渦群

渦群



夢の中でパートカラーの濡れ場が始まった
半身が黄色い光に染まっている
荒い息が届いてくる
望遠からいっきょに超接写された肌が映る
蝋質の顔の学生服の男が演説している
キャンパスで傘で突き合いをやっている
ただの喧嘩ではない
ふたりともどこかで剃刀で人肌を裂いた経験があるのだ
突然男の唇に二つ三つ髭のある金蓮花が咲き
見得をきる
それから臍の下を二三度撫でて切腹の姿勢をとった
ダンドバッグをびしびし殴っている
(精子が弧を描いて熔岩が沸き立つ火口に落下する)
ボクサーがひらひらの鰻の稚魚になった
絡んだ蔓が脈拍と同時に収縮して締め付け合う
息遣いは激しく脂汗がでてきた
小さな熱い渦が巻いて内側に穴をあける
熱のなかに発酵していく拳のぶどうがある
窓枠に蟻の行列がいる
白ペンキの缶の中に次々にこぼれ落ち藻掻いている
その仕草のまま固まった
蟻の文字がぎっしり詰まった丸まった新聞紙が
ボッと発火する
吉凶吉凶吉凶…と燃える
家系を満たす甘い雪崩…と燃えている
凌辱するものは味方でも撃て…と燃える
菊が硫酸に浮いている
声がただれてくる
逆円錐の渦(白眼)
渦(白眼)
渦(白眼)
渦(白眼)
渦(白眼)
百平方メートルの皮膚がいっせいに鳥肌立つ
媾合の部分を隠した円形が躍り
寝床が煮えたぎるほうへ傾くと
泡立つ大鍋の底から
富士山が浮き出してきて
中腹に舌の裏が拡大されてきた


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