(1.3.2)自動巻


機械式時計は機械的なエネルギーによって動いているので、それを供給して やらなければ動きません。手捲式ではリュウズを手で捲くことにより香箱と いう歯車付ケースの中に収められた発条を巻き上げ、その金属のたわみとして エネルギーを貯えます。リュウズを捲き忘れると、そのうち時計は止まって しまいます。今日ではリュウズを捲くのが嫌ならクォーツ式にするという選択も ありますが、機械式しかなかった時代の人にとって、リュウズを捲かなくとも 永久に動きつづける時計は一つの夢でした。最初の自動巻機構は、1770年、 スイスのル・ロックルに住むアブラハム・ルイ・ペルレにより開発されました。 これは既に、今日主流となっている、360度自由に回転する回転錘の運動により エネルギーを取り出すメカニズムを備えていました。しかし、時代が時代なので この機構が搭載されたのは腕時計ではなく、懐中時計でした。懐中時計は通常、 ポケットに入れられているため、腕時計ほど多くの運動モーメントを得ること ができません。そのためこの方式の懐中時計は普及することなく終わりました。 それから10年後、ブレゲは上下運動する錘を採用したメカニズムを作りました。 こちらのほうが懐中時計に適していたようですが、これもあまり普及することは ありませんでした。今世紀に入り、腕時計が普及しはじめると、忘れ去られよう としていた自動巻機構に復活の機会が訪れました。1920年、イギリスの時計職人 ジョン・ハーウッドは、ルイ・ペルレのものと同じく回転錘による自動巻機構を 備えた腕時計を開発しました。ただしこれは回転錘の回転する範囲が130度に 制限されていました。これを半回転式といい、それに対してルイ・ペルレの時計 のように回転錘が360度回転するものを全回転式といいます。その後1931年、 ROLEXが全回転式の自動巻機構を採用し、それ以後この方式が自動巻の主流と なり、今日に至っています。最近SEIKOが開発した発電機構、AGS(英語名 SEIKO KINETIC)も、同じ様に全回転式の回転錘を備えています(ついでながら、 一般の自動巻では回転錘=ローターですが、AGSではローターというとより発電機 に近い、高速回転部分を意味するようです)。