ヴァルカン船 
-Le Bateau Vulcan- 

No.2 1998.3.24.

ヴァルカン社プロデュース演劇公演

マダム・ミロワール

1998年3月13日-15日
於:SESSION HOUSE

マダム・ミロワール

ミロワール(鏡)には魔力がある

 太古より鏡は神秘的、魔術的な力を持つものとみなされてきた。鏡がなければ、人は自分の姿を知ることができないからだ。もしも鏡が贋の映像を見せているのだとしたら、人はその裏切りを知ることはできない。
 ジャン・ジュネの唯一のバレエ台本、『アダム・ミロワール』の存在を知ったのは、リチャード・コーの『ジャン・ジュネの世界』であった。(ジャン・ジュネは戦後フランスで泥棒詩人とも、同性愛作家とも言われ、サルトルにより、高く評価された文学者。戯曲作品としては『女中たち』が名高い。)
 それは、鏡の迷宮に入り込んだ「水兵」の物語である。彼が見つけた鏡は、「水兵」の動きを盗み、歪んだ形で反復する。やがて「映像」は鏡から抜け出し、「水兵」と性的なダンスを踊る。その時、ドミノ仮装衣をつけた人物が現れ、鏡の中の虚無の力により、「水兵」を刺し殺す。
 ジュネ自身の記述によれば、初めに思いついた題名は『マダム・ミロワール(Madame Miroir)』であったという。女性要素を表す「madame」のmを脱落させることによって、最初の男性「アダム」に変転させ、『アダム・ミロワール』と決めたのだという。
 男性三人によって演じられるこの台本には、ジュネの作品の多くにみられる「三位一体」の典型的な形が顕著にみられる。私はこの聖なる三角関係をあえて崩してみたいと思った。三人の登場人物にさらにひとりの女性を加えることによって、重層的な舞台が創れないものか、と。
 今回の演劇『マダム・ミロワール』は、両性具有的な少年(少女)の仮想の中に展開する鏡の幻想をテーマとしている。錯綜した世界の中で、数枚の鏡と四人の人物が、夢のように螺旋形を描く。
 鯨津朝子のグラフィックインスタレーションによる作品は、白い矩形に描かれた黒の曲線、あるいは黒い矩形に描かれた白の曲線によって構成されている。その動線は虚無の空間に続く果てしない螺旋となって、舞台空間を覆う。めくるめく螺旋の中でジュネの想いが、永劫回帰の神話のように輝き出すだろう。(photo: Yuichi Yamamura)

CAST

少年(少女) / 柳田伊久子(劇団NLT)
水兵 / 鈴木秀城
マダム・ミロワール / 小林未来
アダム・ミロワール / 笠井禮示

STAFF

構成・演出 / 長谷川佳子
美術 / 鯨津朝子
美術アシスタント / 藤本ゆかり
振付 / 野和田恵里花
音響 / 藤田赤目
音響操作 / 佐野香代子
照明 / 宮向 隆
衣装 / 羽生香苗
装置 / 清水徹三
舞台監督 / 大谷有史
制作 / 沢田 博・長尾有里子

ヴァルカン船 -Le Bateau Vulcan- 
No.1 (1997.9.24)