2001年11月1日 参議院法務委員会
 


2001年11月1日 参議院法務委員会
 
「60日条項」「難民手続へのアクセスの保障」中尾局長、一般論には柔軟?
アフガン難民申請者の問題には態度豹変、「組織的な不法入国事案の疑い」と答弁
  

 11月1日の参議院法務委員会で、入管法改定案の審議が行われました。この中で民主党の千葉景子議員が、アフガン難民申請者の具体的な問題と、日本の難民政策の問題点について問いただしました。
 今回も、中尾巧・法務省入国管理局長が主に答弁しましたが、入管法改定案に文句をつけられることを警戒したのか、中尾局長は一般的な問題については、ずいぶんと柔軟な答弁を行いました。「60日条項」については、形式的に60日条項で切ることはしない(していない)と答弁、また、空港などでの難民手続へのアクセスについても、柔軟に対応することを約束。しかし、いずれも具体的にどう運用を変えていくつもりがあるのかについては答弁はありませんでした。
 話がアフガン難民申請者に及ぶと、中尾局長はとたんに形式論に移行。「難民認定手続と退去強制手続きは別個」という恒例の答弁に加え、この件を「組織的な不法入国事案」の疑いがあるから収容して調べていると示唆しました。
 
 



 
日本の難民認定が少ない理由を「地理的事情」にすり替え

○千葉景子君(民主党) ありがとうございます。
 法案の内容につきましてはまだ細かい点でお聞きをすべきところもあろうかというふうに思いますけれども、ちょっと限られた時間の中ですので、少し、もう一方、難民にかかわる問題についても聞かせていただきたいというふうに思いますので、法案にかかわっては以上にしたいというふうに思います。
 実は、今回、入管法の改正が行われるわけですけれども、この法律の名称は入管及び難民認定法というわけでして、この法律の守備範囲として難民問題が存在しているわけです。今回はそれについては特段、法案の中では触れられておりません。
 ただ、これは冒頭にも申し上げましたけれども、二十世紀がそういう国と国との対立の時代で戦争の世紀とも言われていたわけですけれども、そういう中で非常に迫害が行われて、多くの人がみずからのふるさとを後にしてそして他国へ逃れたりする、こういうある意味では世紀でもあったというふうに思います。
 二十一世紀になっても、それが引き続いて、引きずられているというわけでして、アフガンなどもその大きな一つの問題でございます。また、それに輪をかけて、アフガンの中では、今度の同時多発テロを機に戦闘状況にあり、また、より一層たくさんの人が難民となって周辺に出ていると、あるいはそれすらできないという話も聞いておりまして、大変悲惨な状況でございます。
 これまでもアフガンでは内戦で二百五十万人以上の難民が出ているということでございますし、これからもふえていくだろうと。それから、この難民問題は、国連の難民高等弁務官事務所、緒方貞子さんが本当に奮闘をされてこられた機関でございますけれども、このUNHCRの支援対象になっている難民も二百万から三百万いると、正確な数字は私もわかりませんけれども、そう言われているわけです。
 そういう中で、日本へもいろんな形で、アフガンばかりではありませんけれども、保護を求めて来日している人もこれまでもございました。今、この同時多発テロを機に、日本も難民問題の解決などに積極的に行動をしなければいけないと、こういうことが盛んに言われておりまして、私もこれは日本が本当にやるべき大きな仕事だというふうに思っております。こういうさなかですから、やはり言葉だけではなくて、本当に一つ一つ行動をもってそれを現実のものにしていくことが必要だろうというふうに思います。そうしないと、幾ら難民支援難民支援と叫んでも、結局、国際社会の中からも、口ばかりだと、一時期は何か金だけだと言われたときがあったかとは思いますけれども、またまた今度は口だけだということにもなりかねないわけでして、こんなことを思いながら日本の難民の受け入れ状況を考えておりました。
 正直言って大変残念な状況です。日本までわざわざ来日をして救済を求める人の絶対数が少ないということも多少あるかとは思います。しかし、やはりG7諸国あるいは先進諸国などと比較をいたしましても、余りといえば余り、少ない状況ですね、来る人が少ない。
 それは、日本がやっぱりそういう温かい受け入れの心を持っていないということを見抜かれてみんなが来ないものなのか、それとも距離が遠いからなかなか来ないのか、あるいは来てそういう救済を求めたいけれどもそういう道が閉ざされているのか、いろいろな問題があると思うんですが、ちょっと実情が、最近少しずつふえているとはいいましても、これ、法務省の資料でございますので別段誤りないと思いますけれども、平成十二年の実績で、申請されたものが二百十六、そして難民に認定されたものが二十二、不認定百三十八、取り下げている方が二十五ですかね、まだ未処理
のものとして二百二、こういう数字が挙げられておりまして、昭和五十七年以来の総数で難民として認定されたものが二百六十ですかね、八十か、一年に一件なぞという年もずっとあったという状況でございます。
 一体、これはどういうことを意味しているんだろうかというふうに思うんですけれども、それについては基本計画、先ほど示していただいた基本計画の中でも、難民支援というものについて、難民認定を適切に行っていくということも挙げられておりますが、この状況については、ちょっとどうでしょう、実際、大臣、どんなふうにお感じになられますか、今、急で申しわけないんですけれども。
○国務大臣(森山眞弓君) 確かに、今おっしゃったような数字でございまして、この二、三年は前に比べると多少ふえつつありますけれども、先生がおっしゃいましたように、やはり地理的に非常に遠いということや、文化的な背景が大変に違う、言葉も違うというようなことがありまして、よそで何とか自分の国を逃れて行きたいという先に日本ということを思いついて、日本に難民を申請しようと思う人々が、数がまずとても少ないということですね、よその国に比べますと。ヨーロッパのように地続きであるところ、あるいは文化的にも基盤がかなり共通であるところ、言葉もかなり融通がきくというようなところに比べますと甚だしく少ないということはもう否めない事実だと思います。
 今申し上げたのは、難民の申請をして、それを条約上あるいは法律上認定をされるという条約上の難民の話でございますが、一方、今、アフガニスタンあるいはパキスタン等で心配されておりますいわゆる避難民、被災民といいましょうか、そういう人々の問題はまた別でございまして、これらについてはいろいろと気を配り、また場合によっては財政的にも、あるいは日本の国の政策としても別に考えるべきことではないかというふうに思います。政府全体として取り組むべき課題ではないでしょうか。

