<目次>
(1)難民制度とは何か (2)日本の難民制度 |
(1)難民制度とは何か
近代的な難民制度は、第一次世界大戦、ロシア革命と続く20世紀の戦争と革命の中で、慣例的な形で徐々に制度化され、最終的に、第二次世界大戦後の1951年に制定された難民条約と難民議定書によって、基本的な枠組みが整いました。
この条約及び議定書では、次の要件を満たす者を難民とすること、難民条約の締約国は、難民と認めた者を保護し、一定の法的地位を保障し、社会生活・福祉・行政上の援助を与えることとなっています。その条件とは、先にも書いたように
・人種・民族・宗教・特定の社会的集団・政治的意見を理由として、
・迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、
・国籍国の外にいる者であって、国籍国の保護を受けることが出来ない者、
または国籍国の保護を受けることを望まない者
というものです。国連は、こうした条件にあてはまる難民を保護するために「国連難民高等弁務官事務所」を設け、具体的な難民救援に当たっています。また、各国の難民情勢についての資料の提供や、あるべき難民認定の方法などについての基準作りなども行っています。
また、欧米やオーストラリアなど、多くの先進国が積極的に難民を受け入れています。ドイツや米国は年間2万人以上の難民を受け入れてきましたし、その他のヨーロッパ諸国も、年間数百人から数千人の難民を受け入れています。一方、発展途上国においても、イランやパキスタンを始め、多くの国々が数万〜百万単位で難民を受け入れています。
日本では1978年、政府が政治判断によってインドシナ難民の受け入れを決定したことによって、本格的な難民政策が開始されました。1981年には、難民条約・難民議定書の締約国となるとともに、極めて排外的・外国人管理的な法律として悪名高い「出入国管理法」に難民に関わる規定を統合して「出入国管理及び難民認定法」とし、難民認定に関する一般法の最低限の整備も行いました。
日本のインドシナ難民の受け入れについては、冷戦体制のもとで、ベトナムからの大量の難民を引き受けなければならない状況にあったアメリカ合州国による強力な圧力があったと言われています。その結果、日本は合計8000人以上のインドシナ難民を受け入れることになりましたが、これはすべて入管法の枠ではなく、特別な判断として行われたものです。インドシナ難民の流れがほぼ鎮静化した80年代後半以降、日本の難民受け入れは入管法に基づいて行われるものが主流となりましたが、その数は欧米諸国に比較して、極めて少ないものとなっています。この10年間、日本が受け入れた難民の数はわずか49名。日本以外のG7の国で一番難民受入数が少ないイタリアでさえ、年間150名前後は受け入れているのに比較すると、極端に少ないとしか言いようがありません。
日本の難民制度には、受入数が少ないということ以外にも様々な問題があります。主なものを挙げると、以下の通りです。
○「60日ルール」の存在:入国してから、または難民となるべき事情が生じてから60日以内に難民申請をしなかった場合、原則として難民と認めない(入管法第61条の2)。
○難民の在留資格や保護制度の不備:難民に独立した在留資格が与えられておらず、難民を保護し、支援するための制度に関する法律上の規定も、難民条約の水準からはるかに遠い。
○難民申請者に法的地位が与えられない:難民申請者には法的地位が全く与えられず、在留資格のない外国人と同様の扱いとなる。そのため、難民申請者の法的地位は極めて不安定なものになる。
○難民認定への政治上・外交上の判断の優先:難民認定に関する判断が法務省・外務省の上層部で組織する非公式の委員会に委ねられており、難民申請者のおかれた状況を難民条約の規定に照らして行う客観的な判断よりも、政治上・外交 上の判断が優先される形となっている。
このように、日本の難民制度は、他の先進国の難民制度に比べて極めて不備や欠陥が大きいものとなっています。さらに悪いことに、日本の難民政策は、これらの不備や欠陥を修正し、より適切なものに発展させていくことを志向していません。むしろ、こうした不備や欠陥を、なるべく難民認定をせず、難民申請者を排除するための武器として悪用しているのが現実です。その結果、1998年までの数年間は難民認定数が毎年わずかに1名、その後も増えたとはいえ毎年10名〜20名前後、という状況が続いているのです。当然難民として受け入れられるべきアフガン少数民族の難民申請者たちが不認定となったり、強制収容されたりするといった苛烈な排除政策は、こうした日本の排外的な難民政策の延長上にあるということができます。
<表1:2000年におけるG7構成国における難民認定者数:日本との比較>
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日本 |
22人
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1
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フランス |
5,185人
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235.7
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イギリス |
10,186人
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463.0
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イタリア |
1,650人
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75.0
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アメリカ |
20,000人
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909.1
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ドイツ |
13,043人
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592.9
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カナダ |
13,990人
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635.9
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