全国難民弁護団連絡会議
 

難民認定申請者の地位についての提言

 

  去る10月3日、法務省入国管理局はアフガニスタン人難民申請者の少なくとも9名を、出入国管理及び難民認定法違反容疑で一斉に摘発し、収容しました。さらに10月9日、アフガニスタン人難民申請者の少なくとも1名に対し、難民の認定をしない処分の通知をすると同時に退去強制令書を発付し、収容した。 
 この暴挙について当会議は別の抗議書の通り強く抗議をするとともに、このような暴挙が二度と繰り返されないための機構改革を要求する。 

1 難民認定手続中の退去強制令書発付および収容の危険性 

(1)この2〜3年の間に多くの難民申請者に在留特別許可が付与され,この問題の深刻さは一面では緩和されたことも事実ですが,基本的には依然として多くの問題点を抱え,不安定な地位に根本的な変化はありません。 
  実際に難民申請者は,超過滞在や不法入国等を理由とした違反調査手続とこれに続く身柄の収容の危険にさらされています。難民としての庇護を求める手続的保障が与えられているその人たちが同時に身柄収容の危険と隣り合わせの生活を送らなければならない現状は、日本の難民制度の歪みを示しています。そして残念ながら,2001年に至ってもこの問題は継続しています。最近でも第一次或いは異議での不認定決定通知と同時に退去強制令書の発付を受けて収容されてしまった難民申請者のケースがありますし,また,異議が認められずそのまま難民不認定処分取消訴訟を提起し、仮放免で1ヶ月に1回出頭していた申請者が、訴訟係属中に退去強制令書の発付を受けて突然収容されてしまうケースも生じています。 
(2)この取扱は極めて不当です。 
  日本の難民認定制度は,難民申請をして不認定となった者に対して異議申出の権利を与えています。また,その異議も認められなかった場合には裁判において難民不認定の行政処分を争う権利も認められています。 
 このように法律そのものが一旦不認定になった申請者に対しても異議申出権を認め,さらに裁判によって争うことのできる権利を認めているのですから,その権利を有する者について国外退去を強制しようというのは,難民申請者に認められた諸権利を奪うに等しいものです。また,明らかに手続の公平性を欠いています。 
  同時に、難民申請者が異議申出をしても提訴をしても、退去強制令書によって、送還の執行まで難民申請者が収容されています。 
難民は、本国において迫害を受けた事情に鑑み、庇護国に置いて身体拘束の苦痛を与えるべきではありません。難民条約31条1項は不法入国・不法滞在を理由として処罰を科してはならないことを定め、同条2項は不法入国・不法滞在の難民に移動の自由を保障しています。これらの規範の趣旨に反する日本の現実は,日本政府が難民条約に基づいて果たすべき義務に極めて消極的であることを如実に物語っています。 
(3)このような運用は,入管当局自ら異議申出制度の機能を否定するに等しいものであり,重大な問題であると指摘せざるを得ません。また,司法的救済をも無視する結果となるもので,裁判所による行政権への抑制機能を事前に摘み取ってしまおうとするものという意味においても三権分立を侵す重大な問題性を内包しているものであります。 
 また、難民申請者、また難民申請希望者にも、自分も収容され、迫害の待ち受ける祖国に送り返されるのではないか、という恐怖を抱かせ、このことは本来、故郷に送り返されないために難民申請を行なうはずの手続が、難民申請の抑止になりかねません。 

2 そして、今回のアフガニスタン難民申請者らに対する収容・退去強制令書発付の処分は、上記の問題の、最も愚劣な現れとなりました。 

(1)東京入国管理局違反審査担当部局によって10月3日、アフガニスタンからの難民申請者が一斉に摘発を受けました。難民申請は個々の事情を勘案し、保護の必要性を判断する手続です。それを国籍が共通していることのみを理由として一斉に収容することは、個人の事情を考慮しない、国籍による差別に基づく収容です。 
 現在、アメリカ合衆国で起きたテロ事件に関連した捜査が進展しており、10月3日付毎日新聞によると、政府はアフガニスタン人の摘発強化を指示したとされます。テロ事件に関する捜査のため、あるいは何らの具体的根拠もなくテロ行為に関する予防拘禁として本件収容が行われたとすれば、本件収容は、法の目的を逸脱したものであり、政府の治安・外交政策によって身体拘束を行った明らかに不当なものです。 
 本件はまさに恣意的な拘禁に該当し、自由権規約9条1項に違反します。 
(2)まして、難民の収容は前記のような問題がある上、このように難民を国籍によって差別扱いすることは難民条約3条にも違反します。 
 更に、10月9日アフガニスタン神南民申請者の一人が難民の認定をしない処分を受けるとともに退去強制令書の発付を受けて収容されたことは、誠に遺憾です。タリバンによる迫害を理由として日本に庇護を求めている者を、タリバンの支配する本国に送還する結果となる退去強制手続を進めることは、難民条約33条1項に違反し、許されません。混乱するアフガニスタンの現状に鑑みると、このような時期に難民の認定をしない決定をして退去強制令書を発付し収容を強行することは、難民該当性を公正に判断したのではなく、政府の治安・外交政策に左右されて決定したのではないかとの疑いを抱かざるを得ません。 