「60日条項で形式的に判断はしない」口先は柔軟な中尾局長

○千葉景子君 大臣に突然で恐縮いたしましたけれども、本当にそういう地理的な問題等もあろうかというふうに思いますが、ただ難民認定手続上も、日本の場合はいささか非常にしにくい状況もあることはやっぱり考えておかなければいけないというふうに思うんですね。数は、確かに絶対数が少ない。でも、その中でも、何とか日本で救済を受けたいといって飛び込んできた人たちにとっても、非常に日本の難民認定手続は問題が多いのではないかというふうに思っております。
 いろいろありますけれども、例えば日本の場合には、よく言われますように、六十日ルールというのが適用されております。これは、日本に上陸をしてから六十日以内に難民申請をしないと却下されるという状況があると私は承知をいたしているんですね。
 ただ、六十日、長いようで大変短い。迫害から逃れ、そして自分の国を本当に捨てられるのか否か、そういう悩みを持ちながら、そして日本の社会というものに本当に入ることができるのかどうか、いろんなものを抱えながら来て、六十日というのは本当にまだまだ悩み悩みという時間ではないだろうかというふうに思うんですね。
 そういう意味では、こういう六十日ルールのようなものがあることがやっぱり難民申請を抑止したり、あるいは、しても結果的に、先ほど取り下げのような数もありましたけれども、結果的にそういう道につながってしまっているというようなこともあるのではないかと思いますが、この点についてはどうですか、局長。
○政府参考人(中尾巧君) お答え申し上げます。
 委員御指摘のとおり、入管法六十一条の二では、難民認定の申請は上陸をした日から六十日以内に行わなければならないとされております。これは、いわゆる六十日ルールと巷間言われているところでございます。
 これは、やはり迫害から逃れて他国に保護を求める者については、当該国に上陸後、速やかにその旨を申し出るというのが通常のケースだろうというふうに考えられますので、六十日という期間というのは一応合理的な期間ということは言えるだろうと思います。
 仮に、この期間を経過している場合でありましても、やむを得ない事情がある場合には、その期間を経過していてもよいというふうにされておるところでございます。
 この六十日の期間というものについては、私どもの方で形式的に判断することなく、やむを得ない事情があるかどうか、慎重に審査して判断するようにというふうな取り扱いを行っているところでございますし、いずれにいたしましてもその当該申請者の迫害に係る申し立てにつきましては、実態的に十分審査、吟味をしているところでありますので、難民である者がこの六十日ルールによって、そのことのみによって難民でないというふうに認定されることはないものと承知しておりますし、この辺のところの運用は、委員の御指摘も踏まえまして、今後とも慎重に対処したいという
ふうに考えておるところでございます。

