2001年11月27日 参議院法務委員会
 


2001年11月27日 参議院法務委員会
 
森山大臣、アフガニスタンでの迫害状況を積極的に検討せず
「本人の状況」だけで難民不認定したことを認める
  

 11月26日の法務大臣による難民不認定の決定を受けて、11月27日の参議院法務委員会で民主党の江田五月議員が森山法務大臣・中尾入管局長に厳しい追及を行いました。
 江田議員はまず、難民不認定の理由を森山大臣にただしました。森山議員は「アフガニスタンの事情を考慮しなかったわけではないが、主要に考慮したのは本人の状況だ」と、アフガニスタンで彼らが迫害される可能性があるかどうかについての考慮が十分でないことを強くうかがわせる答弁。難民条約における難民の要件は、人種・民族・宗教・特定の社会的集団の構成員であること・政治的意見を理由とする、十分に理由のある迫害の恐怖を有していることであり、その判断においては、本国で迫害される可能性が「十分に理由のある」ものとして存在するのかどうかということであり、アフガニスタンにおいて彼らが迫害される可能性があるかどうかが第一義的に、まず検討されるべきです。この答弁は法務省の判断がいかに「難民不認定」という結論先にありきのものであるかということを如実に明らかにしています。
 江田議員は、次に難民申請についての代理人の位置づけについても、かなり詳しい質問を行いました。中尾局長も答弁がしどろもどろになっています。さらに江田議員は、4名に発付された退去強制令書の送還先がアフガニスタンかどうかを確認しました。中尾局長が「法律に基づいて……」と責任のがれをしようとしたところ、江田議員はすかさず「アフガニスタンかどうか」と追い打ち、中尾局長は「そうです」と認めざるを得ませんでした。
 最後に江田議員は、森山大臣に対して、日本はもっと難民を受け入れるべきだと主張、森山大臣もいやいやながら「難民を受け入れることは嫌だと言っているわけではございません」と答弁。もちろん、「本当に必要な、あるいは条件の整った難民の方が申請していただければ」と皮肉をつけくわえることも忘れませんでしたが。

 
 



 
森山大臣答弁:「アフガニスタンの状況」については考慮外? 

○江田五月君 私も、ただいまの刑法改正案についてもさらに前回に引き続いて質問をさせていただきますが、その前に緊急の事件が起きていますので、そのことについて伺います。 
 例のアフガニスタン人の難民申請の関係です。 
 これは、本邦に在留しているアフガニスタン人九人が難民認定の申請をされた。その九人について強制退去手続がとられて収容令書が執行された。その収容令書に対して取り消し訴訟が起こされて、そのうちの四人については収容令書の執行停止が却下されて、即時抗告がなされて、即時抗告が棄却された。残りの五人については収容令書に対する執行停止が認められて、即時抗告中であると、こういうことだったですよね、たしか。そして、きのう、法務省は難民不認定という結論を出して、その告知の段階に入っておるということだと思いますが、それをざっと法務大臣、事実関係をまずお伺いします。 
○国務大臣(森山眞弓君) 今、おっしゃいました件につきましては、おっしゃったとおりでございます。 
○江田五月君 難民不認定の判断というものについてはどういうことですか。 
○国務大臣(森山眞弓君) 九人のうち、まず四人の人につきましては、十一月二十七日に、難民に認定を申請をされてはおりましたけれども、その理由がないということを裁決いたしました。これを受けまして、昨日、東京入国管理局におきまして退去強制令書が発付されて執行されたと承知しております。 
○江田五月君 中身については、この申請をしている者の言い分もあろうし、出入国管理を担当している皆さんの方にもいろんな言い分があると思いますが、そこの中身について細かく質問する時間的な余裕がないので簡単にしますが、アフガニスタン及びパキスタンの情勢について、これは難民認定、不認定の際にはもちろん考慮をされたんでしょうが、どういう証拠に基づいてどういう情勢についての事実認定をされたのか。 
○国務大臣(森山眞弓君) ただいまちょっと申し上げたことで言い直しをしたいと思いますが、認定、理由がないということで裁決いたしましたのが二十七日です。そして、入国管理局において退去強制令書が発付されたのはきょうでございます。失礼いたしました。 
 アフガニスタンの件についてというお話でございますが、アフガニスタンの状況ということもございますけれども、その本人がそれぞれにどのような事情であるかということを一人一人丁寧に聞きまして、その結果、難民として認定する理由がないということになったわけでございまして、そういう状況でございますので、アフガニスタンの情勢がどうかということももちろん全く関係ないわけではございませんが、それよりはそれぞれ本人の状況でございます。 

難民申請に関する資料は必ず本人がもってこなければならない? 

