PC処世術 - ハードディスク編

ハードディスク - 容量と転送速度

 CPUの進歩と並んで、著しい性能向上が見られるパソコンの関連機器に、ハードディスク(HDD)がある。当初は、パソコンにとって「ハードディスクがある」というだけで十分なインパクトがあった。1980年代末期〜1990年頃にかけて、HDDがPCに搭載されることが常識的になってきたが、その当時の容量は20MBや40MBで「大容量」という世界で、価格も強烈であった。転送に用いられるインターフェイスも SASI というSCSIの前身になったとされる規格で、速度的にも 3MB/s 程度であった。
 それが2004年現在ではどうだろう。120GBや160GBという容量のHDDの搭載が常識的になっている。ノートPCにだって数十GBという容量のHDDが搭載される時代である。HDDの容量は1990年頃から実に数千倍にまでなっている。
 そして転送速度についても最近ではシリアルATAが流行しつつあり、(額面で)150MB/s という速度になってきている。こちらは容量ほどではなく、数十倍程度に留まっている。

 そこで、過去の容量と転送速度の変遷をプロットしてみたのが図1である。縦軸はデシベルとなっており、基準の0dbは 容量20MB, 転送速度3MB/s とした。
 容量の増加は激しく、年率5.1デシベルというスピードである。これはすなわち、一年で容量が約1.8倍、二年で約3.2倍、五年もすると約19倍になることを意味している。この進化の速度は、CPUの進化の速度4.3db/yearよりも更に速い。パソコンの進化というとCPUのクロック増加に目が行きがちだが、実はHDDの進化のスピードのほうが速かったのである。
 考えてみれば、10MHz程度であったCPUは3GHzにもなったが、10MB程度であったHDDは160GBにもなっているのである。筆者が検討したPCにまつわる機器の中では、HDDの容量の増加スピードが最も速い。
 したがって、パソコンを購入してから真っ先に不足を感じることになるのはハードディスクの容量であってCPUのパワーではない、と経験的に感じておられる方も多かろう。HDDはPCの買い替え感を醸す原因の最右翼であると考えられる。「PCの速度的にはまだ我慢できるが、容量が足りなくなってきた」という悩みを抱える方も、少なくないのではないか。速度不足は忍耐で乗り切ることが出来ても、容量の不足は蓄えたデータを捨てる以外に乗り切る方法が無くいかんともし難いという点も要注意である。

 一方で、転送速度のほうは年率2.5デシベルであり、一年で33%程(1.33倍)の進化のスピードである。容量の増加スピードと比較すると対数で約半分、すなわち真数では容量のほぼ平方根(ルート)に比例する。つまり、容量が2倍になると転送速度は1.4倍,容量が4倍なら転送速度は2倍になるという進化のスピードである。これは、記録密度の増大に伴ってデータの線速度は増加するが、シークにかかる時間などはそれほど変わらずボトルネックになっているめだろうと推察される。つまり面的に増加する容量に対して速度は線的なものに留まる、ということである。

 さて、では市場で売られているハードディスクの容量と(I/Fの)転送速度にはどの程度のレンジがあるか、見てみたい。まず容量であるが、2004年2月現在、巷で販売されているHDDの容量は40〜300GBと、実に7.5倍(17.5db)もの開きがある。17.5デシベルという値は、進化のスピード 5.1db/年 で割ってみると、3.4年である。すなわち、現在販売されているハイエンド300GBのHDDがローエンドに成り下がるまでの時間は3.4年ということであり、また300GBのHDDはローエンド40GBのHDDよりも3.4年長生きできるということだ。
 この計算は、CPUでいうところの賞味期限に相当する値を求めたものだが、CPUがせいぜい2年程度の賞味期限のものしか販売されていなかったのに対して、HDDは3年を超える賞味期限のものが販売されており、容量の選択の幅は案外広い
 一方、転送速度の方はというと、現在販売されているHDDの(I/Fの額面の)転送速度は100〜150MB/s であり、1.5倍程度(3.5db)しか範囲がない。時間に直すと、1.4年分の選択幅である。HDDの転送速度の観点ではあまり選択肢がないのである。

