船に乗って波照間島に行く日。午後の便でむかうので、それまで住宅街や観光地らしき場所(博物館や宮良殿内など)を見て回る。
とくにノリちゃんとわたしのなかで最高だったのが「宮良殿内」。
100円か50円で入れるのだが、「え、うちじゃん」とおもった。だってふつうに暮らしてるんだもん、その建築物に。ふつう住んでないよね。管理してる(住んでる?)おじさんと庭で色々お話をしてくつろいでしまった。あの草のでんぷんで戦時中の飢えをしのいだとか、あの草は煮詰めたら毒になるとか。ピンクで小さなユリのような可憐な花が咲いていたので「あれはなんて花ですか」と聞いたら「ずっとあるなぁ…」ってよく分からない答えが帰ってきた。
その後わたしたちの中では宮良殿内イコール「おじさんち」になった。
住宅街に迷い込む。街がやさしいのはどうしてだろう。家のつくりがオープンなせいだろうか。壁の色が白とか水色とかに明るいからだろうか。
お昼もすぎてお腹がすいたので、せっかくだから八重山そばを食べることにする。
少しかわったふんいきの店に入る。店員もなんかすこし変わってる。なんていうか…役者とか歌手とかをめざすジャニーズ系でもシャイ、みたいな。店のなかもアートを意識してる様子だ。壁に描かれた模様などが。
初めて食べる八重山そば。食べ終えてぼんやりとしてると、奥から店主らしきおじさんがやってきて「どこからきた」とか「音楽は好きか」とか話し掛けてきた。
そして、いきなりギターを弾き始めた。2曲目くらいで弦が一本切れてしまったが、おじさんはひるむ事無く、グラスをつかったりして華麗な演奏を続けた。
わたしたちはうっとりと眠くなり、いい気分だった。
「どう?」と聞かれたから「眠くなりました。子守歌みたいで」といったら「そう言われるのが一番うれしいよ」といってくれた。なんだかわたしの言い方は誤解されそうだったけど、ちゃんとした意味として伝わったのでよかったなぁとほっとした。 客はわたしたち、ふたりだけだった。
高速船に乗るため、港へむかう。島にいく人はそれほどいないみたいだ。
もっと並ぶかと思ってたのに。東京はどこにいっても並ぶような気がするから、そんな考えに捕われていたのだろう。
船は荒々しく進む。ワクワク感が高まる。
と、船のモーター音が止まった。すれ違う船の運転手とこっちの船の運転手がなにやら楽しく話をしてる。笑いながら手をふって。波の調子はどうだい?とかって話してるんだろうか。時間に追われるように仕事をしていない感じでいいな、と思う。
石垣島の港の海はモスグリーンだったが、離れるにしたがって、さまざまに変化していく。メロンソーダの色、クリームソーダの色、バスクリンの色、ブルーハワイの色…。こんな色の海深く生きている魚たちのことを思うと気が遠くなる。どんな気持ちで漂っているんだろう。その風景は、きっと綺麗でそして恐ろしいだろう。腹の底がぞわりとした。わたしは、ダイビングとかしないけど、たぶん潜るようなことになったらどうしよう…美しいものは度を越えると恐ろしい。
そんなことを考えていると、物凄いものを見てしまった。
それはトビウオ。15秒以上は飛んでたね。トビウオって本当に飛ぶんだ。直線でぶーん、とものすごい速さで。高波につっこまなければもっともっと飛んでいったんだろう。これは刺さる。確実に刺さるよ。まさに飛ぶ包丁。銀の凶器。
妙に感動した。世の中には私の知らない、すごいことがまだまだあるんだ。
だって、魚があんなふうにとぶんだもん。感動した。かなり。こんなふうにあたりまえと思ってたことが、新鮮に感じられると人生楽しい。
途中、大小さまざまな島が見えた。あの島の木の生え具合とか好きだなぁ、と思ったらそこが「波照間島」だった。
