2002年3月19日 参議院法務委員会
 


2002年3月19日 参議院法務委員会
 
  公明党・浜四津敏子議員、日本の難民認定制度の不備を追及
  

 2002年3月19日の参議院法務委員会では、公明党の浜四津敏子議員(公明党代表代行)が、日本の難民認定制度の不備についてきびしく切り込みました。
 森山法務大臣・中尾入管局長は、「難民認定率では、日本も欧米と変わらない」などと珍答弁。その他の質問についても、あいかわらずののらりくらりの答弁に終始しましたが、それでも、日本の難民認定手続の制度不備の問題がこのような形で国会で大きく取り上げられたのはめずらしいことです。国会は、立法府としての立場を生かし、難民認定制度の改革について行政府と正面から議論する必要があります。



 
「認定率」が高いから日本の難民認定は欧米と遜色がない? 
  
○浜四津敏子君 次に、難民認定制度についてお伺いいたします。 
 一九五一年に国連で採択されました国連難民条約に日本は一九八一年に加入しております。UNHCR、国連難民高等弁務官事務所によれば、一九九〇年から一九九九年の十年間で日本以外の先進七か国の難民認定申請者数は、最高がドイツの百八十七万九千六百人、最低でもイタリアの八万五千五百人となっております。これに対して日本は、同期間にこの申請者数はわずか千九十九人と正しくけた違いでございます。また、同じ期間における難民認定数につきましても、ドイツが十五万六千七百人、カナダ十三万一千八百人、アメリカ八万二千三百人、最低でもイタリアの五千人となっておりますが、これも日本は同期間にわずか四十四人でございます。 
 保護や滞在許可を求めて来る難民に対しまして日本政府のガードが非常に固いという批判が国際的にも存在しているわけでございます。日本は国連機関などの難民支援活動には世界トップの資金援助を決定していながら、他方で難民の受入れが先進諸国の中でも極端に少ないために、何でも金で解決しようとする日本という大変不本意な批判を受けております。 
 日本は難民認定申請者数も認定数もこれほど、なぜこれほど極端に少ないのか。よく原因として指摘されるのが、一つには手続が厳し過ぎると。難民であることの立証責任を厳しく難民に課しているとか、あるいはいわゆる六十日ルールなど手続が厳し過ぎることと、そもそも難民認定業務に携わる難民調査官の数が絶対的に不足していて対応し切れないという点が指摘されております。 
 こうした実情及び原因につきまして、法務大臣のお考えを伺いたいと思います。 
○森山法務大臣 難民の申請とか認定の数が日本がよその国に比べて非常に少ないということはよく指摘されることでございます。 
 我が国におきましては、その地理的なあるいは文化的な背景が難民の出身国と大変かかわりが乏しいといいますか歴史的に少ないということや、言葉の違いなどのほか、我が国が難民の出身地域とは非常に離れた遠隔地にあるというようなこと、我が国への交通手段が海か空に限られているなどのことから、欧州諸国に比べてまず認定の申請自体が非常に少ないことでございまして、それが一番の大きな原因でございますが、しかしながら難民認定率、つまり認定数と認定率と不認定数の和で見ますと、平成十二年における我が国の認定率は約一四%となっておりまして、これはイギリスの一二%、ドイツの一五%、オランダの七%、スウェーデンの二%などと比較いたしましても、決して低いものではございません。 
 現に、UNHCRによりましても、我が国の約一四%という難民認定率についてUNHCR及び国際的な基準によっても満足のいくレベルに達しているというふうに評価されております。 
 なお、平成十三年に難民と認定された者と認定されなかったものの人道的観点から特に在留を認められた者の合計は九十三人で、いわゆる実質的に庇護をした者の割合は約二七%となっております。 
 ちなみに申し上げますと、欧州諸国の認定の状況でございますが、UNHCRの統計によりますと、平成十二年、イギリスの場合は認定は一万百八十五件と非常に多いんでございますけれども、不認定の方も七万一千八百八十五件ということで大変けた違いに多うございます。ドイツの場合は、認定が一万千四百四十六人、不認定が六万三千四百三十七人、オランダの場合は、認定千八百八人、不認定二万二千八百二十四人、スウェーデンの場合、認定四百八十人、不認定二万六百五十八人ということでございまして、認定率で申せば日本もそんなに恥ずかしい状況ではないということを念のために申し上げておきます。 
  