○江田五月君 申請者の代理人がいろいろ証拠を提出したいということを言っていて、そしてそれには若干の時間的な準備も必要だということのようですが、そういう代理人からの証拠提出、これは受理をされましたか。その証拠の検討はされましたか。 
○国務大臣(森山眞弓君) お持ちいただいたものは全部受け付けさせていただいて、検討させていただいたと聞いております。 
○江田五月君 十分な時間的な余裕もなくてそんなにやいのやいの言われても、そう簡単には準備できないというようにも聞いておるんですが、そのあたりはさらに適切な運営をお願いするとして、まず難民認定申請について、これは手続の代理人選任権、代理人を選任して代理人によっていろんな主張をしたり証拠を出したりすると、このことは認めてよろしいんでしょう。 
○政府参考人(中尾巧君) お答え申し上げます。 
 難民申請につきましては、基本的には本人申請ということになっておりまして、申請そのものについては代理人の申請というものは法的には認められてはおりません。ただし、その認定に対しての異議の申し出その他の関係につきましては、これは訴訟、代理人として弁護人がその異議の申し出等はできることになっております。 
○江田五月君 ここはやっぱり一つ議論でして、法律上、代理人選任権が明定されていないからといって、いろいろな法律行為、行政行為なんかについて資格を持った代理人を選ぶ権利というものは法律で明定されていなければないのかどうか、これはやっぱり重要な議論ですよ。 
 私は、やはり近代法の大原則というのは、そういうときに資格のある代理人によって自分の権利、利益は擁護される、自分の言いたいことは言える、そういうことはやはり守られなきゃいけないんじゃないかと思いますが、もし認めていないとしたら、日本語を解さず、あるいは資力のない申請者がみずから本国についての情報を収集したり、提出したり、説明をすることは困難ですよね。自分自身のことについて、やはり特に日本というところへ遠く遠隔の地から、言葉も全く違う、生活実情、社会の実情も全然違う、そういう人の権利が十分保全されるためには、今の認められていないはいないとしても、代理人によるそういう行動というものは十分に保障して扱う実務の扱いにしておられるんではないかと思いますが、いかがですか。 
○政府参考人(中尾巧君) 今、先生がおっしゃったような形で、当該難民の申請をする者が個々にそういう資格のある弁護人等々を選任されて個別に各種資料を収集されることについては別に禁じるものはございませんし、実際のところ、いろんな形で収集されることはあろうかと思います。ただし、そういって収集されたものを当該難民申請を行う者が、それがみずからのものとして私どもの方に提出すべきものか、あるいはそういうことで申請の資料として提出すべきかどうかということは、当該御本人が考えた上で私どもの方に直接提出していただく、そういう形で運用しておるところでございます。 

難民不認定の通知に本人が出頭しないと不利益に扱われる? 

○江田五月君 その扱いについていいかどうかは、これは後ほどまた議論をしたいと思いますが、現在収容されていない五名、これは、難民申請についての決定の告知のために呼び出しをしたら、出頭せずに代理人が出頭したというように聞いておりますが、それはそれでいいですか。 
○政府参考人(中尾巧君) 代理人の弁護士さんが十一月二十六日に私どもの方に来られたことは承知しております。 
 私どもの方で告知するのは直接本人に告知するということで、五人の方には当日来ていただきたいということで来てもらうことになっておったわけですが、お越しにならなかったわけであります。ですから、再度来ていただくということで出頭を求めて、来ていただければ告知する、難民の認定に関する私どもの方の決定の内容を告知すると、こういう形になろうかと思います。 
○江田五月君 私は、そこはやはり一つ重要なところで、代理人が来ているわけですから、だから難民認定手続におけるそういう申請者の行動、代理人をよこして本人が来ない、だからといってこの退去強制の手続でその人たちがそのことを理由に不利益に扱われるというのはおかしいんじゃないかと思いますが、いかがですか。 
○政府参考人(中尾巧君) 当日、十一月の二十一日に本人が私どもの方に出頭しなかった理由については、これから直接どういうことであったかどうかを確認することとしておりますので、現時点でその不出頭理由が何であるか私どもの方ではわからないわけでありますので、それが退去強制手続の中で情状等で影響を及ぼすものと言えるかどうかということは、今の段階で御返答できるものではないと、こういうふうに考えるところでございます。 
○江田五月君 だけど、皆さんのお考えは東京地裁の民事第二部の執行停止の決定の考え方とは違って、退去強制手続と難民認定手続とは全く別の手続であるという、同地裁民事第二部の決定の根拠となっている、論拠となっている論理ですよね。今、出頭しているしていないという話は難民認定手続に関することですから、直ちに言えないじゃなくて、退去強制手続についてはそのことは影響ないと、こういうことになるんじゃないですか、皆さんの議論からすると。民事三部の議論だったらちょっと違うかもしれませんが。 
○政府参考人(中尾巧君) これは若干誤解があったら申しわけございませんけれど 
も、要は、今収容中だった者が裁判所の執行停止の決定で身柄を解くという、こういうことになったわけの五人についてでございますので、その者が、もちろん難民認定手続と退去強制手続は別に進行しておりますけれども、仮に十一月二十六日に出頭しなかった理由が、どこかに逃げちゃって、あるいは不法にどこかへ出国したり、これは極端な例でございますが、所在が不明になっておるがゆえに難民申請の告知の当日に出頭しなかったということが後々判明したということになりましたら、それ自体は退去強制手続の中でも考慮されることだろうとは思いますし、もちろん難民認定のもう既に手続が一応終了して告知する段階になっておりますので、これは、そのこと自体は難民認定手続とは関係のない話と、こういうことになろうかと思います。 
○江田五月君 私は、難民認定手続について、出頭しなかったことが退去強制手続に影響を及ぼすかと聞いたんで、難民認定手続において出頭しなかったその原因となっている事実がこちらに、退去強制手続に影響を及ぼすかどうかを聞いたんじゃないんですよ。頭をクリアにして聞いてください。 
○政府参考人(中尾巧君) 委員御指摘のとおりだと思います。私の方で事実をとらえてというふうに認識した上でお答えしたと、こういうことでございます。 