3  問題の根元 

(1)1,2で指摘した諸事態は,結局のところ現状の日本の難民システムが,外国人一般の在留資格制度の中に埋没し独自の機能を果たしていないことを物語っています。 
 難民法は明らかに一般の外国人出入国管理法と別個の法体系を形成しています。 
しかし日本の国内法である入管法に、難民認定法と出入国管理法との関係についての明文がないことから、難民認定手続中の者の特別な地位が等閑に付されています。 
 そして、法務省の難民認定室が法務省入国管理局総務課の中の一室という立場でしかないことによって,違反審査部門からの独立性を、事実上失っています。 
 この機構上の優劣関係の反映として、現実には出入国管理の問題が難民問題に対して優位な関係をもって,両手続が運用上一体のものとされ,事実上難民認定システムは、独自性を発揮できないままになってしまっています。 
 不認定と同時に収容されるという取扱がなされたりするなどの実状は,この病弊のあらわれといえます。 
 そして、今回の事態は、違反審査部門による外国人管理・摘発の権能を介して、治安政策・外交政策的考慮の影響が、難民申請者の侵すべからざる権利を、蹂躙することがあることを示しました。 
(3)難民法の規範にも、国際人権法にも反するこのような暴挙を許した原因の一つのは、難民法が外国人出入国管理法に従属し、難民に関する担当機構が外国人出入国の管理機構に従属しており、難民保護の保障がない日本の実態にあります。 
 難民を一般の不法入国・不法滞在の外国人と同様に収容してはいけないのです。まして、治安政策・外交政策によって難民の処遇を左右し、また差別的扱いをしては行けないのです。このような難民法に敵対する行為が二度と行われないために、このような事を行った機関を難民申請者の処遇決定から排除することを要求します。 
 根本的に検討されるべきことは,難民認定に関する担当部局を入管から独立したものにし、また原則として違反審査担当部局の権能が難民申請者の処遇に及ばなくすることです。 

4  以上のようなことから,次のことを提言します。 

(1)難民該当性の判断過程で収容され、また退去強制令書が発付されることがないようにする根本的方策として,難民申請をしたということをもって,その者に暫定的な在留資格あるいはこれと同視しうる法的地位を保障し、違反審査担当部局の権限の対象外とすることが必要である。後者の法的地位というのは必ずしも在留資格を意味するものではなく,難民申請者であるということによって,就労の許可や医療保障を中心とする生活上の便宜が与えられることを意味する。この在留資格あるいはこれに同視しうる法的地位の付与は申請と同時に与えられなければならず,申請後には一般的な在留資格の問題(超過滞在や不法入国等)を生ぜしめないものでなければならない。この法的地位は,異議申出手続や司法手続の最終結論が出るまでは保障されなければならない。以上の地位を明確に保障するために法改正が必要ならば,直ちに法改正をなすべきである。 
(2)難民認定手続を機構的にも十分に独立したものとして、治安政策・外交政策などの配慮に影響される余地をなくすべきである。 
 具体的には 
 第一次の難民認定手続について,難民調査官は、違反審査担当部局との兼任や人事の交流はあってはならず、専門性を高めるため人事上相当長期間にわたり難民調査官としての身分を保障し,継続的な研鑽を受けること等を考慮するべきである。 
 そして基本的にはインタビューを実施した難民調査官の意見が原則として結論に反映されるように,その専門性の向上ととともに制度を改めるべきである。 
  異議申出手続についても,異議申出の機能が果たされるように客観的公正さが担保されうる機関を創設すべきである。現在担当部署となっている審判課は,同時に在留資格に関する口頭審理等を担当する部署であるため,異議の機能を果たす上で十分な体制とは言い難い。出入国管理と切り離された独立の機関によって構成されるべきである。独立した機関による認定が積み重ねられることによって,はじめて難民認定基準の向上と発展が可能となる。 
  差別のない公正な、かつ過度に厳格でない適切な難民認定基準の確立が、難民の保護に必要である。これを可能にする早急な機構改革を、要求する。

 



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