60日ルールの問題性 
  
○浜四津敏子君 先ほど指摘させていただきました難民認定手続の問題点について何点かお話しさせていただきます。 
 UNHCRの世界難民白書では、日本の難民認定手続においては難民に並外れた高水準の立証が求められると報告されております。難民認定では申請者が迫害から逃れてきたということを自ら立証しなければならないと、こういうことになっておりますが、命懸けで逃げてきた難民にはそういう証拠を十分に持っている状況にはないということが多いわけでございます。 
 UNHCRの難民認定基準によれば、申請者に立証責任があるのが原則ではあるけれども、しかし立証できない者もあると。こうした場合に申請者の説明が信憑性を有すると思われるときは、反対の十分な理由がない限り、申請人は灰色の利益を与えられるべきであると、こういういわゆる灰色の利益論が示されておりますが、日本は余りに厳格な立証を求めて、この灰色の利益を申請者に与えていないのではないかという疑問が一点あります。 
 また、日本の難民認定手続は、出入国管理及び難民認定法第六十一条の二第二項で、「申請は、その者が本邦に上陸した日から六十日以内に行わなければならない。ただし、やむを得ない事情があるときは、この限りでない。」と、こういういわゆる六十日ルールが規定されておりまして、この六十日ルールが厳しく運用されているというふうに言われております。一方、UNHCRの認定基準によれば、申請の期限を過ぎたことだけを理由に不認定にしてはならないと定められておりまして、この基準にも外れているのではないかという疑問があります。 
 この手続上の問題点、二点について法務省にお伺いいたします。 
○中尾法務省入国管理局長 お答え申し上げます。 
 委員御指摘のUNHCRのガイドラインというものについてでございますが、多分この立証責任に言及した文書といたしましては、UNHCR発行の難民認定基準ハンドブックがありますので、それに基づいての御質問だろうと思います。また、申請期限制限に言及したものとして、UNHCR執行委員会結論第十五号、庇護国のない難民という章があるわけでありますが、これが御質問のガイドラインだろうと理解してお答え申し上げたいと思います。 
 まず、UNHCRのハンドブックによりますと、申請を提出する者に立証責任があるのが一般の法原則であるということを明記しております。我が国の入管法でも、難民該当性の立証責任は委員御案内のとおり申請者側にあるわけでありますが、これは一定の便宜を受けようとする者はそのような便宜を享受し得る立場にあることを自ら立証しなければならないという一般原則に基づいたものでありますし、加えまして、難民該当性に関連する事実は外国で生じていることが多いわけであります。したがいまして、そのような事実は国の関係よりも当事者の方がよりその事実を証明しやすい立場にあるということによるものと理解されているところであります。 
 また、昭和五十四年のUNHCR執行委員会結論第十五号によりますと、申請した期間等によって庇護申請の審査の対象から除外すべきでないとされておることは委員御指摘のとおりでございますが、いわゆる迫害から逃れて他国に保護を求める者につきましては、上陸後速やかにその旨を申し出るのが通常であります。また、難民となる事情が生じてから長期間経過した後に難民認定の申請がなされると、その事実の把握が極めて困難となりますし、適正な難民認定ができなくなるおそれがあります。そういった事情等を踏まえまして、我が国の入管法でも六十一条の二第二項において、六十日という法定申請期限を設けているところでございます。この六十日という申請期限は我が国の地理的、社会的実情から見ましても、私どもに出頭して申請する 
には十分な期間ではないか、合理性もあるものと私どもの方で考えております。 
 ただし、六十日の申請期間を経過している場合でありましても、それがやむを得ない事情があるという場合には、経過しておってもよいとされておるわけでございまして、このようなやむを得ない事情があるかどうかについては、私どもの方で慎重に判断しておりまして、当該申請者の迫害に係る申立てについても十分吟味するように指導を徹底しているところでございます。 
 また、このUNHCRの委員会の結論十五号にはいわゆる法的拘束力がありませんので、このような制限期間は諸外国においても採用されている例がございます。例えば、アメリカにおきましては到着後一年以内に、ベルギーにおきましては不法入国者の場合、入国から八勤務日以内に、スペインにおきましては不法入国者の場合は入国後一か月以内に申請しなければならないということにされているところでございます。 
  
難民不認定の理由開示は「現行で充分」? 
  
○浜四津敏子君 それでは次に、日本においては難民申請に対して不認定になった場合になぜ不認定になったのか、その理由の開示がなされていない。申請者本人に理由の開示がなされていない状況にあるようでございますが、欧州各国では認定、不認定の理由を示しており、その文書が数十ページにも及ぶ例があると伝えられております。やはり、なぜ自分は難民認定したのに、あるいは立証したのに不認定になったのかという理由の開示というのは必要ではないでしょうか。御検討いただけないでしょうか。 
○中尾法務省入国管理局長 お答え申し上げます。 
 難民不認定処分をするときには、理由を付した書面をもって申請者に対して告知しておるわけでありますが、一般的に、処分通知の理由付記に当たりましてどの程度の記載をすべきか、処分の性質と、理由付記を命じた各法律の趣旨、目的に照らして、これを決定すべきものとされているところでございます。 
 難民認定申請につきましては、自分が難民であるかどうかという事実の有無は申請者本人が最もよく知っているところでありますので、難民であることの立証責任は申請者が負うということでされておるところであります。したがいまして、申請者が難民であることを立証できないときは、その旨の理由告知を申請者、その旨の理由付記をすれば申請者本人にとりましては、入管法の要求いたします理由付記として足りるものと私どもの方では考えておるところでございます。 
  
第三者機関が必要では? 
  