退去強制令書の送還先はどこ? 

○江田五月君 仮に、難民不認定の決定を告知したとしても、退去強制手続の収容令書についての執行停止、この決定に影響があるはずはないんで、したがってこれはすぐに身柄を収容ということにはならない、そのことだけでは。一方で、身柄が収容されている者については難民不認定決定が告知をされていて、そして、きょうですか、退去強制令書の発付ということになったと。しかし、恐らく難民不認定決定に対する取り消し訴訟は起こされるでしょうし、また今、そもそも強制退去手続に対して収容令書の取り消し訴訟が起こされているわけで、これは、だからすぐにもうアフガニスタンに送り返すということになるものではないと思いますが、いかがですか。 
○政府参考人(中尾巧君) 退去強制令書が発付されますと、そのときに決定されました送還先に送還するということになっておりますし、速やかに送還する、仮に速やかに送還できないときには送還のことが可能になるときまで収容すると、こういうことでございますので、送還先の事情その他、送還のできる条件が整わなければ直ちに送還するということにはならないというふうに思います。 
○江田五月君 本件の場合に難民に当たるかどうかは確かに私もいろんな側面があるだろうなという気はしますが、しかしいずれにしても、これはあれですか、退去強制、強制送還する先というのはアフガニスタンですか。 
○政府参考人(中尾巧君) 退去強制先、つまり送還先につきましては、入管法の所定の…… 
○江田五月君 アフガニスタンかどうか。 
○政府参考人(中尾巧君) 本件については、それに従ってアフガニスタンということで退去強制令書が発付されたと承知しております。 
○江田五月君 アフガニスタンのどこですか。 
○政府参考人(中尾巧君) アフガニスタンのどこという御質問のようですが、アフガニスタンという国として、あるところと、こういうことでございます。 
○江田五月君 アフガニスタンがどこかというのはわかっているんですが、アフガニスタンといったっていっぱいあるんです。しかも今、いっぱいあるというのは、アフガニスタンは一つだけど、その中に場所はいっぱいあるんで、しかも今アフガニスタン、まあ外務大臣に聞けばよくわかるかもしれませんけど、それは強制送還するのにカブールに送還するのか、カンダハルなのかどこなのか、タリバンのところなのか北部同盟のところなのか、全然違うんじゃないんですか。それをどこへ、じゃ送還されるつもりですか。 
○政府参考人(中尾巧君) ですから、今、委員がおっしゃったとおり、アフガニスタン情勢というものを私どもの方で見きわめた上での話でありますので、具体的にそういう、委員がおっしゃるような状況下では送還される状況が整っていないと、こういうことでございます。 

森山大臣「難民を受け入れることは嫌でない」一般論ならいくらでも言える? 

○江田五月君 やはり、それ以上詰めませんが、実情をよくお調べになったり、あるいはその当事者の意見を十分聞いたりしながら、形式的に進めればよろしいんだということではなくて、やはりやらなきゃいけないと。今回のケースは、この個別のケースは別として、我が国の難民認定が余りにも厳格で難民条約の締結国として受け入れ実績が異常なほど少ない。こういうことでは、これは国際社会の中で名誉ある地位を占めるわけにはいかないと。 
 森山法務大臣、もっと積極的に難民受け入れをすべきだと、本件の事件とは別に、と思いますが、いかがですか。 
○国務大臣(森山眞弓君) 難民を受け入れることは嫌だと言っているわけではございませんで、本当に必要な、あるいは条件の整った難民の方が申請していただければ受け入れたいというふうに思っております。 
 なかなか、御存じのように、日本の場合は、今までの地理的、歴史的な経緯等で、難民として日本に難民認定してもらいたいと申請される方が今まで非常に少なかったということが第一の原因でございますので、申請があればいつでも積極的に審査をし、条件がかなえば受け入れるということは当然でございます。 
○江田五月君 国際社会が一致して二十一世紀の国際秩序をしっかりしたものに仕上げていこうというときで、そのために、どのくらい必要かよくわかりませんが、自衛隊も出そうというわけですから、出す方だけでなくて入れる方もひとつ積極的にやって、日本というのが国際社会の中で存在感のあるそういう国になっていかなきゃと思います。 
 



 本ページトップに戻る 国会審議indexに戻る アフガン難民問題indexに戻る