5名に収容の執行停止!詳報
 

<緊急ニュースリリース>
難民申請者への強制収容に画期的な「法の裁き」
〜東京地裁、強制収容されていたアフガン人難民申請者5名の収容停止を決定〜
  

 
 
 うれしいニュースが入りました。東京地方裁判所民事第三部(藤山雅行裁判長)は、10月3日に法務省・東京入国管理局によって拘束・収容されたアフガン人難民申請者9名のうち、民事第三部で審理が行われていた5名について、「収容令書」(彼らを収容する法的根拠となった収容の命令)を執行停止するという画期的な決定を行いました。5名は11月9日に収容を解かれ、1ヶ月あまりにわたって閉じこめられていた東京入国管理局第二庁舎の収容場(東京都北区)から解放されることになります。 
 これまで、アフガン人難民申請者9名は、不当な収容を解くために「アフガニスタン難民弁護団」の支援のもと、様々な法的手段をとってきました。まず10月9日(1名は5日)に東京入国管理局に仮放免の申請がなされ、その後10月19日、東京地方裁判所に、「収容令書の執行停止申立」および、収容令書発付処分の取消訴訟(「収容令書」を彼らに発付したことを違法として取消を求める訴訟)が行われました。 
 しかし、東京入国管理局は、仮放免申請を10月22日付で不許可とし、裁判所が収容令書の執行停止申立にどういう判断を示すかに注目が集まっていました。 
 東京地裁民事第三部の決定は、行政の誤った処分を司法が正すという、司法本来の役割を果たしたものであり、本件のみならず、日本の裁判史上においても画期的なものであると評価することができます。 

裁かれた入管の「難民条約無視」の姿勢 

  東京地裁民事第三部の決定は、内容も非常に画期的なものです。 
 難民条約第31条1項は、生命や自由が脅威にさらされていた領域から直接来た難民について、不法入国や不法滞在を理由に刑罰を科すことを禁止しています。また、2項は、こうした難民の移動について、必要な制限以外の制限を課してはならないこと、他国への入国許可を得るために便宜を与えることとしています。 
 これについて法務省は、かねてから「難民認定されていない人はまだ難民ではないから収容も適法」などと述べてきました。しかし東京地裁はこの考え方を否定、収容令書を発付するにあたっては、まず最初に対象者が難民に該当する可能性を検討し、その可能性がある場合には、難民に該当する蓋然性や、移動の制限の必要性について、難民条約第31条の規定に照らして検討しなければならないと述べました。 
 次に東京地裁民事第三部は、上記の筋道に従い、アフガン人難民申請者たちが難民である可能性について検討しました。法務省は、アフガン人たちが「組織的背景」をもとに不法入国を図った事案である可能性があると主張してきましたが、東京地裁民事第三部は法務省の主張を根拠薄弱として退け、彼らが難民に該当する蓋然性があるとしました。その上で東京地裁は、彼らに収容という方法で移動の制限を科す必要性があるかどうかを検討し、彼らアフガン人たちの移動を収容という方法で制限する必要はないとの結果を導き出しました。 
 さらに東京地裁は、アフガン人難民申請者たちが収容によって被る損害について、そもそも身体拘束自体が人権への重大な損害であること、難民認定を受けるための活動や第三国への入国許可を得るための活動が阻害される可能性があること、収容者たちが強い精神的・肉体的ダメージを被る恐れがあること、などにより、「原状を回復することが容易でない損害」であると評価し、収容が回復の困難な損害をもたらさないとする法務省の主張を退けました。 
 そして東京地裁は最後に、法務省の姿勢について「(法務省のとる)態度は法の運用に当たって、その上位の規範である難民条約を無視しているに等しく、国際秩序に反するものであって、ひいては公共の福祉に重大な悪影響を及ぼすものというべきである」と述べ、収容令書の執行停止を決定しました。本決定は、今回の強制収容にとどまらず、法務省の閉鎖的な難民政策全体に対して、初めて法の裁きがおりたものとして画期的であり、日本の難民政策全体をより開放的なものに変えていく上での一つのターニングポイントになりうるものであると考えることが出来ます。 
   
多くの人々の努力で導き出された勝利 

 10月3日に9名の難民申請者たちを収容したとき、法務省・東京入国管理局は、よもや1ヶ月後に、これだけ画期的な決定によって強制収容という処分が覆されるとは考えていなかったと思われます。この勝利は、自らの窮状を訴えたアフガン難民申請者たち、極めて早い段階で彼らと接見し、いち早く弁護団を結成して弁護に立ち上がった弁護士たち、国会の場で丹念に質問をくり返し、法務省を追いつめた国会議員たち、難民支援協会など多くのNGO/NPO、この問題に注目して地道に報道を続けてきたマスメディアの記者たちなど、多くの人々の取り組みの結果として、獲得されたものであると言えます。 
 取り組みは「執行停止」で終わりではありません。この執行停止については、政府が即時抗告を行ったり、例は多くありませんが、小泉総理大臣が「テロ対策」や「出入国管理の強化」といった観点から政治的に「内閣総理大臣の異議」を述べて執行停止を無効にするといったことも考えられます。今回の決定に当たっては、政府にこうした反動的な動きをさせないように監視する必要があります。 
 また、収容から解放された後には、収容令書の取消訴訟、難民認定に関する決定などがあります。彼らを難民として日本の地に受け入れることができるまで、支援・協力を継続していくことが必要です。 

民事第二部は「執行停止」却下:許されない分断 

  一方、東京地裁民事第二部(市村陽典裁判長)は、アフガン難民申請者9名のうち、同部に係属した4名について、民事第三部による決定の一日前の5日、収容令書の執行停止申立を却下する決定を下しました。つまり、この4名については、今後も法務省・東京入管による収容が継続することになります。 
 民事第二部の決定は、彼らが難民に該当する可能性は認めながらも、難民でないかも知れない以上、収容を行うこともやむを得ないというものであり、民事第三部の決定と比較して消極的なものとなっています。 
 アフガン難民申請者9名は、同じくタリバーン政権の民族虐殺政策にさらされ、厳しい迫害の結果として日本に逃れてきた人々であり、その置かれた状況に違いはありません。東京地裁では、行政事件は民事第二部と第三部に、交互に機械的に振り分けられることになっており、今回の9名もたまたま民事第二部に4人、三部に5人と振り分けられただけなのです。東京地裁のどの部に振り分けられたかによって、解放と収容継続という形で処分が異なるのは著しく不合理です。同じく難民該当性をもつ人々に対して、このような分断がなされることは、とうてい許されることではありません。5名の解放が決まった今、今回の決定の意義を尊重して、残りの4名についても同時に解放するよう、法務省・東京入管に強く要求するとともに、様々な方法で彼らの解放を実現するよう、取り組んでいく必要があります。 

 
 



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