<1.1.2.2)機械式時計の速度調節に関る機構


発条のテンションはほどけるに従って弱くなるので、なんらかの機構により 速度を制御してやらなければなりません。その役目を担う機構を`レギュレータ' と総称します。初期の時計では単なる空気抵抗板を使っていたので一日に何十分も 狂うのが当たり前で、分針というものはなかったといいます。1660年から1670年 頃になると、オランダのクリスチャン・ホイヘンスが主として据え置で使用 されるクロック用の振り子と携帯されるウォッチ用のヒゲゼンマイを発明、時計 の精度を飛躍的に向上させました。ヒゲゼンマイを応用したレギュレータは、 `脱進機'と`テンプ'から構成されています。脱進機とは発条のほどける回転運動 を往復運動に変換してテンプに渡す役割を持つもので、さまざまな方式によるも のが実用化されていますが、今日では`レバー脱進機'と呼ばれるタイプのものが 一般的です。それは、動力源の発条により駆動される輪列(かみあった歯車)の 最後尾に取り付けられた`ガンギ車'と呼ばれる左右非対称な歯をもつ歯車と、 2つの爪を持つ`アンクル'により構成されていて、ガンギ車が回転するとアンクル の一方の爪をはじき飛ばし、アンクルが少し回転すると他方の爪がガンギ車の 歯と噛み合ってブレーキをかける。ガンギ車が更に回転すると今度は今噛み 合っていた爪をはじき飛ばし、アンクルをさきほどと反対向きにはじき飛ばす、 という運動を繰り返します。このようにして往復運動の形に変換された動力は、 テンプへと伝えられます。テンプとは、精密にバランスを調整された回転機構を 発条(といっても動力用のものよりずっと小さくて繊細)でつるしたもので、 左右に交互に回転します。原理としては、バネの途中に錘をつけたものと等価 だと考えることができるでしょう。
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クォーツ式時計の台頭により一時はその存続が危ぶまれていましたが、今日では 社会のハイテク化の反動としてか、その機構、その連続した運針などが人間的 暖か味を持つとして見直され、我が国でもSEIKO、CITIZEN、ORIENTなどにより 製造が再開されました。