 このような点に鑑みると、PC導入時に「どの程度の容量のHDDを購入すべきか」という命題に対してある程度答えを導けるかもしれない。とにかく価格優先で小さい容量のHDDを導入すると、早晩容量不足からPCが買い替え感を醸すことになるだろうし、あまり高価で大容量のHDDを導入しても、その容量が真価を発揮するころには転送速度の不足からやはり不満を覚えるようになりがちである。
 安物買いのゼニ失いにはなりたくないし、かといって容量あたり単価の安い大容量HDDを導入して、徒らに遊休資産として遊ばせておくのも勿体無い。このあたりのコストパフォーマンスと、どのHDDが買い得か、については追って詳細を検討してみることにしたい。
 また、何故世間のHDD容量増大につられて自分のHDDまで不足するのかという点は、HDDにまつわる大きな謎である。この辺りについても本サイトのどこかで追求してみたい。(21. Feb, 2004)

HDDのコストパフォーマンス-1

 前稿で、市販されているHDDの賞味期限の範囲は広いと書いた。これを視覚化したものが、図2である。赤で示されているのが、2004.2月現在販売されているHDDの賞味期限である。40GBは既にローエンドであり、残された時間は0年、すなわち賞味期限を迎えている。一方で、300GBのHDDがローエンドになるまでの時間は 3.4年である。
 一方で、HDDの命数(寿命)はどうだろうか。これはHDDの用途や個々人の主観が入るところであるが、現代のパソコンを使う上で最低限必要なHDD容量を10GBとおくと青で示したラインとなり、この容量を20GBとおくと緑で示したラインとなる。

 こうしてみると、300GBのHDDは 4.6〜5.8年ほどの寿命であり、この寿命で価格を割ってみると年あたりに投入することになる金額が分かる。筆者はこの値を以ってHDDのコストパフォーマンスを評価している。
 価格÷命数でのコストパフォーマンス評価においては、命数の基準に個人の主観が入るところではあるが、かえって個人の使用状況を反映できる点も特長である。

 HDDのコストパフォーマンス指標としては、「容量あたり単価」が一般的に用いられており、一見妥当なように思える。しかし後述するが、筆者としてはこの指標には重要なポイントが見落とされていると思っている。

 図3は、2004年2月時点で販売されているHDDのコストパフォーマンスと容量の関係を示したグラフである。オレンジ色は、一般的に用いられている「容量あたり単価」を示すプロットであり、100GB以上のHDDではほぼ横ばいである。つまり、「容量あたり単価」という指標に込められているメッセージは、「大容量HDDにしときなさい」ということのように読めてしまう。
 一方で、筆者が提唱する「価格÷命数」の評価によるコストパフォーマンス(使用年数あたり単価)では、100〜160GB程度のところに最適値が存在するように見え、むしろ大容量HDDでは割高感があるようにも見える。

 この差は、「GBあたり単価」においては「容量あたりの価値は年々下落する」という重大な事実が(ワザと?)見落とされていることに起因する。すなわち大容量HDDの場合、導入時からHDDが満杯になるまでの時間が長く、容量の大半は長い年月の間遊休資産となる上に、その年月の間に資産価値は暴落するので、購入した時点でいくら容量あたり単価が安くても実は損しているのである。
 もちろん、大容量HDDを必要としている方は大勢居る。このような方の場合は、命数の基準となる容量も大きくなるので、図3でいうところの青や緑の線が変化する。その結果、大容量HDDを導入したほうがトクな場合もある。どの程度の容量がおトクであるかは個人の用途によってまちまちであるが、「とにかく大容量買っておけば損しない」というアドバイスは、初心者やPCにさほどの容量を求めない人にとっては、いささか迷惑なのかもしれない。

続く..(22. Feb, 2004)

