192001年10月23日 参議院テロ対策関係委員会連合審査会での審議
 


肥田美代子議員の鋭い質問にも、鈍い官僚の答弁
「のれんに腕押し」の一般的な法律論議に持ち込む官僚側
 

 2001年10月19日の国会衆議院法務委員会で、民主党の肥田美代子議員が長時間にわたって在日アフガニスタン難民申請者の問題を追及しました。
 肥田委員は、東京の9名のアフガン難民申請者の強制収容の問題、大阪の4名のアフガン難民申請者が長期にわたって判断を待たされている問題、さらに、大阪で1名のアフガン難民申請者が不認定とされ、退去強制令書を発布された問題について、詳しく、鋭く質問を投げかけました。
 しかし、答弁にたった中尾巧・法務省入国管理局長は、難民認定と退去強制手続について、なまぬるい一般論と法律論の答弁に終始、肝心のところでは「個別のことなので答弁は差し控えたい」。森山法務大臣は「難民と避難民は違う」といった珍答弁で締めくくるなど、「のれんに腕押し」の一般論に終始してしまいました。
 お読み頂ければ分かると思いますが、肥田議員の、かなり綿密で調査の行き届いた質問に対して、法務官僚は、入管法や難民条約の初歩的な部分を延々と説明して時間稼ぎをし、かつ、詳細な部分については意図的に省略して「適当にあしらう」といった対応をしています。これは立法府に対する真摯な態度とはとうてい言えません。以前の福島瑞穂議員の質問への法務官僚の答弁についても言えることですが、行政府は、自らの行政施策にかかる立法府側からの質問に対して、積極的に、真摯な議論をもってこたえるべきです。
 


 1.9名のアフガニスタン人被収容者に「テロ関連の容疑者」はいない
 2.難民認定手続と強制送還の関係
 3.日本の難民認定者数は何故少ない
 4.異議申し立て制度の不十分さ
 5.退去強制令書を発付されたアフガン難民の強制送還先はどこに
 6.難民と避難民は違う?



 
第153回国会 衆議院 法務委員会
2001年10月19日(金曜日) 午前10時開会

1.9名のアフガニスタン人被収容者に「テロ関連の容疑者」はいない

保利委員長 次に、肥田美代子君。
肥田委員 民主党の肥田美代子でございます。森山法務大臣には初めて質問させていただきます。よろしくお願い申しあげます。
 私は、現在大変厳しい状況にございますアフガンから日本に救いを求めてきたと思われる人たちのことについて質問させていただきたいと思います。
 まず、今、同僚議員からもございましたけれども、東京、千葉に住むアフガニスタン人の9名が出入国違反で家宅捜索をされ身柄を拘束されたと報道されておりますけれども、この報道では、全員がハザラ人であり少数民族である、タリバーン政権の迫害を受け、身柄を拘束された経験を持つと言うことになっております。恐らく、私は、アメリカで起きた同時多発テロ、これがアフガンからの不法入国者の摘発強化につながったんではないかということを想像しておりますけれども、この9人の中にテロ関連を疑わせる人物は存在しましたか。
中尾政府参考人(注:中尾巧法務省入国管理局長)具体的な事件の調査内容について個別に申し上げることは差し控えたいと思っておりますけれども、現下の状況にかんがみまして、委員の、そういうテロ関係の関係者が含まれているかどうかという点についてでございますが、私どもの現時点での関係では、そのような者が含まれているという事実は確認しておりません。

2.難民認定手続と強制送還の関係

肥田委員 この人たちは難民認定を申請中と聞いておりますけれども、過去にこの申請中に強制収容された例はございますか。
中尾政府参考人 お答えを申し上げます。退去強制手続きと難民認定手続とは別個独立の手続でありまして、退去強制手続きは身柄を収容して行うことが原則とされている状況でありますので、従来から、難民認定手続が行われている場合でありましても、退去強制手続きは法的にこれと並行して行っているところでございます。
 従いまして、難民認定申請中の者を収容令書でもって収容した事例は過去にございますけれども、ご質問のような区分で統計を取っておりませんので、具体的な人数については把握しておりません。
肥田委員 私、これは極めて異例なことだと思うんですね。なぜ身柄を拘束したのですか。不法入国と言うことですか。
中尾政府参考人 先ほど申し上げたようなことで、不法入国と言うことも含めまして、入管法違反の容疑者ということで所定の手続をとっている、こういうことでございます。
肥田委員 難民条約では、難民は、正規のパスポートやビザをもたずに逃げていることを前提としており、不法入国、不法滞在等を理由に刑罰を科してはならないと書いてありますけれども、これとの整合性はどうですか。
中尾政府参考人 お答え申し上げます。
 それは、あくまでも難民として認定された者についての問題でございます。それとは関係無しに、個々の不法入国という入管法違反の事件につきましては、所定の退去強制手続きによって所定の手続きをとる、こういうことで、別個のものと考えておるところでございます。
肥田委員 そうすると、強制収容されますと、今後どうなるのですか。
中尾政府参考人 議員ご指摘の、事件の具体的な処理の最終結末の状況のものについて申し上げることは、個別事件でございますので差し控えたいと思いますが、一般的に申し上げれば、当該収容中の者がその収容のかかる容疑事実を認め、過去強制事由に該当すると言うことで認定をいたしますと、最終的には退去強制令書が発付されまして、退去強制令書に基づいて所定の送還先に送還される、こういう手続が進む、ということでございます。
肥田委員 そうしたら、この場合、送還先はアフガニスタンと言うことになるのですか。
中尾政府参考人 これも悪まで一般論として申し上げざるをえないわけでありますけれども、送還に関しましては、出入国管理および難民認定法53条に規定がございます。この規定によりますと、退去強制を受ける者は、原則といたしまして国籍国または市民権の属する国に送還されることになっております。
 ただし、これらの国に送還することが出来ないときには、本人の希望によりまして、いくつかのところに、それぞれの個別的な案件に応じて送還することになります。まず、わが国に入国する直前に居住していた国、わが国に入国する前に居住したことのある国、わが国に向けて船舶などに乗った港の属する国、出生地の属する国、出生時にその出生地の属していた国、最後に、その他の国、このいずれかのところに本人の希望により送還されることになるようになっております。

