逝く夏(1996.8.13)

逝く夏(1996.8.13)


街が死んだとしよう
その骨の構造体のなかで
生き物がうごめいているとしよう

夕日は西に黄色絵の具を溶かして
生き物は見下ろしている

街の血は地面に染みてしまった
一人の釣り人も
歌う少女も
この書き割りにはいない

千代紙に染みる墨文字そらの母
なんて
耽って
いっぱい悪いことをしたくなる
いっぱい
写経する
耳なし僧に猥画とか

火照ったものがなにもないとすると
街が死んだとしよう

夏の旅の色合いが
細かい格子縞の
水路になって僕の手のひらに濯ぐ
濯ぐその水
の街が
無音になるとしよう

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(かすかな瑠璃(1996.8.20))次頁(ミミズです(1996.8.6))

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