HDDのコストパフォーマンス-2

 さて、前稿ではHDDの賞味期限、命数、そしてコストパフォーマンスについて述べた。ここではまず、これがどの程度当たるものか検証してみたい。2004.2月現在で、賞味期限を迎えつつあるHDDは、容量40GBのものである。そして、現在販売されているHDDで最大の賞味期限を持ったものは、300GBで3.4年ほどの賞味期限であると述べた。
 そこで、4年前の状況を調べて比較してみたのが図4である。横軸はHDDの賞味期限、縦軸はコストパフォーマンス(=価格÷命数)である。コストパフォーマンス算出時の命数の基準は2000年で3.2GB, 2004年で20GBとした(筆者の感覚値である。筆者はPCを半実用・半趣味で使用しており、現在HDDには主要アプリとコンパイラ群、辞典類と地図等がインストールされており、最近は多少ジュークボックス的使い方もしているという程度である。HDDビデオレコーダー的使い方はしていない。)。
 4年前、すなわち2000.2月の段階で販売されていたHDDの容量は 4.3GB〜40GBであった。ここから計算すると、当時のハイエンド40GB HDDは、ローエンド4.3GBと比較して 19.4デシベル(=20*log(40/4.3))程多い容量であり、5.1デシベル/年で割ると3.8年ほどの賞味期限のHDDであった。そしてそこから4年後となる現在(2004.2)では、40GB HDD はローエンドとなり、正しく賞味期限を迎えているようだ。
 また、4年前と比較して大容量系HDDでは同等のコストパフォーマンスではあるものの、小容量系のコストパフォーマンスは高まっており激安PCの価格低下を支えている様子が伺える。

 そして、2000年も2004年も、どうやら賞味期限2年弱のところに最適点がありそうだ。もちろん、これは筆者の感覚に基づく命数から求めたコストパフォーマンス値によるものであり、個人差はあるのだが、含蓄は深い。というのも、丁度賞味期限2年程度のものは、1プラッタ程度で実現できている容量だからだ。
 筆者の乏しい経験ではあるので一般的にはどうか知らないが、どうも最新鋭大容量HDDは故障に出くわしやすいような気がしている。大容量HDDは、筆者のような使用方法では命数が大変長い。ということは、同じHDDを使用する期間が長いということであり、HDDが容量の命数を迎える前に機械的寿命が尽きて最期を看取ることになる可能性が高いということかもしれない。
 また、プラッタの枚数が多いということは、HDD内の部品点数が多いということでもあり、すなわち故障可能性のある個所が多いということでもあるのかもしれない。あるいは、電力を多く消費して発熱も多く、機械的寿命が短めなのかもしれない。いずれにしても、筆者としてはプラッタ枚数がやたら多い大容量HDDにはよほどの必要があったり、短サイクルで買い替える覚悟が無ければ手を出しづらいと考えている。
 パワーユーザーからは「RAID(ミラーリング)にすれば良いのだ」という声が聞こえてきそうだが、RAIDに苦い経験を持つ筆者としては慎重になってしまう。筆者はかつてRAID5での惨劇に遭遇したことがある。6台の(当時)最新大容量SCSI HDDからなる RAID5 で1台のHDDがクラッシュしたときのことだが、警報が鳴り響いて自動的に予備のHDDに電源が入り、レストアが開始された。そこまでは良かったが、こともあろうかレストア中に別の一台が昇天したのだった。同時期に購入して同じ頻度で使っていれば、同じ時期に壊れるのは考えてみれば当然のことだ(ストライピング以外のRAIDを組むときには、HDDのエージングを励行したい)。ストレージは壊れにくいに越したことはない。
 そして、寿命を全うするまでの時間には適正な値があるのだろう、と考えるに至っている。したがって、徒らに長い命数を持ったHDDを選択することは、コストパフォーマンスの面からもデータ保全の観点からも、必ずしも得策とは思えないのである。

 HDDはいつかは壊れる消耗品である。PCを使った活動の産物が記録されるストレージの選択には慎重を期したい。そしてその選択は、必ずしも高価格な製品を選ぶことが最善ではなく、コストパフォーマンスを最大にするところに置くのが良いことが図らずも示されているようだ。(25. Feb, 2004)

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