(1.3.6)トゥールビヨン


機械式時計、ことに持ち歩いて使用されることの多いウォッチは、時計の置か れている向き、すなわち姿勢による影響を免れることができません。これは、 機械式時計の内部に高速で作動する部分があるためです。そのため、ある向きで 置かれると進み、違う向きで置かれると遅れる、という現象が起きてしまいます。 一般的な機械式時計では、姿勢の変化による遅れ進みを加味して、一般的な使い方 をされた場合にもっともよく合うように調整するしかありません。しかし、もっと 積極的に、こういった姿勢による影響を打ち消してやろうと考えた人がいました。 アブラハム・ルイ・ブレゲ(Abraham Louis Breguer, 1747 - 1823)です。彼の発明 したトゥールビヨン(Le Tourbillon)脱進機は、姿勢による影響を受けやすい、 高速で動作する部分、すなわち脱進機とテンプをまるごと1個のかご枠(ケージ)に 収め、そのメカニズム自らの力により回転させて、姿勢による影響を平均化してし まうことを基本原理としています。もしこの系の回転にひっかかりがあったり不要 な振動が発生すると、その内に収められた繊細な部分に大きな影響を及ぼし、精度 はかえって悪くなってしまいます。よって、この機構の製造、調整には極めて高度 の技術が必要とされ、トゥールビヨン脱進機を内蔵した時計を極めて高価たらしめ る理由となっています。