降り立ったとたん、何もかもが輝いていると感じる。どうしたことだろう。
地面が白っぽくて乱反射してるから? でも、それだけじゃないような気がする。
迎えに来てくれた民宿のおじさんのワゴン車に乗り込む。
潮風にやられているらしく、サビサビだ。
わたしたちの他には女の子が一人だけだった。
民宿に着くと、外のテーブルのところに若者たちが4〜5人座っていた。
みんな新聞を読んだり、手紙を書いてる。でも、なんとなくわたしたちを待っていたような雰囲気だ。待っていた、というか待ち構えてたみたいな…気のせいだろうか。それぞれの若者は(まさに若者、と言う感じ。わたしがオババみたいだけど…。)
「船で来たのですか?」などと話しかけられ「そうです」と、当たり障りのない会話をする。生徒会の匂いがする。ちょっと苦手かも、と思う。
部屋は、「いなかのおじさんち」みたいだった。
麦茶と庭で取れたトマトがでてきそうな…。
ここに7泊は居すぎだろうか。さっきの若者たち…ちょっと苦手だなぁ。
なんにもないのに、そんな長くいてどうしようかねぇ、などとノリちゃんと相談する。おじさんに4泊くらいにしてもらおうか、ということにしてそのあと、どこか別の離島に行くことにした。
でも、おじさんは忙しそうなので後で言うことにする。
窓の網戸が斜めになってる。
木の枠には緑のペンキの上に白いペンキ塗ってある。
ところどころ禿げててガタガタいう。
でも、そういうの好きだと思った。
扇風機が2台。ブンブン回ってたので一台パチンと止めた。
(扇風機はひとり1台あてがわれていたようだった。後で知った。)
夕ご飯を食べる。外のテーブルにみんなで座って。
たらふく食べた。泡盛も飲んだ。
生徒会の様だと思ったのはひとりだけ、生徒会長のような男の子がいたからだった。他の人たちはそうでもなく、日に妬けた好青年だったり、ほねやすめサラリーマンだったりした。たいていの人はひとりできてるみたい。
港から一緒だった女の子もひとりでキャンプしにきたらしい。
恐くないの? と聞くと「誰かいるから大丈夫。暗いのも慣れたし」という。
びっくりして、うわ〜危なくないの? とか聞いてしまうと「わりと平気なんだよ。雨とか降るとさみしいけどね」だって…。すごいなぁ。
でも、やっぱり女の子ひとりなんてあぶないよ〜とか言うと「平気、平気、やってみたらわかるよ」って言われた。でも私は弱虫だからだめだなぁ、きっと。
ご飯の後、みんなで浜辺に星を見にいくことになった。
10人ぐらいでゾロゾロ歩いていく。このくらいの人数になると、誰かがリーダーのようになり人数を確認したり、全体に気をくばる。みんなひとりで旅で来てるのに、リーダー的性格の人はどこにいってもリーダー業を発揮するのだろう。
わたしは団体行動になると、ふらふらしちゃう性格でリーダーには嫌われがちだ。だけど、ここではみんなが気分よくふらふらしてるのでたのしい。
たとえば、わたしが「ああ〜蛍だ〜」としゃがみこむとみんなも「どこにどこに」
とか「これは、昼間みるとしゃくとりむしみたいなんだよね〜」とかわざとじゃなく付き合ってくれる。興味の対象が近い、ということだろう。
月が明るい。三日月なのに明るい。自分の影や電信柱の影がよく見える。
まさに月影。流れ星も見た。「うわ〜」とか叫んでいたら「流れ星なんて、見慣れたよ。もう、めずらしくない」と民宿ヘルパーの男の子が言ってた。
今日の星の見え方はたいしたことがないらしい。新月の夜なんかにはどうなってしまうのだろう。
輪の形に欠けた貝殻を指にはめている女の人がいて、素敵だった。その感覚も。
明日真似して探そうと思う。
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