「難民手続へのアクセスも柔軟に」それにしても柔軟な中尾局長の答弁

○千葉景子君 さらに、私もちょっと聞いたケースですけれども、要するに難民申請が本当に上陸したときにすぐできるかどうかという申請手続のアクセスも非常に日本の場合には弱いと、こういうことも指摘されています。
 言葉もなかなか十分にわからない、そういう中ですから、例えば諸外国などですと、空港などに本当に十数カ国語で、難民申請ができます、救済を求める方はできますという、そういうようなことがきちっと記載をされているということも私も聞いておりまして、来る人が少ないんだ、あるいはそういうことをやるという人がいればやってやるよということではなくして、日本というのはそういう温かい心もあるんだよと、本当にそういうことを入り口からやっぱり示すということが必要なんじゃないかというふうに思うんですね。
 今回、アフガンなども、あの中でも幾つもの民族の言葉があり、正直言って、やっぱりそういう迫害の地から逃れてくるような人々の場合には、少なくとも日本語がわかるということはなかなかありませんし、あるいは英語なども理解がなかなかできない。みずからの民族の言語が本当に唯一理解できる言葉であるという人々も当然あるわけでして、それは、世界の民族の言葉を全部というわけにはいきませんけれども、例えば今の時期、アフガンがこういう状況にあるというときであれば、そこから来る人も予想される。じゃ、そういうところの言語をできるだけわかりやすく表示をするとか、本当にきめ細やかなそういう体制というのが必要じゃないかと。こういうことの積み重ねをやって初めて、日本は国際社会の中で難民支援をやるんだ、難民救済に積極的に行動するんだということの言葉が本当に重みを持ってくるんじゃないかというふうに思うんです。
 そういう、今、一つの例ですけれども、上陸して、たまたま偽造事件で刑事事件になって、弁護士の人と何らかの形で接触して初めて、難民申請というのもできるんだ、そういうことの手続がやり得るんだということをそこで初めて知ったと、そういうこともあるやにも聞いたりします。
 それだけ認定の方も、なかなか先ほどのルール等もあって難しい。しかも、入り口で随分そのアクセスができないままにいる。こういうこともあるように思いますので、こんな点、一歩でも二歩でも、すぐにでもできることじゃないかと思うんですけれども、どうですか。
○政府参考人(中尾巧君) 難民手続へのアクセスの問題というのは極めて重要だろうと私どもも思っております。それに対する配慮を、委員御指摘の点も踏まえて、今後ともきめ細かく対応を考えていきたいというふうに思っております。
○千葉景子君 今回、もう既にいろいろなところで指摘をされておりますけれども、今、アフガン難民で申請をしている人たちがいわゆる収容されているという事態がございます。
 これまで日本の入管当局の対応も、難民申請をしている人について、できるだけ収容措置などはしない、あるいは仮放免などをして心の安定などを図っていく対応を随分とられてきていたように思うんです。
 ただ、今回、突然のようにこの収容が継続されている。これ自体が私は非常に問題だというふうに思いますけれども、何か理由があるんですか。どうしても収容せざるを得ない、あるいは何か特別な理由でもあってやられているんですか。それによってアフガンの情勢でも、情報を得ようなどという、そんなとんでもない気持ちがあるわけではないと信じますけれども、どうでしょう、何かえらくこれだけ突出しているという感が否めませんけれども、その点について何かございましたら説明してください。

アフガン難民の具体的な問題には形式的答弁で逃げ切り

○政府参考人(中尾巧君) 具体的な案件の調査状況、処理状況については申し上げるのは差し控えたいと思いますけれども、難民認定手続と退去強制手続とは別個独立の手続でございますので、従来から難民認定手続が行われている場合でありましても退去強制手続はこれと並行して行っているところでございます。
 私どもといたしましては、一般論で申し上げて恐縮でございますが、これまで入管法違反者について国籍を問わず所要の摘発を行っているところでございますし、委員が御指摘いただいたような、そういった観点で摘発を行った例はございませんし、現在のところ、一般論で申し上げますと、退去強制手続は原則として身柄を拘束して進めることとされておりますけれども、特に国籍等の身分事項に疑義が生じ、慎重かつ早急にその確認の必要がある場合には収容せざるを得ませんし、組織的な不法入国事案の疑いが濃厚な案件につきましては、やはりその実態を早急に解明するためには容疑者を収容して調査を行う必要があろうかというふうに考えておるところでございます。
○千葉景子君 もう最後にします。
 退去強制手続、それが別個のものであることは私も十分承知をしております。しかし、難民条約そして国連難民高等弁務官事務所のいろいろな取り扱いの基準によりましても、難民を申請している者、いろいろな心のトラウマを含めて持っている人々でもございます。原則として収容は控えるというのがやっぱり世界の原則、基本ではないでしょうか。そういう意味では、今お話しいただきました、手続は別である、そして必要があれば入管の退去強制手続の方で収容もある、こういうしゃくし定規な御説明ですけれども、やっぱりこういうことを続けていたんでは、日本が本当に難民問題に積極的に行動する、そんな言葉は世界から信用されないというふうに私は思います。
 ぜひ、その点については改めてしっかり検討いただくようにお願いをし、時間ですので、大臣にもその点は耳に置いておいていただいて、何らかの大臣としてのまたリーダーシップをとっていただくことができたら大変私はうれしいと思いますので、よろしくお願いをして、質問を終わります。

 



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