるよう心がけてある。

 知りたい用語があったら、最初の方にある索引目次で調べる。ここには用語が五十音順に並べられている。ゴシックのものとそうでないものとがあるが、ゴシックのものは、一つの項目として説明がなされているものである。そうでないのは、索引として調べるものである。なお、通常の索引であると、その用語が出てくる頁がすべて示されることが多いが、この事典では、多くても三ヶ所程度にした。もちろん、どの箇所が情報として重要かを検討した上である。用語の意味を知りたいというときには、厳選してあった方が便利だろうと考えたわけである。

 第二には、神道の概要を知りたいという人のための神道概論書のような機能をもたせてある。これは事典を編集するうちにしだいにその必要性が強く感じられたものである。神道を体系的に論じた書籍は意外に少ない。それに従来のものは思想史に焦点を据える傾向がみられる。そうした現状を踏まえ、神道の体系的理解にも資するような事典にしたいということになった。全体の構成そのものが、これを反映している。

 本文は九部に分けられている。すなわち「総論」「神」「制度・機関・行政」「神社」「まつり」「信仰形態」「基本観念と教学」「流派・教団と人物」「神道文献」である。「総論」においては、神道の歴史、及び神道と他の宗教との関係が示される。以下、「神」では古典の神から民俗の神までが示され、「制度・機関・行政」では、神祇行政や神社制度などの時代ごとの特徴が示される。

 「神社」では神社の施設や関連物が紹介されている。「まつり」では、国家的祭祀から民俗の祭りまで扱っている。「信仰形態」では神社に関わる信仰の他、民俗信仰の代表的なものも扱われている。「基本観念と教学」では思想・教学、あるいは理念にかかわることが紹介されている。「流派・教団と人物」では主な神道流派、学説、教団とそれに関わった人物とが扱われている。「神道文献」では神道古典から近世の国学者の書までが紹介される。

 なお、それぞれの部の冒頭にある総説を読むことにより、その概要が分かるようになっている。以上がいわば大項目であり、それぞれの大項目にはいくつかの中項目がある。たとえば「神」の大項目であると、「神の概念」「古典の神」「習合神」「民間の諸神」と細分されている。この中項目ごとに個々の用語が説明されている。したがって、大項目と中項目の構成が、神道研究の体系化を目指したものであると理解していただきたい。

 第三には、神道のある分野のことをまとめて知りたいという要請を想定してある。神道ということになれば、主な神社、神道家、神道に関係した書籍、特殊神事、神道系の教団、神道の基本用語などは、一覧できるほうが有り難いであろう。そこで、これらは、なるべく一覧表、もしくはそれに準ずるような構成にした。

 神社はもっとも重要であるので、これについては、付録の「神社一覧」において、別表神社を中心に主な神社の所在地、祭神名、主な祭り、由来等を記した。広い意味の神道家には、神職、国学者などさまざま人物が含まれるが、これは第八部「流派・教団と人物」の後半部分に主要な人物一八六名が収録されている。略歴の他、主要著書、また、どういうふうに神道に関わっているかを説明してある。人物の肖像画や写真はなるべく掲載するようにした。

 神道に関係するもっとも基本的な書籍については、一一六点が紹介されている。主な内容の他、それがどの刊本に収録されているかも示し、研究したい人の便を図ってある。神社の祭礼は特殊神事一覧において詳しく紹介してある。これもなるべく多くの写真を付すようにした。

 第四には、神道を専門的に研究しようとする人への研究文献ガイドの役割である。付録として「参考文献一覧」があるが、これには、研究文献(単行本)の他、「神社一覧」に掲載されている神社について、公刊された神社資料文献も掲載されている。また、各部の末尾には「さらに知りたい人のために」というコーナーがあって、それぞれのテーマ別に重要な文献(著書、論文)が紹介されている。現在の研究水準が分かると同時に、今後の指針も得られよう。それゆえ、例えば、卒業論文に神道関係のテーマを選んだ場合などには、きわめて有用であることが実感されるであろう。

 第五には、必要なデータ・資料類をなるべく一覧表の形でコンパクトに見られるようにしたことである。中でも付録の「神名一覧」(記紀神系譜、記紀神名対照表)は、画期的な一覧であり、記紀に登場する神々をきちんと整理して把握するには、きわめて有用である。また、旧官国幣社一覧、一宮・総社一覧、大嘗祭一覧、式年遷宮一覧など、オリジナルに作成した表が数多くある。これら一覧は最初の全体目次に示してあるからすぐ捜せる。

 「年表」は、見やすさを第一に考え、ここだけ横組とし、「制度・法令」「神社・教団」「人物・書籍」「社会」の欄を設けた。また学説が分かれるなどのこともあるので、とくに必要のないものを除いて、それぞれの記事の出典を明記するのを原則としてある。

 この他、カラー写真を挿入したり、軽い気持ちで読めるコラムを適宜掲載したりして、読みやすさも心がけてある。とにかく使って便利で、しかも読みやすい事典というのが、われわれの願ったことである。なるべく多くの人に利用していただきたいし、またその結果神道研究がレベルアップすることにつながれば、編集者一同これにすぐる喜びはない。

※『神道事典』は、国学院大学日本文化研究所編、弘文堂刊(電話〇三ー三二九四ー四八〇一)。定価二万二千円。 

 なお、『神道事典』の刊行をもって「神道事典の編集・刊行」という総合プロジェクトは完了した。これを受けて、本年度からは新たに「神道人物総攬」という総合プロジェクトが開始されている。『神道事典』は研究者を含めて、学生や一般の人々など広い読者層を想定していたが、この総攬は神道の研究者にとって必要な基礎データを満載したものとする予定である。約三〜五千人の神道家についての情報を収録する予定となっているので、刊行までは四、五年がかかると思われる。

 『神道論文総目録』正・続、『和学者総覧』、『神道事典』などの編集作業を通して、これまで研究所で蓄積してきた資料・データを十分活かしていきたいと考えている。(一九九四年執筆) 

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