3.日本の難民認定者数は何故少ない

肥田委員 まだ事例がございます。大阪では、タリバーン政権下で迫害されて日本に逃げてきた4人の男性が早く難民認定をしてほしいということで待っているのですけれど、もう2年半たっている。それで今入管に申し入れているわけです。
 日本の難民受入数、これは諸外国に比べて本当に少ないはずですけれども、ちょっと数をおっしゃって下さい。昨年で結構です。
中尾政府参考人 過去の合計数で申し上げたいと思います。難民認定制度が開始された昭和57年以降、平成13年の9月末迄に私どもの方で難民認定をして難民として認定した者の数は合計270名でございます。
肥田委員 昨年の申請は216人ありますけれども、認定されたのは何人ですか。
中尾政府参考人 これは申請とイコールその中での処理というのは結びつきませんけれども、平成12年度中に私どもの方で難民として認定した者の数は22名でございます。
肥田委員 そのうちアフガニスタン人の数はどうなっておりますか。出ておりますか。
中尾政府参考人 平成12年のアフガニスタン人として難民認定した者の数でございますけれども、3人でございます。
肥田委員 一年以上、在留資格がないままに宙ぶらりん状態でこの認定を待っている人は現在どのくらいいらっしゃるでしょうか。
中尾政府参考人 お答え申し上げます。
 議員ご質問の形での資料を、ちょっと今手元に持ち合わせておりませんので、まことに申し訳ないのですけれども、平成12年度で難民認定のあった者についての処理件数が185件ございます。議員の関係で、一年以上というお話でございましたので、そのうち一年以上経過した者について認定・不認定の処理を行った者は45件ということでございますので、だいたいそういう感じでお受け取り頂ければあり難いと思います。
肥田委員 難民認定申請が却下される理由、いくつかあると思いますけれども、もし内部で基準が作られていましたら、そのことも合わせてお答えいただきたいと思います。
中尾政府参考人 まず、難民と言うことになりますと、難民の地位に関する条約等にさだめるところの難民に該当するかどうか、こういうことになります。それが一つの基準といえば基準と言うことになろうかと思います。
 それによりますと、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあるか否か、こういうことで判断することになろうかと思います。これに該当すると判断すれば難民と認定する、こういう取扱いになっております。
 ただ、却下の理由、不認定の理由等についてのお尋ねですので、その点についてお答え申し上げたいのですが、難民申請につきましては、個々の難民申請者の申立の理由は極めて多岐に渡ります。必ずしも一つのものでもありません。なおかつ、いろいろな国情等がございますので、複雑に絡み合っているのが実状でございます。
 したがいまして、難民認定の許否を決定する場合に起きましても、これらの申立の個々の理由をいわば総合的に判断せざるをえないということになりますので、委員ご質問の難民不認定の理由について、個別に取り出してこれをこういうことであるというようなことで申し上げるのはちょっと困難だろうと思います。