○浜四津敏子君 さらに、審査の在り方についてお伺いいたします。 
 認定の妥当性あるいは正確性、公正性、客観性を高めるために難民調査官の専門性を更に高めることも必要だと考えております。先ほどもお話ししましたが、この難民調査官の絶対数が不足しているという状況にあるようでございますので、これは是非とも早急に改善を図らなくてはいけないと思っておりますが、ともかく専門性を更に高める方法という取組も必要であろうと思っております。 
 さらに、調査官は世界各地の複雑な難民事情を正確につかまなければならないと、こう言われておりますが、ほかの国では独立した審査機関を設けたり、あるいは審査に第三者の専門家を加えたりしている国もあります。 
 日本では、法務省が全権を担う形で審査をされておりまして、認定に不服の場合には異議の申出をなすことができますけれども、それも同じ組織だけで再審査する仕組みになっております。やはり、そこにはどうしても公正さなどについて疑問が残ってもやむを得ないのではないかと思っております。この際、独立性を有する組織、第三者機関のような組織を設置することも検討されてはいかがでしょうか。お伺いいたします。 
○中尾法務省入国管理局長 お答え申し上げます。 
 担当官が国際情勢や現地情勢等を十分に理解していないという御批判があることは、私どもはそれはそれなりに承知しておるところでございます。したがいまして、難民認定調査官は、難民調査官は、申請者の出身国の政治、宗教、文化等、当該国の国情を十分理解するとともに、日々刻々変化する国際情勢や出身国の国内情勢に関する専門的な知識、情報を収集することは極めて必要なことだろうと考えております。 
 私どもにおきましても、難民認定業務に従事する者に対して必要な研修を定期的に実施しておるところでございますし、難民認定の国際機関、先ほど来申し上げているUNHCR等が主催する研修会議等にも私どもの職員を参加させ、あるいは国際機関との意見交換等も積極的に行うなどいたしまして、その能力の向上に努めておるところであります。今後とも、そういう研修等の充実に一層努力したいと考えております。 
 また、委員御指摘の難民不認定に対する異議の申立て、不服申立て制度につきまして、同じ組織で再審査する仕組みになっている点についての御批判についてでございますが、この点につきましては、諸外国に種々の難民認定制度がございます。どの国のものが一番ベターかどうか種々検討をしなけりゃならないところでございますけれども、例えば、ドイツにおきましては不服申立ての制度そのものが認められていない国もございますし、アメリカや韓国におきましては我が国と同様に同一の機関で不服申立てを受けて審査しているところもございます。 
 我が国の場合は、議員御案内のとおりの第三者機関というものはございませんが、私どもの行政上の手続とは別に、広くあらゆる機会、あらゆる内容につきまして裁判所の判断を仰ぐことができるようなシステムになっております。そういった面から見ますと、委員御指摘の客観性や透明性はその意味で確保されているものと私どもの方で考えておるところでございます。 
○浜四津敏子君 制度の上ではそうですが、司法的な救済手続というのはお金も掛かり時間も掛かるということでございますので、そうした手続とは別に、やはりもっと早急に透明性の高い、また公正性の確保される在り方というのも検討されていいのではないかと思っております。ともかく、手続上の問題あるいは審査の在り方など、幾つか問題点が指摘されておりますので、是非とも改善を図っていただきたいと思います。 
 もう一つ、それに加えまして、日本では難民認定申請者に対する衣食住とかあるいは医療面でのいわゆる人道的配慮が不十分だという指摘があります。先般、日本で拘束中のアフガン難民が自殺を図ったケースが伝えられましたが、こうした実態を調査された上で人道的な配慮が十分に行われるべきと考えておりますが、大臣の御所感をお伺いいたしたいと思います。 
○森山法務大臣 収容された人々を人道的に扱うべきだというのは基本的にはおっしゃるとおりでございまして、ただ、最近報道されました幾つかの出来事につきましては、必ずしも報道のとおりというわけではございませんで、実態をよく調査いたしましたところ、非常に一部のことを過大に伝えられて、物によっては事実ではないものもあったようでございます。 
 いずれにいたしましても、問題が起こりませんように細心の注意を払って今後とも努力していきたいと思います。 
 


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