4.異議申し立て制度の不十分さ

肥田委員 大阪のこの4人の男性が一回不認定の結論を出されまして、その後異議申し立てをしているんですね。これもさらに却下されたわけです。
 異議申し立てをしてその決定が覆された、そういう事例はございますか。もしあったら、何件かということだけお答え下さい。
中尾政府参考人 今手元に資料がございませんので、正確にはお答えすることが出来ませんので申し訳ありませんけれども、もちろん異議の申し出という制度はございますし、異議の申し出に基づいて、それに従って審査判断をやり直して、それが覆った例はもちろんございます。その辺の関係の件数につきましては、また後ほど、委員の方からお話がありましたら個別に調査いたしましてご返事させていただきたいと言うように思います。
肥田委員 私の調査では19年間で5件だというふうに出ておりますので、恐らくその数は間違いないと思います。ずいぶん少ないと思います。しかも、異議申立をするのが同じ役所なんですよね。ですから、同じ結論が出て本当は当たり前じゃないかというふうにも受け取られてしまうわけです。やはり私は第三者機関が異議申し立てを受けるべきだと思っています。
 さらに、大阪の事例でもう一つお尋ねしたいのですが、アフガニスタン人の男性が難民認定申立を却下され、異議申し立ても却下されて、今強制送還の瀬戸際にある、そういうことなんですけれども、この難民条約33条にございますノンルフールマンの原則、この原則はもちろんご存じだと思いますけれども、この33条と今回の強制送還、これとの関連はどのように考えたらいいのでしょう。
中尾政府参考人 お答え申し上げます。
 委員の、具体的な案件の関係でどうだということになりますと、これはちょっと答えするのは差し控えさせていただきたいと思います。
 委員ご案内のノンルフールマン原則の関係のことは私どもの方も承知しております。もちろん、具体的な送還に当たりまして、当該送還先の国がこれに該当する場合かどうか、あるいはその他人道上の配慮とか、いろいろな諸般の事情を考慮せざるをえないと思いますが、そういうようなことを踏まえて適切に対処したい、そういうふうに考えているのが現状でございます。

5.退去強制令書を発付されたアフガン難民の強制送還先はどこに

肥田委員 私、心配するんですけれども、この男性が強制送還される先はやはりアフガニスタンになるんですか。強制送還というのは、これはもう決まってしまったものですから、そんなに長く日本に置いておけないですね。どうなさいますか。
中尾政府参考人 退去強制令書が発付され、そしてそれにつきまして送還先が特定の国と言うことになりますと、その関係で送還の条件が整えば送還すると言うことになります。したがって、送還するのには相手国の受け入れの関係もございます。送還の際に、それぞれの旅券等の取得等で、在日の大使館等でパスポートの申請など、いろいろな条件が整えば、その段階で送還の最終的な手続に入る、こういうことになろうかと存じます。
肥田委員 まだちょっと私の危惧にお答えいただいていないのですが、それでは、送還先はまたアフガニスタンと言うことが第一義になるのですか。
中尾政府参考人 お答え申し上げます。
 これはアフガニスタンと言うことで決めてということでお答えすることは差し控えたいと思いますが、ある特定の国と言うことで送還先が決定しても、それはそれとして、絶対的に、半永久的にそうだということではございません。いろいろな関係で変更すること、更正することは可能でございます。
肥田委員 後数分残されましたので、大臣とちょっとお話しさせていただきたいと思うんです。
 実は、今聞いていただいてたぶん大臣は理解して下さったと思いますけれども、難民支援につきましては、外の難民を支援することはもちろん大切だと思うんですけれども、やはりこの国に助けを求めに来る難民、その人たちについて、もうちょっとわが国は温かくしなければならないと思うんです。
 それで、私は、先ほどから局長さんのお話をうかがっておりまして、一生懸命、入管のご苦労されているのがよく分かります。ただ、一方で、やはり人道上の温かい配慮でもって保護しなければならないというもう一つの仕事があるわけですね。ですから、法務省の入管の中での二つの全く違った業務をしていただくことに大変無理、矛盾があるんじゃないかと私は実感したんですけれども、大臣はどう思われますか。

6.難民と避難民は違う?

森山国務大臣(法務大臣) 肥田先生がおっしゃいます難民とそれから避難民という者はちょっと違うものなんですよね。
 難民というのは、法律上ア類は条約上に言うところの難民でありますから、その難民として認定するあるいは受け入れるというためにはいろいろな条件があって、それに合致していなければいけませんし、合致しない場合は受け入れられないという決まりになっているわけです。
 避難民というのはまた全く別のもので、例えばアフガニスタンが非常に混乱して、その状況から避けようとして隣国へ出てくるような避難民、あるいは、前にそういう例がありましたが、ベトナムとかカンボジアあたりの方々が船に乗って逃げ出して、それが日本に何十人、何百人という単位でおいでになったと言うようなケースもございます。それは、難民ではなくて避難民なわけでございます。
 ですから、難民の処理については今局長がもうしましたようなプロセスでやっておりますが、避難民という皆さんに対する温かい手をさしのべるというのは、法務省だけでなく政府全体として考えるべきことではないかという風に考えます。
肥田委員 ありがとうございます。
 避難民という概念でもって、今、法務大臣が率先して省庁横断的に、例えばインドシナ難民がたくさん出ましたときに日本が閣議決定でもってやったように、大きなシステムをダイナミックに作って、今おっしゃるひなんみんを受け入れていく、そういう提案も是非してほしいと思います。もう一度大臣、お答え下さい。それで終わります。
森山法務大臣 今のところまだ、その状況がどうなるかはっきりしたことがわかりませんが、大量の避難民が出てくると言うような状況になりました場合には、そういうことも検討しなければいけないかなという風に思います。
肥田委員 ありがとうございます。終わります。
 



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